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【オーストリア 】ソーセージの失敗談

ウィーンでやりたいことの一つにクリムトの「接吻」を鑑賞することがあった。俺はシェーンブルン宮殿を後にし、Belvedere Palaceへと向かった。

少し前に東京でクリムト展が開催されていたが、九州に住んでいた俺はそれを指くわえて見ていた記憶がある。友人たちが羨ましくてならなかった。しかし、今は違う。俺は本拠地にいる。今にも高らかに声を出して笑いそうになる。なんて贅沢なことをしているのだろうと自惚れていた。この後、大恥をかくことなど知らずに。

チケットを購入し、40分程の入場制限を待つために屋台でホットドックを食べることにした。ウィーンに来てからよく見る、太くてジューシーそうなソーセージを一度でいいから思っ切り頬張りたかった。

3種類のソーセージから一番人気のものを選び、美人店員さんからホットドックを受け取った。重量感あふれるソーセージが今にもかじって!と言わんばかりに油でテカっていた。俺はその妖艶な姿に我慢できず、渡された直後にひとかじりした。すると、ピュッと油が横に跳ねた。

そして、その瞬間に血の気が引いた。

不運なことに、隣の女性に油がかかってしまった。女性は跳ねた油が頬にかかり、ウッ!と不快感たっぷりに声をあげた。俺は「sorry」を連呼するしかなかった。目を移すと、女性が着ていた赤いコートにも油が大量にはねていた。あーやっばい、怒鳴られると思った。しかし女性は今にも爆発しそうな怒りを必死に鎮めていた。

恐ろしくて女性の顔は見ることができなかったが、彼女の全身からあふれる怒りとやるせなさは十分伝わってきた。「ゴリラみたいな彼氏が出てきて胸ぐらを掴まれたらどうしよう。飲み物とかぶっかけられるのかな。ココアはベトベトするから嫌だな。」などと余計なことが脳裏に過ぎったが、とにかく謝ることに専念した。

瞬時の判断で、店員にお手拭きを貰おうとしていたが、彼女は手のひらを俺にかざしながら「何もしないで!」という感じのことを話していた。

どこの言語かすらわからなかったが、俺ができる一番ベストな行動は、今すぐ彼女の目の前から消え失せることだと判断した。

「sorry」を連発しながら早足でその場を後にした。心臓がバクバクしていた。なんでいつもこうなんだ俺は。どんくさい。情けない。クリムトとかどうでもいいわ。

猛省しながら屋台の裏に隠れて、彼女と二度と会わないように祈った。そして極寒の中でホットドックをかじった。美味かった。

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