ー電気犬は犬牽の夢を視るか?ー犬牽エッセイ・シリーズ第六話『nintendogs』その②
日本の伝統的なドッグトレーナー〝犬牽〟の目線で、アレコレを見境なく語るエッセイシリーズ。
第六話は連続物として、ニンテンドーDS用ソフト『nintendogs』を取り上げている。
その①では、私と『nintendogs』の馴れ初めを紹介した。
今回の②では、いよいよ犬牽として『nintendogs』をプレイしたらどうなるのか?について書いていく。
のはずだったのだが・・・。
まず犬牽とは何か?を初めて記事を読んでいる方々に向けて、以下に簡単に説明したい☟詳しくは是非、著書及びホームページへGO!
もう知ってるよ!!という方は、スクロール通過してもらってもまったく問題ない。そういう方々が増えることを、切に願う日々である。
一、犬牽は仁徳天皇の時代に起源を持ち、そこから朝廷~戦国武将~徳川幕府とクライアントを変えながら江戸時代の終わりまで活動を行っていた日本のドッグトレーナー集団。
二、犬牽が主に担当する犬は〝鷹犬〟という、鷹狩専用の犬たち。鷹匠が育てた大鷹や隼や鷂が獲物を捕らえやすいよう、隠れている鶉や雉を発見しては追い出す/自ら捕らえることを役割とした。
三、犬牽は犬に対して犬の権利の尊重=〝犬の心のままに〟という思想/ルールを持って向き合った。犬の意思や本能に沿わない訓練や対応は、決して行われなかったのである。
私は途絶えていた犬牽の系譜を、江戸時代の伝書を骨組みにして復元/継承している。
この記事はつまり、そんな現代の犬牽が『nintendogs』という犬と暮らすゲームを伝統的なルールに則ってプレイしたらどうなるのか?という実験の記録なのだ。
早速プレイをと思った私だが、いきなりつまずくことになる。
それは『nintendogs』のプレイ方法、もっと言えばニンテンドーDSの操作方法に伴ったことだった。
こちらが今回のプレイに使用したニンテンドー2DS、実家の母に頼み機体を借りることができた☝
もしかしたら、この2DSという機体を知らない人も多いかもしれない。ニンテンドーDSと発展版であるニンテンドー3DSの後続機、というより廉価版がニンテンドー2DSだ。DSに備わっていた折り畳み機能を排除し、3DSに備わっていた3D機能も排除、更にスピーカーもモノラルに変更を加えることで値段を下げている。
それでも、ソフトのプレイに支障はない。
DSの由来となったDual Screen=二つの画面は変わらず備えられ、下画面もしっかりタッチパネルになっている。
そして音声認識についても変わりはない、左側に爪楊枝で刺したような穴=MICが備わっているのがわかるだろう。
これ、だ。
この音声認識が、私にとっては大問題だった。
『nintendogs』は先ほどの画像そして以下の画像が示すように、下画面をタッチペンで触る+音声認識機能を使って交流を行う。
この犬の名前を呼ぶという工程が、私にとってはとんでもない壁となった。
そもそも私は犬牽なので、家には勿論のこと犬=美濃柴犬は種炎がいる。
美濃柴犬とは岐阜県/美濃に代々棲んできた地柴のこと、詳しく説明すると地柴とは特定の地域限定で育まれてきた柴犬たちを指す。
著者の靴下が派手なのは気にしないでほしい、美濃柴犬の特徴はこのような赤毛と友好的な性格なのだから。
犬牽が犬の権利の尊重を掲げ対応に当たっていたことは、もうご存知だろう。
それは、鷹犬との関係性を創るスタートラインにも大きく関わっている。
江戸時代の犬牽たちは現代の地域猫のように往来を自由に闊歩する〝町犬・里犬・村の犬〟の中から、自らの意思で寄って来た個体=友好的な性格の個体のみを迎え入れていた。嫌がる個体を無理矢理に捕らえる=犬の意思を無視した対応は、スタートの時点から行われなかったのだ。
美濃柴犬は、そんな犬牽のルールに則って私がピックアップした。友好的な個体が多々生まれる日本犬というのは、現代においてはなかなかお目にかかれるものではないからだ。
ちなみにここでの友好的な性格というのは決して人間と仲良しこよしとか下僕的とかそういう類のことではなく、人間に対して興味を持ちやすい程度のことだと思ってほしい。
事実そうだが、友好的という言葉から何をやっても怒らない/ストレスにならないと誤解する輩がいるから釘を刺しておく。しっかりと犬側の要求に応えるからこそ保たれる性格/関係性であり、それはちょっとした人間側のわがままで崩れる儚いものだと肝に命じてほしい。これは美濃柴犬に限った話ではなく、すべての犬たちに言えることだ。
さて、種炎は江戸時代の鷹犬と基本的には変わらない対応を受けている。
外に出れば自由に、犬の本能に則って好きなだけ闊歩を続ける日々。
その際、ルートを決めるのは種炎の役割だ。
犬牽は、犬が犬らしく闊歩できるよう見守りサポートするに過ぎない。犬牽が犬を無理矢理に引っ張ったりすることは、基本的にはないのだ。
では犬牽側がどうしても外せないルート/予定を持っていた場合は、どうしたらいいのか?
その時に使うのが食べ物と、声かけである。
声をかけて、食べ物を提供して別ルートに導いていくのだ。
これを続けていくと、鷹犬は声かけ=食べ物がもらえる良きことだと思うようになる。
こうすれば犬側のストレスを最小限にしながら工程を進ませることができるようになり、更にはリードが外れても声かけによってスムーズに帰還を促すことができるのだから素晴らしい工夫と言えるだろう。
ただ不思議なのだが私の経験上、犬たちにとって声かけは自らの名前でなくても構わないらしい。
声かけをしているゾ!というテンション/声質/アクションであれば、すぐさま飛んでくるようになる。
これが起きた場合、私は犬牽として対応をしなくてはならない。食べ物を提供して、グルーミングを行わなくてはならない。そうしなくては、本番で犬との不一致が発生してしまうからだ。それは困る。
もう、お気づきだろう。
私が『nintendogs』の中で暮らす電気犬に声をかけていても、種炎にとっては自身への呼びかけと何ら変わりないのだ。
どんなに名前を別にしても、響きを変えても、長くしても、短くしても、声かけをしている!というアクションが種炎にとって自らの利益ある行為への幕開けとなってしまうのだ。
私はこの事実に気がつかずうっかり電源を室内で入れてしまい、まったくもってプレイが進まなくなってしまった。声かけの度に種炎が飛んできて、食べ物+グルーミングを所望し続けるからである。
そう、スタートラインの時点でこの企画は頓挫したのだった・・・。
なかなかの時間が過ぎた。
どうしたものかと悩み、そもそも悩み自体を忘れかけていた。
そんな私だが、ふと種炎と野外活動を行っている時に思ったのだ。
犬牽なのだから、いっそのことゲームを外でやったらどうか???
そうすれば声かけも気にしなくていいし、何より犬牽らしい。
私は数分後、近所の公園にてニンテンドー2DSに電源を入れていた。
いつもは種炎と共に闊歩する公園にシートを敷いて、電気犬と向き合う。
室内でゲームをするのとはまったく違う空間に、私は包まれた。
風の匂い。
土の匂い。
草の匂い。
そして、犬の匂い。
まさに、犬牽として向き合うことを体現した空間ではないか。
ピッタリである。
怪我の功名とは、まさにこのことだ。
さぁ、いよいよである。
ついに③から、プレイ編へと入っていく!!
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