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価値の創造とは?価値から企業を再解釈する

前回、企業の目的はドラッカーの「顧客の創造」よりむしろ「価値の創造」であるという内容のNoteを書かせてもらいました。

ドラッカーは「顧客の創造」を重要としたため、企業活動においてマーケティングとイノベーションが重要だとしました。では「価値の創造」を目的とした企業においては何が重要となるのでしょうか?企業運営におけるポイントはどこになるのでしょうか?これらについて検討を深めたいと思います。

企業のミッション(使命)とは?

多くの企業でミッション・ビジョン・バリュー(MVV)が掲示されています。多くの企業で当たり前にこれらが策定されています。私が所属するHRBrainのサイトでもMVVについて触れているページがあります。https://www.hrbrain.jp/media/human-resources-management/company-mission

企業におけるミッションとは、組織の成長していく方向を定める指針となる大事なもので、企業姿勢や存在意義を社会に示すものとしても役割を担います。 ミッションとは「使命」としても訳され、「作戦や任務を遂行する」場合に「ミッションを完遂する」などと使われます。企業がなぜ存在し、「社会の中で実現したいことは何なのか」を示すものになります。

株式会社HRBrain HR大学より抜粋

MVVはドラッカー「ネクスト・ソサエティ」で提唱された考え方で、企業は社会に対して正統性を持って活動をすることが重要であるとしています。この正統性とは、社会的正統性(レジティマシー)と言いますが、20世紀末からの環境問題や労働問題を踏まえて注目をされるようになった概念です。CSR活動などを企業が行うようになったこともこれらが求められるようになった背景と一貫しています。

またMVVとついて顧客から良く相談をいただくことは「その社内への浸透はどうすればいいのか?」です。企業の社外に対する正統性の提示と同時に、その実現に向けて社内で適切な判断が行われる必要があります。 つまりミッションには、対外に対する「正統性」と対内に対する「可用性」が重要ということになります。ですが、企業運営をしていくにあたっては、それだけでは抽象的過ぎて判断に困りますよね。

企業のミッションを再定義する

企業の目的が「価値の創造」ということを踏まえると、企業の最も重要なミッションは「社会に対して提供する価値の最大化」ということができます。ですが、これは目的をテーマ化しただけの定義なのでこれには大した意味はありません。ではどんな価値を最大化すればいいのか、またその最大化のやり方について整理できればと思います。

「価値」とはどのようなものか?

「価値」というものをどのように理解するかが重要になります。まず価値というのは一概に語れるものではありません。「価値」の定義を調べてみると、

どれくらい大切か、またどれくらい役に立つかという程度。

Google日本語辞書

上記の内容が出てきます。人によって状況や判断基準が異なるため、人によって何がどれくらい役立ち・大切かは変わります。 そのため人それぞれで価値というものは変わります。
そのため企業活動を通じて「価値の創造」を実現していくためには、誰に対してどのような価値を提供するのかを細かく把握する必要があります。

企業が提供できる価値というものにはどのようなものがあるのでしょうか。ベインアンドカンパニーから出ている2つのフレームワークを参考にしてみると「こんなにも価値に種類はあるのか」と驚かされます。

それらを独自で一つにまとめたものが下記の画像になります。
まずもともとのThe Elements of Valueにおいて、マズローの欲求階層説をベースに商品サービスにおける基本的な機能から、商品サービスを通じての自己実現に至るまでのより高度な欲求を求めるという前提の下で作成されています。そのため機能による価値だけでなく個人や社会などのより高度な価値に至るまで網羅的に整理されています。

価値の種類に関する検討 筆者作成

ベインアンドカンパニーの調査によると機能的な要素は最低限の要素であり、それ以上のより高度な価値を付与することはコモディティ化が急速に進む昨今において重要度が高まっていると言われています。
これまでは単純な価値の提供(安くて、少し質が良い)で十分に企業として収益が成立しました。しかし複雑化・高速化した現代の市場においては、他社との差別性がなければ企業として収益が成立しなくなりつつあります。

そしてもう一つ価値を考える際に重要な観点があります。
それはこれまでの「売り切り」モデルではない現代において、「何を伝えるか・何に共感をしてもらうか」だけを追いかけるようではビジネスとしては片腕落ちであるということです。
価値訴求(Value Proposition)だけでなく、価値実感(Value Realization)も追求しなければ、顧客は競合へと離脱してしまうでしょう。上記の価値をいかに魅力的に訴求しようとも、実感が得られなければリピートされたり、継続されることはなくなり、自身の市場を枯らしていってしまう結果になります。

ここまでの話で認識をして欲しい前提は下記の2点です。
「前提①:価値とは一つではなく、複数付与されるもの」
「前提②:価値は伝達だけでなく、実感が重要である」

「価値」とはどのように生まれるのか?

