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中華そばさこや(2023.04.07)

仕事で大分市の中心街に行くことがあったので、普段あまり行けない街中のラーメン屋へ行ってみることにした。というか逆に、このラーメン屋へ行きたいがためにそこからの逆算で仕事を段取った。それくらい以前から行きたかった店だった。

オープンは今年1月。ここのところ大分は中華そばブームで、雨後の筍みたいに中華そばのお店がバンバンオープンしている。そんな中でも本格的で美味いと評判のこの「中華そばさこや」へ今回ようやく訪問することが出来た。

朝から天気が悪く断続的に雨が降っていたが、少しずつ回復して、店へ着いた頃には雨は上がっていた。オープンの11時ちょうど、暖簾を出したばかりのタイミングで私は入店した。店長さんに「あ、もう大丈夫ですか?」と聞いて。

とても綺麗な店内。オープンして間もないから当たり前っちゃ当たり前だが、厨房器具がピカピカで、清潔感がある。そしてBGMはビートルズだ。

私は黒醤油ラーメン(800円)を大盛(プラス100円)で、特選トッピング(200円)を追加して、計1,100円という、普段からは考えられない大盤振る舞いのラーメンを注文した。

待っているととても良い、スープだかチャーシューだかの香りが漂ってくる。もうそれだけで美味いラーメンであることは想像に難くない。カウンターからは店長さんがラーメンを作っている様子がよく見える。「ああ、あのきらきらと美しく輝くスープを今から頂けるんだ」と思うと心が躍る。「あ、麺上げをしているぞ。いよいよトッピングだ」と。

運ばれてきたラーメンは見た目でもう完成度が高いことがよく分かった。多分食材も厳選されたものだろう。

レンゲで掬ったスープがその中で黒くユラユラと輝いて揺れている。一口啜ると、背筋が伸びるような、キリッとしていて輪郭のしっかりした醤油の風味と、その奥に出汁のしっかりとした旨味を感じる。とても贅沢で繊細な味だ。

麺は細いストレート麺だが、これが箸で持ち上げた時によくまとまるので、口に運んだ時に麺自体の味をしっかり味わうことができる。モチモチして歯切れが良く、こだわって作られた麺であることがよく分かる。

そしてトッピングも良い。チャーシューは見た目普通だが、これがなかなか濃厚な味で、豚の旨味がたっぷりある。味玉も程よい半熟具合で、黄身がすごく濃厚で美味い。一口で食べてしまうのがもったいないくらいだ。特選トッピングのワンタンは少し生姜が効いていて、全体の中で良いアクセントになっている。そして特に気に入ったのがネギで、どこのネギかネギに詳しくないので分からないが、シャキシャキとして、歯ごたえが良く、強すぎない程度の丁度良い風味がある。それから太いメンマが2本入っているが、その太さと反比例して柔らかく、美味い。

というふうに、ラーメンのひとつひとつの要素がどれも際立っており、それらが混然一体となって桃源郷のような、幸せな世界へ私を誘ってくれる。スピーカーからはビートルズの「A Hard Day's Night」が流れていて、私はいよいよ夢中で麺を啜った。

私はずっと幸福だった。それは日常から切り離されたラーメンと私だけの時間だった。色々とややこしい事、面倒な事、どうにもならない困り事などが雲散霧消して、私はあたかもラーメンスープの湯に浸かり、麺やチャーシューと戯れているかのような心持になった。それは素晴らしい体験だったと思う。

私は大変満足して、店長さんに「ごちそうさま。すごく美味しかったです」と告げ店を出た。外は清々しく、ビルの合間に小さく晴れ間が覗いていた。


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