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温泉チャンス!【東町温泉】(2023.06.09)

通勤時、晴れていたのでたまにはいいかと思って車の窓を開けて走っていると、カチカチカチと奇妙な連続音がする。しかも遠ざかっていかないので原因は私の車にあるのは明らか。車のドアに何か挟まっているか、何かをひきずっていると思い、コンビニの駐車場で車を点検するとタイヤにビスがガッチリ突き刺さっているのを見つけた。とても綺麗にまっすぐ突き刺さっている。おかげで空気は抜けていってないのだが、ずっと突き刺さったまま走るのは危険だ。

私はまず弊社社長に連絡。状況を説明し、出社が遅れる旨を伝えた。それからすぐに周囲の自動車整備工場を検索する。幸い近くに10分後から営業しているところを見つけたので、営業開始を待ってから即電話した。

簡単に状況を話すと、今から来て良いとのこと。私がその自動車整備工場に到着するや否やツナギを来た社長らしきおじさんとそれよりは少し若い大きな体の従業員は、タイヤを一瞬確認し「あー刺さってるね」と言ったかと思うと、車をすぐにジャッキアップ。あっという間にタイヤを外し、それからビスを普通にドライバーで抜いた。するとビスを抜いた場所からは当然空気が勢いよく出てきた。すぐさま大きな体の従業員がその穴に緑色の接着剤のようなものを塗りつけた長い錐のようなものを突き刺し、そしてすぐに抜いて穴を塞いだ。タイヤの表面に付着したその緑色の接着剤のようなものを軽く拭き取り、再びタイヤを装着してタイヤの補修は終了した。かかった時間はわずか10分足らずだった。

私はお礼を言った。奥から事務員らしきおばさんがやってきて車検証を確認した。それから何かもう全部終わりの雰囲気があり、皆キョトンとしているので、さっきの事務員のおばさんに「おいくらですか?」と聞くとおばさんは慌てて大きな従業員さんの方に確認に行った。もしかしたら何も言わなければ料金取られなかったんじゃないかと思った。

私は言われるままに2,000円だけ払い、再びお礼を言って工場を後にした。商売っ気はないが、めちゃくちゃ良心的なので、また何かあればお願いしようと思った。

んで、思っていたより修理が早く終わったので、本当はダメなんだが、ちょっと温泉にでも入ってから出社しようと思いついた。エアポケットのように日常の隙間に出来た誰も関知しない時間。私はこういう時間が大好きだ。こういう時こそ、普段行けない場所に行くべきだ。

私はグーグルマップに「いつか行きたい場所」というのをいくつか保存しており、現実的にその時間行けるところは東別府駅のそばにある「東町温泉」が最高に適していた。

私は一応こういう何かポッと時間が空いた時のためにいつでも温泉に入れるようにタオルだけは常備している。とりあえずタオルさえあれば良いのだ。

車を10分程走らせるとすぐに東町温泉はあった。時間が時間なので、駐車場はガラ空きだった。私は車を停めて、入浴料の200円とタオルだけ持ってその古びた建物の中に入って行った。

温泉の詳細については私よりももっと詳しく温泉愛に溢れた方が書いてらっしゃるので、そちらをご覧になられた方が良いと思う。私はいつもこのみみまりさんの温泉記事を拝読しては、いつか行きたい温泉リストにひとつまたひとつと温泉を追加していっている。本当に有難い事だ。

建物の中に入ると誰もいない。受付も無人だ。みみまりさんの記事で一応見知ってはいたが、実際誰もいないと不思議な感じがする。受付の奥には監視カメラのモニターが光っており、一応防犯の意識はあるらしい。

誰もいない。物音すらしない。

受付にある料金箱に200円を入れて、男湯と表示してある方へ。薄暗い階段を下りて地下へ行くと、そこに広い空間があって、その真ん中にポツンと二人くらいしか入れなさそうな浴槽がある。浴槽の傍らにはおじいさんが一人いて、体を洗っている。

私が挨拶をすると、おじいさんは小さく会釈をしてくれた。私は服を脱いで、積み重ねられた洗面器の一つを取ると、それを使ってお湯を浴槽から汲んでかけ湯した。そうしているとおじいさんが話しかけてきて、お湯が熱かったら遠慮なく水を足すと良いと言ってくれた。私はお礼を言ったが、お湯は案外そこまで熱くなく、丁度良かった。

私は足し水をしたくない派だ。熱いお湯が好きだというのもあるが、足し水をするとせっかくの温泉成分が薄まる気がするのだ。以前行ったことのある別府の紙湯温泉というところはお湯がめちゃくちゃ熱くて体が真っ赤になったが、それでも足し水はしなかった。熱いなら、それを受け入れるのが私の信条だ。

浴槽の傍らではおじいさんが丁寧に体を洗っていた。浴槽につかって体を横たえると、脱衣所の棚の上にけっして上手ではない、しかし味のある絵が描いてある。かなり高い位置にある窓から斜めに光が差し込んでいて、湯気に光の筋を作っている。

おじいさんが体を洗う音以外はほとんど何も聞こえてこなかった。お湯も音を立てない程度にしか注がれていない。おじいさんがまた何か話しかけてきたら、私はそれに応える準備が十分にできていたのだが、おじいさんは話しかけてこなかった。穏やかで静かな時間だった。誰も私がここで温泉に入っていることなど知り得なかった。家族も、会社の人間も。ただ一人傍らで体を洗い終わって体操をしているおじいさんを除いては。

私は短い時間だったが、温泉を満喫し、お湯を出て体を流した。服を着て風呂を後にする際にはおじいさんに挨拶をした。おじいさんは体操を続けながら、さっきと同じでまた軽く会釈をしてくれた。

車に乗り込み、遅い出社のため別大国道を走っていると、いつもより色々なものがくっきり見えた。高崎山はより巨大で、目の前に迫ってくるようだし、別府湾の膨大な海水は今にも岸壁を超えてくるように見えた。

それから私は何食わぬ顔で出社した。大丈夫。誰にもバレはしない。別府でもあの辺の温泉はほぼ無臭なのだ。抜かりはない。

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