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【山中のホテル跡と山の自然を巡る徒歩旅行!】摩耶ケーブルと有馬温泉|『京阪神発 半日徒歩旅行』1コース全文無料公開!

歩いて、見て、知って、ちょっぴり心がリッチになる半日徒歩旅行ガイドの決定版!
2021年11月刊行『京阪神発 半日徒歩旅行』(佐藤 徹也)より、「摩耶ケーブルと有馬温泉 瀟洒な港町から六甲山を越え、日本三大古湯のひとつへ」を全文無料公開!
下記リンク(Amazonストア)から書籍の概要や目次など、ご覧いただけます。

「摩耶ケーブルと有馬温泉」瀟洒な港町から六甲山を越え、日本三大古湯のひとつへ

大阪と神戸間を移動するときに、いつも車窓から目に入るのが六甲山だ。しかし関西を訪れることはあっても、ついでに山歩きも、とまではなかなかいけない。都市近郊の山といえば東京にも丹沢や奥多摩があるが、六甲山はどうもそれらとは様子も違うようだ。そこはかとなくおしゃれ感も漂い、気後れを感じたりもするが、まあそこはおじさんの無神経さで歩いてみよう。

起点となるのはJRの灘駅。ここから摩耶ケーブルカーの駅まで歩く。実は三宮駅からのバスもあるのだけれど、酒どころで知られる灘も一度は歩いてみたかったのだ。駅からはとりあえず六甲山方面を目指す。途中、動物園もある王子公園を縦断するように抜けると周囲はだんだん閑静な住宅街になり、その先に摩耶ケーブル駅はあった。ここからまずはケーブルカーに乗り、312mの標高差を5分かけて虹の駅へ上がり、そこからはロープウェイに乗り継いで山上にある星の駅へ。

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灘の住宅街の奥に位置する摩耶ケーブル駅。標高451mにある虹の駅まで、ケーブルカーでグイグイと登っていく。虹の駅からは摩耶ロープウェイに乗り継いで、摩耶山の山頂に近い星の駅へ

発車までの時間、運転士がケーブルカーにホースで水をかけて掃除している。なんだか休日にマイカーを磨くお父さんのようでホノボノする。乗客は僕と年配のおじさんのみ。見知らぬおじさんふたりが狭い密室にいるというのはちょっと不思議な状況だ。

ケーブルカーは最大勾配29度を力強く登っていき、まもなく虹の駅に到着。ここからはロープウェイへ乗り継ぐが、その手前、駅を出てすぐのところに現在は通行止めになっている道がある。これはかつて営業していた摩耶観光ホテルへの道なのだ。摩耶観光ホテルは1929(昭和4)年に開業したホテルで、1967(昭和42)年に台風被害などで営業を終えてからは六甲山中でひっそりと朽ちゆく廃墟ホテルとして、廃墟マニアの間では垂涎の的。アールデコ調の建築様式もあって、敬意を込めて『廃墟の女王』なんて呼ばれかたもしている。

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摩耶ロープウェイの車窓から海側を見渡せば、港町・神戸から大阪湾にかけてのパノラマが一望だ。足元の樹林のなかにひっそり佇むのは、「廃墟の女王」の異名を持つ摩耶観光ホテル

しかし次第に老朽化が激しくなり、崩壊の危険もあることから立ち入り禁止に。現在は定期的に催行されるガイドツアーでしか近寄ることはできない。のだが、近々に登録有形文化財に指定されるそうで、そうなれば再整備されて再び日の目を見るときも来るのではないだろうか。これで廃墟マニアも大喜びかと思えば、そうなるとそれはそれで「なんか違うなー」という意見もあるようで、ことほどさようにマニアの心理というものは複雑である。ちなみに摩耶観光ホテルの外観は、乗り継いだロープウェイの車窓からも拝むことができた。

ロープウェイを降りると広がっているのが掬きく星せ い台だいと呼ばれる展望地で、ここからは大阪から神戸にかけての風景が一望だ。海の向こうには淡路島。その向こうにうっすら見えるのは四国か。いやまさに絶景。六甲山は標高1000mに満たないが、足下すぐが海岸線なのでその標高差が魅力。海沿いに広がる都市の様子は、夜景で眺めたらさぞかし美しいことだろう。

掬星台からは尾根沿いを東へ向かう。尾根といっても県道が抜けているほか、登山道も整備されていて、好みに応じてさまざまなルートを選ぶことができる。今回はあえていろいろな道を織り交ぜて歩いてみたが、なかにはクマザサが茂った不明瞭な道もあったりして、このへんが至便であるがゆえに遭難も多い六甲山、なのかもしれない。

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路線バスも走る県道、ゴツゴツした岩の道の急登、薮が多く道筋が不明瞭な細道。六甲山にはさまざまな道が入り組んでいる。写真は六甲山山頂直下の快適な小径。海側の展望が開ける

県道には路線バスや郵便集配車も走り、いわゆる山歩きという感覚とは異なる。家庭ゴミの集積所もあるし、ときには「六甲山町会」と書かれた掲示板も掲げられていたりもする。山とはいえ、人の日常生活がある町でもあるのだった。

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有馬温泉には昔ながらの温泉街が今も残っている。中心には有馬温泉を守護する湯泉神社が鎮座。関西では「ありまひょうえの〜」というテレビコマーシャルでもおなじみだ

別荘地や企業の保養所を抜け、道はやがて六甲有馬ロープウェイの駅へ。これに乗れば六甲山の北に位置する有馬温泉まで12分の距離だ。しかしそうなると登りも下りも歩かないことになり、妙な罪悪感が芽生えてしまう。しかも有馬温泉といえば、日本三大古湯にも数えられる歴史ある温泉だ。日本書紀にも記述があるそうで、豊臣秀吉がこよなく愛したとも聞く。そんな温泉へのアプローチとしては、ちゃんと歩いて下山すべきではないか。そんなヘンな義侠心が湧いてしまい、歩いての下山を選択。地図によればほぼ下り基調で、時間にしても2時間弱。楽勝じゃろうと登山道に足を踏み入れる。

このルートの終盤で登山道が工事により通行止め。迂回するために最後の最後で激しい登り返しを強いられることは、もちろんこの時点では知る由もなかった。

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1コース全文公開はここまで!書籍では歩行時間やアクセス方法なども掲載しています。

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