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神経科学から考える管理職が嫌われる理由

こんにちは、山中裕貴です。

今日はとある製造業の社長とお話をさせてもらいましたが、従業員サーベイを用いて行うべきは全社視点というより現場視点の改善であると仰っていました。しかし一方では、何をやっても上司が信頼されていければ何の意味もないというお話をいただきました。

マネジメントに向けられる視線

非常に耳の痛い話ですが、やはり管理職というのは嫌われやすい役割だと思います。昨今では「罰ゲーム化する管理職」というキーワードが吹聴され、本まで出版されています。多くは業務負荷などに焦点が当てられますが、組織の中で孤独であることも一つの要素であると思います。

さて、では人は管理職になった瞬間に、何かしらの特性が変わって「嫌なもの」へと変貌してしまうのでしょうか?昇格した瞬間に遺伝子配列が変わって…なんてことはありません。
つまりマネジメントが嫌われるのは、役職そのものにあるわけではないはずです。

「良いマネジメントとは?」の功罪

まず管理職とはどんなことをする人でしょうか。まずは個人の目標だけでなく、組織の目標を追いかけることが求められます。また短期的な目標達成だけでなく、長期的に組織が成立するような人材育成も役割として担っています。つまり管理職とは短期・長期の目標達成のために、差分を示し、改善することを求められています。

ドラッカーから提唱されたマネジメントという考え方ですが、そのあるべき姿について記された本が星の数ほどあります。それほどに多くの人が悩まれるテーマです。例えばリーダーシップを取り上げればオーセンティックリーダーシップ、サーヴァントリーダーシップ、シェアドリーダーシップ…etc.まだまだ沢山あります。またそれぞれの考えや観点において、やるべきことや取るべきNext Actionが明記されています。一定の分かりやすさがあり、多くの人を変えるきっかけとして素晴らしいものであると思います。

ですが、これらの話には致命的な欠点があります。「良いマネジメントに求めれる行動をすれば、良いマネジメントになれる」という間違った前提が置かれているからです。
皆さんも行動の受け手を想像すれば簡単に分かることです。
相手について判断や理解をするときに、相手が意識的に行った行動だけを材料にするなんてことありますか?むしろ相手が何を考えているのかは全く分からないので、一挙手一投足を客観的に見て判断するはずです。なので最初は非常に好印象の人に対して、ふと「なんか無理…」って感じてしまうことが起きてしまうのです。究極は人は無意識で人を判断しているのです。

「役割先行」ではなく「人間先行」で考える

つまりマネジメント論は現実の一要素の説明であり、本質ではないということになります。では管理職は何をする存在なのでしょうか?
多くの人がマネジメントに対して「規定の役割があって、それを上手く演じる」と考えていると思います。ですが沢山のマネジメント論があるものの、マネジメントの一番の役割は組織目標を達成することです。全てのマネジメント論より、目標達成のためのコミュニケーションを優先させてしまいます。結果から追いかける組織が成果を出すことができないことは成功循環モデルモデルからも明らかですよね。

ダニエル・キムの成功循環モデル

そのため管理職とは「無意識で良いと思える人がいて、その人がマネジメントをする」と考える方が適切です。
経営者の方で「マネジメントできるかどうかは才能だ」と良く聞きますが、論理とか感情とか認知的な領域を越えた無意識的な判断のプロセスによって、メンバーは管理職を判断しています。そしてその判断を通過した信頼できる管理職が指揮するもとで、自律的・自発的な行動をメンバーは行うことができるのです。

「神経科学」が捉える人間像とは?

人の判断材料は論理と感情などの感情だけでない、無意識の及ぼす影響が大きいということは良く分かっていただけたと思います。逆に言えば無意識による判断はそこまで複雑なことはできません。脳科学や神経科学を大雑把にまとめると2つのポイントがあるように思います。

索敵:自分を脅かす存在ではないか?

人間も生き物であり、危険から逃げ出すことで生存することができます。危険を感じた時に逃げ出すことは、正しい反応です。
危険に紐づく情報は五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)から得られます。そしてその情報は視床という脳の部位を通って、認識や思考を司る大脳皮質だけでなく、扁桃体と呼ばれる領域に伝わります。扁桃体は恐怖や不安といった本能的な感情を司っています。

仕事における五感情報といえば、しかめっ面の表情、どすどすとした歩き方、大きな声、トゲのある発言など沢山あります。
ポリヴェーガル理論でも、話をしていた時に感情的で話が通じないと感じるとその人のことを諦め、敵やノイズとして考えるようになると言われています。

