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「企業の目的」とは?顧客の創造から価値の創造へ

■「企業の目的」と言えば…?

企業の目的は?と聞かれたら、皆さんは何と答えますか?
マネジメントに関して一定の知見のある方は、P.F.ドラッカー 『現代の経営』から下記の一説を思い浮かべると思います。

企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち顧客の創造である。

P.F.ドラッカー 『現代の経営』

この定義に関して、時代背景を踏まえて一定賛同するところがあるものの、現代においては適合していないように感じています。もちろん顧客の課題解決をするためにビジネスをしていますし、そのためには顧客を創造しなければならないという点で変わらぬ真理だとは思っています。ですが「説明しきれていない」とかねてより感じていました。 ドラッカーがこの説を提唱した当時において、企業の目的として「顧客満足」を掲げる企業が存在していたとドラッカーが言っています。具体的には既にニーズが明らかになっている市場で、そのニーズに最大限応えることを目的とする企業という意味合いです。

それらの企業に対するアンチテーゼとして、事業環境の変化に対応したり、自ら市場を創造していくことを通じて顧客を創造することを目的とするべきだというのが彼の主張だと理解しています。本の中でも『潜在欲求を有効需要に変えること』が重要であると書かれており、生み出すことや変化対応することに対する説明が多くなされています。

そのため企業の存在目的である「顧客の創造」のためには市場を創造すること(イノベーション)、顧客を引き付けること(マーケティング)の二つが重要であるとしています。非常に優れた定義であると思いますし、利益主義に陥りがちな企業経営者にとって気づきのある思想であることは変わらない事実だと思います。

■自分の思う「企業の目的」とは?

企業の目的が「顧客の創造」である時に二つの機能(イノベーション・マーケティング)が重要であれば、その他の役割を担う組織はどういう立ち位置になるのだろうか?例えば人事に所属されている方と話をしていると自分たちのことを「コストセンター」だと言う瞬間に立ち会うことが多くあります。これは「顧客の創造」という目的に対する近さが良し悪しの判断軸として存在していて、それを踏まえた自己評価をしているのだと思います。

最も近い
 事業企画部/経営企画部、マーケティング部(市場創造ニュアンスが強い) 近い
 営業部、研究開発、カスタマーサクセス部(顧客接地面が多い)
遠い
 製造部、人事部、経理部(作業的な側面が強い)

一方で製造の品質の高さがその企業が選ばれている企業もあります。法務の柔軟性や人材育成力の高さが企業成長を支えている企業が多くいらっしゃいます。「顧客の創造」に直接的に関わらない組織や役割を無意味に矮小化し、周縁化することに繋がる定義であると非常に歯がゆく思っています。企業の目的を全員が直接担うことができないというのは、目的として正しいのでしょうか?と思うわけです。

そんな中で自分の考える最も納得感のある企業の目的は「価値の創造」であるとするものです。もちろんドラッカーにおいても価値について言及しているところがあります。

企業が自ら生み出していると考えるものが、もっとも重要なのではない。 特に企業の将来や成功にとって重要なのではない。 顧客が買っていると考えるもの、価値と考えるものが決定的に重要である。 事業が何であり何を生みだすかを規定し、事業が成功するか否かを決めるのは、それらのものである。

P.F.ドラッカー 『創造する経営者』

あくまで価値が重要というよりも、彼の思想の中心である「顧客の創造」のためには、顧客が価値を感じているものを把握しなければならないという論理であると思います。
またマーケティングを基本機能として置くほどに顧客の解像度を高めることを重視していて、「the Customer」ではなく「a Customer」というひとりひとりというニュアンスを持たせている点も流石だなと思います。

一方で思うことは「価値」とはそんなにも分かりやすいものなのか?ということです。どの企業も顧客ヒアリングやインタビュー・アンケートで顧客のニーズを把握しようとしているが、成功する企業とそうでない企業が分かれています。つまり、顧客が価値と考えるものを把握できても事業が成功するわけではないということです。

