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「2:6:2の法則」は本当に正しいのか?

はじめに

HR領域にいると度々耳にするのが「2:6:2の法則」だと思います。その法則を聞くたびに本当にそうか?と思うことがあるので、そのもやもやを整理したいと思います。

2:6:2の法則とは何か?

この法則はもともと経済学における所得分布を表す「パレートの法則」と呼ばれている理論が起点になっていると言われます。「パレートの法則」では、社会全体で見ると資産の8割は上位2割の人に集まり、残りの2割が下位の8割によって生み出されているというものです。そこから「80:20の法則」として様々な領域でも同様なことが言われるようになったのだと思います。その一つが「企業全体の売り上げの8割をパフォーマンスの上位2割が稼いでいる」などの主張に使われるようになり、2:6:2の法則と言われる状態になったと考えられる。

ではHRの領域でこの「2:6:2の法則」はどのように使われるのでしょうか。それはハイパフォーマー・ミドルパフォーマー・ローパフォーマーという分類を行っています。その人数比率が提示されることによって、どの領域に対して優先的に課題解決を行うべきなのかなどを考えることができるようになります。ハイパフォーマー2割向けの施策をしたいが、それが残りの8割に悪影響を及ぼさないか?などです。

また「パレートの法則」とは別に、「ロングテールの法則」というものも存在しており、EC系のマーケティングなどでいわれるものがあります。Wired誌編集長のアンダーソンが提唱し、全体で見るとヒット商品の売り上げより売り上げの低い2割の売り上げ合計の方が大きいというものである。すなわち「80:20の法則」の逆を行く内容も示されています。

2:6:2の法則の内容をチェックする

個人的な所感としては、パレートの法則から2:6:2の法則が導出された際に、論理が抜けている感じがします。というのもパレートの法則において想定される分布はパレート分布(べき乗分布)と呼ばれるもので、画像の青線にあたるものになります。
パレート分布におけるテールと呼ばれる領域があり、それによってそのパフォーマンスが高い一部の人がほとんどの成果を生み出されています。

何が違和感かと言われたら、平均的な成果を出す人が6割という主張です。パレート分布の平均をp、正規分布の平均をgとして記載しています。パレート分布を想定しているのであれば、平均p周辺で最も人数が多くなるということはありえません。むしろ平均より成果が低い人が圧倒的に増えるということになります。となると2:6:2の法則で想定しているのは、平均で最も人数が多いと想定される正規分布に従っていると考えられます。
実際にHRに関連するパフォーマンスの調査に関しては、暗黙の前提として正規分布に則っているとされてきていました。すなわち、論拠となっている法則を全く別物にした上でも成立していると言っている点が違和感の一つ目がこれになります。
なのでHR系のコンサルティング会社で恥ずかしげもなく、パレートの法則から2:6:2の法則は生まれましたと書いてあると大丈夫か?と思ってしまいます。

正規分布とパレート分布
(自身にて作成)

今回その違和感を持っていた際に出会った論文がこちらです。

THE BEST AND THE REST: REVISITING THE NORM OF NORMALITY OF INDIVIDUAL PERFORMANCE

Ernest H. O’Boyle, Herman Aguinis

論文を要約すると、正規分布で捉えるよりパレート分布から読み解いた方がパフォーマンスを説明できてそうだということです。5つの様々な領域のパフォーマンスを分析し、正規分布とパレート分布のどちらが適応性があるのかを検証しています。結果すべてにおいてパレート分布が適切に説明できているという結果になりました。

正規分布でなくパレート分布
(自身にて作成)

つまり、パレート分布に従うということは、2:6:2の法則では想定しえないほどパフォーマンスが圧倒的に高い存在がいて、その人たちが企業成果の8割と形成しているといえるということです。
またそこも踏まえると、平均的な成果を出す人でさえ稀有であり、どちらかというとローパフォーマーと呼ぶべき人が多くなるということになります。組織のほとんどがローパフォーマーというのは、かなり悲しい事実ですが、個人的にはその方が感覚と近いなという気がしています。
「普通」のパフォーマンスも組織の型化や上司の支援などがあって初めて成立しており、それらも全て取っ払って個人というものを眺めると、普通の成果を個人で出してくれる人材というのでさえ稀有であると言えると思います。

この論への反論として、この傾向は経営層などの組織階層の上部にハイパフォーマー人材が偏っていて、メンバーそうでは2:6:2の法則が使える的なことを言ってくる人もいます。残念ながらそうはいかないんですよね。

パレート分布にはスケールフリーという特性があり、どんな小さな母集団でも成立すると言われます。「パレートの法則」は国でも通用しますし、学校や会社などによっても成立すると言わしめる要素はそこです。2:6:2の法則がスケールフリーを用いて生まれているので、その反論を言ってしまうと、反論を言った側の論理が崩れてしまうということです。
なので会社全体でもメンバー階層だけでもこの傾向は起こりうると言えます。

『The Best And The Rest』の論文を踏まえると、ローパフォーマー向けの施策をいくらやっても意味がないのではないかという風に考えてしまいがちですが、あくまで論文のタイトルにもあるようにINDIVIDUAL PERFORMANCE(個人の成果創出)なので、そこを切り捨てて組織的に成果が出るかというのは別で考えるべきです。本論文の著者も同様な内容を書かれていました。

どこから対処するか、というと圧倒的な優秀層を発見したうえで、その人が辞めないようにするというのがHRにおいては至上命題と言えると改めて思いました。一方で日本企業の特徴として、飛びぬけて成果を出すことや既定のルールから外れることを嫌う風土もあると考えると、育成プロセスや業務プロセスの中で優秀人材の芽をつぶしてしまっているのかもしれません。
伸び伸びと仕事をする中で、強みを伸ばし、成果を最大化できるようにメンバーとは向き合っていきましょう。

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