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【読書感想】『だれかの木琴』井上荒野

【説明】
主婦・小夜子が美容師・海斗から受け取った、一本の営業メール。それを開いた瞬間から、小夜子は自分でも理解できない感情に突き動かされ、海斗への執着をエスカレートさせる。明らかに常軌を逸していく妻を、夫の光太郎は正視できない。やがて、小夜子のグロテスクな行動は、娘や海斗の恋人も巻き込んでゆく。息苦しいまでに痛切な長篇小説。

【感想】
池松壮亮・常盤貴子主演で映画化もされているこちらの小説。
井上荒野さんの小説が好きなので読みました。
あらすじから想像していたのとは違う手触りの小説でした。

単なるストーカー話ではない

主人公の小夜子は、夫と中学生の娘と3人暮らしの普通の主婦。
夢のマイホーム購入とともに美容院を変え、そこでたまたま担当についた美容師・海斗と出会います。
てっきり小夜子が海斗に恋をして、ホストに貢ぐような感覚でおばさんの片想いになだれこんでいく話なのかなーと(それはそれで読みたい)思っていたのですが、小夜子自身は海斗その人自体にはさほど興味関心がなく、親しくなりたいとか好きになってもらいたいとかは思ってなさそう。
初来店後に受け取った営業メールに吸い寄せられるように、頻繁に店に通ったり彼の家に押し掛けたりするのですが、思い描くのは夫の光太郎との若かりし頃の思い出だったりします。
光太郎とはいまだにセックスする仲で、決して冷めてるわけではなさそうなんだけど、この夫婦はカップル時代にはめちゃくちゃ身体の相性がよくてお互い貪るように行為に励んだ、って過去があったりもするので、一般的に、とかではなく、本人たちの中ではやはり関係が変化しちゃってて、渇きを感じていたりするのかなーと思いました。光太郎も、妻相手に夜が上手くいかなかった後、街で買った女に小夜子の面影を探したりして、夫婦生活をつつがなく遂行できるように努力してるような描写もあり、このいびつなバランスで保たれてる人間関係が、いかにも井上荒野さんの小説っぽい!!好き!!ってなりました。

美容師さんのリアル

わたしは美容師さんではないので、どの程度真実に近いかはわからないのですが、郊外の暇な店に勤めるいち美容師の若い青年・海斗の描写が、ものすごくリアルに感じました。
郊外なので、メインの指名客は近隣に住む主婦層で、上司は微妙な外見のおっさんで、もっと都会に出て成功したいけど現状そうもいかない・・って感じがうわーめちゃめちゃありそうだなーと、興味深く読みました。
私は美容院では力強くシャンプーしてほしい派なので、歴代男性美容師さんにお世話になってきたのですが、あまり頻繁に行きすぎると美容師同士でネタにされるのかなぁ・・と思ったり思わなかったり。


ちなみに・・この小説を読んでから映画もアマプラでレンタルして観たのですが、
池松壮亮の海斗はすごーく今時の若者っぽくて良かったです。
中学生のかんな(小夜子の娘)への接客とかも、リアル中学生に人気のあるお兄さんっぽくてすごく自然に感じました。
彼女の唯は佐津川愛美ちゃんが演じていて、小説で読むよりも唯っぽい!!と感動しました。
何度でも読み返してしまう、中毒性のある一冊です。

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