この失敗の本質は「顧客」という属性を目的として強く考えすぎるがゆえに視野狭窄になり、「顧客が欲しいと思っているから価値があり、顧客の創造に繋がる」という安直な思考を生み出してしまっていることにあると思います。
日本企業においては特にこの傾向があるように感じており、これがガラパゴス化を生み出したといっても過言ではないのではないかと思います。
では「価値」というものをどうすれば適切に捉えられるでしょうか。まず価値に関して4つの特性があると思います。

①価値の相対性
人は相対的にしか物事を認識することができず、絶対的な価値というものを認識することはできない。そのため顧客が価値と考えるものは競合商品や代替財との差分でしか認識できず、顧客だけを見ても新たに応えるべき潜在ニーズというものを見つけることはできない。
②価値の個別性
どれだけ同じ属性に切り分けたとしても、生活必需品や原材料ではない限り、顧客の数だけニーズが存在する。ターゲットイメージをどれだけ具体化し、そのペインやゲインに対応しても、選ばれるわけではない。
③価値の複合性
品質や性能など一つの側面で価値が測定されるということはなく、機能面・情理面・プロセス面など、様々な要素で価値というものが判断されるため、想定してもしきることはない。
④価値の有限性
価値というのは多くの制約を受けるものであり、人的資本・財務資本などの資本による制約に加えて、複数のブランドイメージを保有することによる顧客の離反などの制約により、無限に拡張できるものではない。

Ⓒ2023 Yamanaka Yuki

■「顧客の創造」を目的にすることによる問題点

マクドナルドの「サラダマック」というものをご存じでしょうか。大体マーケティングの失敗事例として取り上げられ、「顧客の解像度をもっと高めるべき」「データを頼りすぎてはならない」などのサマリと共に紹介されます。 個人的にはマーケティングの失敗ではなく、価値というものに対する理解の浅さが招いた悲劇だと思います。

何があったかというと、健康志向の高まりや具体的な顧客からの要望からヘルシーなメニューを開発し、思うほど伸びずに早々に頓挫したというものです。これに対して「人は合理的でないから…」「自分を良く見せるために…」という示唆を抽出している資料を見たりしますが、本当か?と思います。

なぜなら「健康に気を付けたい」というのはその顧客の本心だったと思うからです。もちろん他でもないマックにそれを期待するという声もあったとは思いますが、それも本心だったと思います。
「マックが身体に良くないと分かっていても、その良く無さを踏襲しつつ、少しでも健康に気を付けられたらいいなぁ」というのが行間も含めた声だと思います。
顧客からの声は真実であるものの、「価格の複合性」「価格の有限性」からマクドナルドが取り組むべきではない方向性だったということだけだと思います。アンケートを取った相手の認知が歪んでいたのではなく、価値の特性を捉えずに顧客至上主義のもと「顧客のニーズは全て応えられる」と企業側の認知が歪んでいたのだと思います。

つまり「顧客の創造」を目的として行動をすると判断を誤るケースがあるということです。

■「顧客の創造」は思考の手段と捉える

事業の創造や事業の拡大を考えるにあたって、「顧客」に対してイメージをつけるということは非常に重要ではあるが、それを目的とすると判断を誤るケースが多々あるということになります。

これまで多くの企業が「市場が大きく、ニーズが大きいから」という理由で参入した結果として失敗し、祖業にも悪い影響を及ぼす結果となっているケースが多く存在しています。

「顧客が求めている」「顧客が存在している」であったとしても、それに飛びつくべきではなく、むしろ自身の属性を適切に捉えながら、どんな価値を提供することができるのかを目的とするべきだと思います。
その際に、どうしても目的だけで考えると空中戦になり、地に足の着いたものにならないので、具体化する手法として具体的な顧客を想定するという手段として考えるべきだと考えます。

企業の目的に関する検討 筆者作成

次回は「価値の創造」が目的の企業とはどんな感じかについて解説していきます。

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