つまりどれだけ1on1の時間を取ろうとも、時折ねぎらいのコミュニケーションを取ろうとも、日常的に発している態度という情報の方が強力です。

また扁桃体は前頭葉へと繋がっており、逃げたいと思う状況に対して果敢にも向き合うかの判断を促しに行きます。これがよく言う「自制心」ですね。
ちなみにこの自制心というのは非常にコストが掛かる状態です。漫画でも危機的な状況の主人公は短い時間にいろんなことを考えますよね?危機的な状況を乗り越えるために、あーだこーだと色々なことを考えるためです。
この状態は、脳へ非常に大きな負荷がかかり、コミュニケーションが難しくなったり、ケアレスミスを起こしてしまうことになります。

敵と認識した相手とは、一緒に仕事をするということは、ずっと上記のような危機的環境に身を置き続けるということです。そして成果が出なくなる状況を自ら作っているということを認知せず、危険情報を発信することによって、どんどん距離を置かれる存在になってしまうのです。

帰属:自分と異なる考えの存在ではないか?

ではそこまで角の立つ管理職ではないのにも関わらず、嫌われる管理職がいます。それは「この人は自分とは別の集団の人だ」と思われることです。
例えば子熊を守るために凶暴化する熊の話など、人間同士で敵対していたがエイリアンの襲来で手を組む映画など、同一の集団を守ろうとする判断があります。

これは親が自分の子供を守るために他の動物にもある神経の仕組みです。また人類史を振り返っても、我々ホモ・サピエンスが大きな集団を組むことで生存をしてきたことからも当然だと言えます。

これらは視床下部から司令を受けて脳下垂体後葉で作られるオキシトシンやバソプレシンでコントロールされています。視床下部は扁桃体を含めた大脳辺縁系や大脳皮質から影響を受けており、思考の結果として不安や恐怖を鎮めたり、より強化したりします。
先程の危険情報と比べて大脳皮質が絡むため、認知的な部分がありますが、無意識の領域が非常に大きいものです。

管理職が別の集団と思われることを考えると、管理職という役割に紐づくメンバーとは異なる判断基準で物事を進めることにあります。

  • 権力を傘に勤怠などの規則・規範を守らない

  • 現状の仕事量を考えずに、メンバーへ仕事を割り振る

  • 組織目標という判断基準でしか物事を判断しない

  • 自分の見えている範囲だけを絶対的な正解とする

  • 上層部からの指示をそのまま通そうとする

とあるコンサルティングを行っている顧客では、とある部長が常に経営層を向いて座り、メンバーに対して常に背を向けていたというケースもありました。その場合メンバーからはその部長は経営側の人という風に映り、自分たちの内側にいると思われなくなります。
外側の人間に対して、人は非常に冷淡になることができます。そして更には規律違反であると指摘することはドーパミンが分泌されることであり、「またなんか管理職が言っているよ」と自身の判断基準と異なることを指摘することによって満足を得るようになっています。

管理職である以上、その役割に基づく判断行動をしなければならないから嫌われて当然なのか?と言うと、そういうわけではありません。
まず管理職がするべきことは組織における大きな判断基準を共有することが重要です。大きな目的や判断基準を持ち、常に一貫した判断行動を行うことで、大きな枠組みの中で内側に入ることができます。
そしてその判断基準に反する行動をメンバーがしている際には、特殊事情でそうなっていると信じた上で、検証を行うことが重要です。検証の結果、判断基準に反していると分かれば、何かしらのフィードバックを行うことが求められます。このフィードバックが育成のためのフィードバックであったり、目標達成に対するアドバイスに該当します。

最後に

管理職は嫌われないことが重要という訳では無いですが、世の名経営者とされる方々は人格者であり、多くの社員から愛される人であることが非常に多いです。人格者と聞くと、何ともイメージが持ちづらいですが、人に対して危険情報を与えることなく、一緒に働く全ての人を内側へと引き込むことができる能力を持っている人であると思います。
本田技研工業株式会社(Honda)の創業者である本田宗一郎氏はまごうことなき伝説の経営者だと思います。彼は起こると拳骨が飛び、スパナを投げてくるなど今では考えられないことをしていてもです。
ですが彼は、現場と行動を共にし、叶えられるギリギリの夢を語り、皆でその実現に向けて本気で向き合っていました。その強烈な「内側の認識」によって組織は束ねられていたのだと思います。

実は扁桃体は恐怖や不安といった本能的な感情を司りますが、そのアラートは2つ目で話をしたバソプレシンやオキシトシンなどのホルモンによって沈静化されます。また沈静化されることが継続されると、それが海馬という領域に記録され、扁桃体が恐怖や不安と感じなくなります。この状態に至るには相当な経営者としての熟達や想いが求められるレベルで、ただの管理職には難しい話ではあります。
ですが2つのポイントを押さえることで、管理職としてのスタートラインに立つことができると理解していただく第一歩となれば幸いです。

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