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育休中にリスキリングできるのか?

国会代表質問でのやりとり

参院代表質問における岸田首相の「育休中リスキリング」発言が批判を浴び、後日ご本人が釈明したようだ。

 岸田文雄首相は30日の衆院予算委員会で、産休・育休期間中の女性に対してリスキリング(学び直し)を支援する考えを示した27日の自身の発言に、SNSなどで批判が強まっている問題について、釈明した。
 2児の母親でもある自民党の鈴木貴子衆院議員から、発言の真意を問われた首相は、「私自身も3人の子供の親。子育てが経済的、時間的、精神的に大変だということを目の当たりにしたし、経験もした」と述べた。その上で「発言で申し上げたのは、ライフステージのあらゆる場面で学び直しに取り組もうとする時、本人が希望した場合に後押しできる環境整備を強化するのが大事だという趣旨で申し上げた」と釈明した。
 「育休の大切さも分かっているからこそ、政調会長の時、産後8週間以内に取得できる『パパ育休』を含め育休の拡充に取り組んだ」とも訴えた。  一方、鈴木氏は「男性が育休をとっても、『取るだけ育休』という実態がある。そうした誤った認識を持っている人こそ、リスキリングが必要だ」と、指摘した。
 首相は27日の参院代表質問で、自民党の大家敏志参院議員が、産休や育休期間中の女性に対するリスキリングの支援を提案したのに対し、「育児中など、さまざまな状況にあっても主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししていく」と答弁した。
 これに対し、SNSでは「子育て中に学び直しなどできるわけがない」「子育てをしたことがない人が語る理想論」など、子育てや育児の当事者意識に欠けた発言だとして、首相答弁への批判が殺到。野党からも批判が出ており、「異次元の少子化対策」「次元の異なる少子化対策」を掲げ、少子化対策を肝いり政策ととらえる首相にとって、看板倒れになりかねない事態となっている。
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202301300000321.html

よりによって事前に準備できる自民党の代表質問で、突っ込みどころのある質問・答弁をしてしまったのは迂闊だったとは思うが、SNSでの突っ込みも岸田さん批判ありきの雑なものが多いように思える。

「どうせ子育てをしたことがない」なんて言い方は、仮にその通りだったとしても証拠はないし(後日追記 首相奥様のインタビューによると、奥様はワンオペ育児だったとのことが「発掘」されたので根も葉もない話ではなさそうだが)、中には首相の長男を引き合いに出した人格攻撃のようなものもあり、これはあまりにも品がない。

リスキリングの範囲とは?

さておき、いわゆる今回の「育休中リスキリング」については、言葉の定義について認識を合わせないと空中戦になってしまうと思う。

そもそもリスキリングとは?
Google検索結果に出てきた短くまとまった説明は以下の通り。

リスキリングとは、働き方の変化によって今後新たに発生する業務で役立つスキルや知識の習得を目的に、勉強してもらう取り組み

件の代表質問では「学位をとったり」というワードが飛び出していたが、学位を取るためには通信制であっても年単位で大学の講義に出ないといけないわけで、そりゃ「育児しながらなんて無理」って突っ込まれるよねと。

だが、上述の「スキル・知識習得」を広い意味で解釈すれば、スマホで学習できる資格試験対策とか、オンライン英会話でもよいわけだ。
質問した議員や首相はどのようなイメージを持っていたのだろうか?
もし具体的なイメージがなくて、フワッとしたイメージで適当に答弁していたのであれば、やはりいただけない代表質問ということにはなる。

産休・育休

また、産休・育休とひとくくりにしているのもイマイチだ。

女性の育児休業は産後8週間の産休の後、子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで申請した期間、休業できます。 男性の育児休業は、子どもが産まれた日から、子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで申請した期間、休業できます。 女性と男性、どちらも会社に申請を出し、取得条件を満たしていることが必要となります。

こちらの説明の通り、産休は産後8週間、その後が育休だ。
まずは産休期間。特に1人目の産後は初めてのことだらけなので、精神的にリスキリングの余裕がある人はほとんどいないだろう。

一方の育休。こちらについては子供が1歳の誕生日を迎えるまでが対象となり、父親も取ることができる。
私も2人の子供それぞれに3カ月ずつの育休を取得した。
父母同時に取ることもできる。また、父母ともに取得すると「パパ・ママ育休プラス」という制度で1歳2か月まで延長することができる。

育休の1年間で可能なリスキリングの実態

ということで産休と育休は言葉は似ているが、状況は全然違う。
育休も含めた1年という期間の中で、広い意味でのリスキリングであれば十分に可能だろう。

「広い意味での」といったのは、これまで積んできたキャリアと全く方向性の違うスキルを育休に身につけるのは、やはり厳しいと言わざるを得ないからだ。

非ITパーソンが、「今後はDXの時代なのでプログラミングスキルを育休中に身につけよう!」と思ったところで、果たしてどれくらいできるだろうか?
ただでさえプログラミングは自学自習の敷居が高い。
スクールに通っても挫折する人は結構な数でいるようだ。
それを乳児を抱えながらやりきるというのはちょっと想像が難しい。

例えばこんなことだったら具体例がある。
私の以前所属していた会社で当時の部下が育休に入り、育休中にSalesforceの資格を取得してその後復職した。
彼女は元々Salesforceに知見があり、その知見をブラッシュアップするために育休中の期間を利用して資格を取得したのだ。
元々自分で学ぶことが得意なメンバだったし、すでに得意なことをさらに伸ばすという方向性だったため、育休中のスキルアップに成功したわけだ。
(もちろん容易なことではなく、本当にすごいことだと思う。)

まとめ

キャリアアップにつながるようなリスキリングを育休中にどこまでできるかについては多くの期待をしないほうがよいが、中にはできる範囲でスキルアップに取り組み成果を出す人はいる。
そういう人たちを支援する仕組みというのは大いに結構なことだと思う。

一方で、子育てによるキャリアの断絶を防止する施策(それによって結果的に少子化を食い止める施策なのかな?)としては、効果のほどはあまり期待できないかもしれない。
育休中のスキルアップは隙間時間に頼らざるを得なく(そもそも育休中のメインタスクは育児である)、そういった時間の有効活用ができる優秀なビジネスパーソンは、育休を経てもキャリアの断絶なく復職しているだろうからだ。

よくよく考えてみれば、リスキリングの重要性は育休中に限った話ではない。転職しないにしても、常に自分のスキルを棚卸して、陳腐化しないように磨き続けたほうがよい。今ある仕事が10年後なくならないにしても、今と全く同じやり方で通用するとは限らないのだ。
「学び直し」というと、今までの経験をすべて捨てないといけないように感じなくもないが、時代の流れに対応するものであれば現在のスキルの延長線上のものでも全然構わないと思う。

そういう意味では首相が釈明で話した

「ライフステージのあらゆる場面で学び直しに取り組もうとする時、本人が希望した場合に後押しできる環境整備を強化するのが大事だという趣旨で申し上げた」

という部分はおかしくない。

ついつい「SNSで首相に批判」という部分に目が行きがちなこの話題だが、それだけで終わってしまうのではなく、もっと多くの人に学び続けることの重要さが伝わるとよいと思う。

最後にタイトルの
「育休中にリスキリングできるのか?」
について私なり答えを書いておく。

状況やリスキリングの程度によっては可能だが、
いきなりは難しいので普段からリスキリングを意識して生きていこう!

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