では上記で説明をした2つの前提を踏まえて、価値とは企業活動の中でどのように生じるのかについて定義したいと思います。
消費者や顧客に認識される「アウトプットとしての価値」と価値が発生する「プロセスとしての価値」の2点で整理していきます。

まず価値は何によって認識されるのかというのを考えるのが「アウトプットとしての価値」であり、価値を認識するための源泉は「差分」です。消費者や顧客が自身の欲求をもとに、それを満たしうる商品サービスを見比べることによって、人は初めて価値を認識することができます。例えば、とある漫画を読んでいてその本が「どれくらい面白いか」を絶対値的に評価することはできません。先ほどの質問に対して「ここ最近で一番面白かった」など過去との差分で説明する以外の言葉を人は持ち合わせていません。人は差分でしか物事を捉えることは難しいのです。

ipodもWalkmanという競合がいて初めてその差分が認識され、Amazonも当時あった有象無象のECサイトとの比較の中で優位性が認識されています。つまり価値を考える際には、自社がどんな価値を提供したいかということだけでなく、競合となりうる存在がどのように価値を提供しているかを考える必要があります。他社との違いを実感させられた時に、はじめて「価値」というものが生まれると言えます。

どのように商品サービスに価値が付与されるのかを考えるのが「プロセスとしての価値」であり、重要な考え方としてマイケル・E・ポーター『競争優位の戦略』で提唱された「バリューチェーン」があります。消費者や顧客に商品サービスが提供されるまでの、自社の活動を洗い出すのに用いられるフレームワークです。全体像を把握することにより、ビジネスの強み・弱みを分析したり、プロセスの最適化を検討することができます。

HRBrain バリューチェーン分析とは?
https://www.hrbrain.jp/media/human-resources-management/value-chain

このポーターのバリューチェーンという考え方をよりマクロで捉えると、原材料の調達・製造から脈々と付加価値が付与されていき、消費者が価値を感じる形で販売されるところまで続いていきます。多くの部品が存在する自動車におけるマクロなバリューチェーンは、ボディに使われるアルミや鉄鉱石の採収から始まり、鉄鋼の製造や各種部品の製造など幾多の製造過程を様々な企業が担当し、物流や販売も別の企業が担当しながら、最終的に消費者の手に届くようになります。

バリューチェーンと価値創造のつながり 筆者作成

もちろんバリューチェーンには、長いものもあれば短いものもあります。特にバリューチェーンが長い業界においては、川上から川下に至るまで担っている会社もあるし、その限定的な領域を担っている企業もあります。つまりバリューチェーンをマクロで捉えると、消費者に価値が届くという終着点に向けて、各企業がそれぞれが担うプロセスの中で価値を創造しています。最終顧客接点を持っている企業だけが価値を創造しているわけではないということが重要です。

例えばニトリは家具に関する小売業ですが、自身を製造小売業として材料の調達・製品の製造などから販売に至るまでかなり長いバリューチェーンを自社で保有しています。全体最適化を考える難易度は非常に高いですが、逆に全体最適でのコスト削減やニーズを踏まえた調整をかけることが容易になります。

ではなぜバリューチェーンを細分化するかというと、その方がコストを下げられるor価値向上に集中できるというメリットがあるからです。取引コスト理論において、外部との取引コストより内部化コストが大きい場合、企業は市場での取引を選択するとしています。内部化によって管理コストや連携のコストなどが肥大化し、結果として付加価値の高い行動にフォーカスできなくなる場合があります。つまり企業とは、各自が最大の付加価値を実現できるようなバリューチェーンを担い、商品サービスを提供していると言えます。

「価値」を適切に定義する

これまでの説明を踏まえて、改めて価値というものを定義しようと思います。 一本の直線があり、最も上が価値提供となっています。つまり顧客に届けられる価値の総量であり、つまりそれは企業としての売上と一致します。企業は様々な意思決定を行いながら、社会に対して価値を提供し、その報酬として料金(売上)を得ているという構造になっています。

そして提供価値の構成要素は「投入資源」と「付加価値」に分けられています。原材料や人的資源などの製造/生産や提供に必要となる資源を集める必要があります。これらは商品サービスの提供における原価として扱われます。 その「投入資源」に対して有形資産や無形資産を用いることによって、付加価値を創出し、提供価値へとつなげていきます。つまり「付加価値」の大きさが、そのまま「利益」として扱われることになります。

価値と財務諸表とのつながり 筆者作成

企業の目的を「価値の創造」と定義しましたが、より具体的にするのであれば「付加価値」の最大化が重要です。投入した資源に対して、最大の付加価値を付与できるように経営判断や業務の遂行が行われることが重要です。これまで説明した内容を踏まえると下記のように整理することができます。

企業のミッション
投入資源に対する付加価値を最大化すること

「価値」の前提
①価値とは一つではなく、複数付与されるもの
②価値は伝達だけでなく、実感が重要である

企業活動における価値
・アウトプットとしての価値:競合との差分でしか価値は認識されない
・プロセスとしての価値:バリューチェーン全体で価値が付与される

この「価値の創造」を目的とした、「付加価値の最大化」という企業のミッションを実現する「価値最大化経営」と呼ぶべき考え方について次回に説明します。


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