大学生が理学療法士の給与について真剣に考えてみた

職種に限らない話ですが、仕事をしていく中で、「お給料」は誰しも気になるものだと思います。

私は理学療法士という仕事をしていますが、お金に対しても非常に強い関心を持っていましたので、学生の頃から「どうすれば給与は上がるのか」についてよく考えていました。

そんな大学生のある時、衝撃の論文と出会ったのです!!
それは世界40カ国の理学療法士の給与について調べたものでした!!

《学生時代に衝撃を受けた論文》
Lawrence P Cahalin, Yoshimi Matsuo, Sean M Collins, Ayako Matsuya, Francis Caro. Educational and professional issues in physical therapy--an international study. Physiother Theory Pract. Sep-Oct 2008;24(5):344-56
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18821441/

この論文には、教育、賃金など専門職としての種々の課題について、世界40カ国で調査しているのですが、中でも興味深いものとして、理学療法士の給与を新人、5年目、10年目の平均、各国の平均給与がそれぞれ報告されていることです。

そこで紹介されているデータを読み解いていくと、ほとんどの国のPTは経験年数が上がるにつれて給与は上昇していますが、日本のPTの給与の上昇率はかなり低く、特に新人と5年目の給与はデータ上同額という結果でした!

Shuhare-project(名古屋研修)

この表は論文のデータをもとに、各国の平均収入に対するPTの給与の割合(%)を示しています。正確には日本のデータのみ幅の利かせた数値となっており、考察がしづらいのですが、新人と5年目の給与で差を認めなかったのは、この論文において日本だけでした。

”経験”で給与は上がらない!?

(保険点数の算定の仕組みから考えれば至極妥当なのですが)
この衝撃を知った私はどうすれば給与が上がるのか益々興味が出てきました。

大学生の浅はかな考察から考えるに、経験年数以外に給与に影響する変数に【教育】があると考えました。数ある教育の中でもやはり専門職になる養成課程の教育レベル、つまり【学歴】は経験年数にならぶ給与に与える変数のはずです。

こう考えた私は、勉強をそっちのけで、大学に来ている求人票を全てデータ化するという謎の作業に挑戦することにしました。

その結果を、第1回日韓合同カンファレンスという学会で発表しましたので、今回はその内容をまとめたいと思います。

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調査:理学療法士の学歴が金銭的インセンティブに与える影響(2012年)

調査方法は単純です。

私が当時所属していた大学に届いた理学療法士の求人票を全て抽出し、

① 大学卒と専門学校卒の給与が同じ施設【FI施設】
② 大学卒と専門卒で給与に差がある施設【non-FI施設】

の2種類に分類しました。

※ FIは、ファイナンシャル・インセンティブを略しただけです。

結果はと言うと、

施設数は合計で 487施設 
①【FI施設】127施設(26%)
②【non-FI施設】360施設(74%)

と学位の違いにより給与が変わる施設は少ない結果となりました。

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ここでいくつかの疑問が出てきます。

疑問①:学歴により給与が変わる施設は本当に少ないの?

これはあくまで、ある大学に届いた一部の求人票を抜粋しただけであり、学歴により給与的にインセンティブを与える(FI施設)が本当に少ないと言い切っていいかは、これではわかりません。

そこで私が取った行動は、同じ大学にきている看護師の求人票と比較するです。これによりもう少し解像度高く学歴と給与の関係を見ていけるのではないかと考えました。

同様の方法で看護師の求人票を見漁り(中々途方も無い作業でした)、出た結果は以下の通りです。

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看護師の求人票の集計結果、
①FI施設が69.5%、②non-FI施設30.5%と、学歴により給与が変わる施設の方が多く、
この割合はPTの結果と比較すると有意差を認めました。

つまり、PTという職種は看護師と比較しても学位による給与のインセンティブは少ない職種であると言えます。

どちらの職種も大学と専門学校の両方で資格を取得できる資格にも関わらず、このような違いが出ていることは、教育に対する考え方の違いや教育レベルが現場に与える価値、その他政治的背景などさまざまなことが憶測できるのではないでしょうか。

疑問②:大卒者はFI施設に就職する方がいいの?

とは言え、学歴により給与が変わる施設(FI施設)は存在するわけですから、「学歴が大事というならそっちで働けばいい!」というご意見も出てきそうです。

そこで大卒者が両施設に就職した場合の想定もしておく必要があります(そんな必要ないと言われそうですが、大学生の私は思ったのです)。

以下の図は、大卒者がFI施設に就職した場合と、non-FI施設に就職した場合の初任給の平均を比較したものです。

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つまり、学歴により給与にインセンティブをつける施設(FI施設)に就職したとしても、そうでない施設に就職したときと給与は変わらないということです。

まとめ

総じて言えることは、2012年当時、理学療法業界において、学歴により給与に差はない可能性が高いということが示唆されました。

もちろん、大学生がする調査ですので、ツッコミどころ満載ですが、”業界”として考えた場合にさまざまな示唆に富んでいるのではないでしょうか。

教育は医療のはじまりの場所であり、私たちが学ぶことは「患者さんにより良い医療を提供できるか」につながる最重要課題です。学歴至上主義ではなく、教育をさまざまな視点で考察することが患者さんに適切な医療を提供する基盤となり、強いては業界の発展につながるものと信じています。

また、個人のキャリアに置き換えると、《教育・学習》は卒前だけでなく卒後まで含め、さまざまな資格や大学院等への進学など、その方法は多様化しています。給与で価値を決めつけることはできませんが、社会のニーズを表す側面を給与は秘めているとすると、我々はこの分野をもっと深く考えていく必要があると思いました。

最後に

現在、『療法士のキャリアに関する調査』を行なっています。
今回は、現代の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が自身のキャリアをどのように捉えているのかを、「理想のキャリアと不安」という切り口で考えるというものです。

今回紹介した調査は「給与」にフォーカスした内容でしたが、キャリアは給与だけではありません。先が見えない現代において、自分自身のキャリアへの悩みは多様化しており、すべての人の課題になってきています。また、組織マネジメントの観点でも、個人の考え方が多様化する中で、キャリアの視点を持つことが不可欠となってきました。今回のアンケートを通して、現代の療法士が考える”理想”と”不安”を見つめ直し、個人のキャリアと組織のマネジメントを考えるきっかけにしていきたいと考えています。それが業界を発展させる一助になると信じています。

何卒、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

《調査概要》
・テーマ:療法士の理想のキャリアと不安・悩みに関するアンケート調査
・対象: 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士
 *対象外の職種の方もご回答いただけます。
・所要時間: 6分程度
・お礼: 調査結果を分析し、まとめて共有させていただきます
・調査責任者: 山本純志郎、細川寛将
☆アンケートフォーム:https://forms.gle/RfvajCXW1TGrHMPB7

*本アンケート調査の募集は終了しました。
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アカウント:https://lin.ee/HaQYs2L

尚、本調査は論文化や学会発表を想定したものではなく、研究としては事前調査という意味合いで行っております。個人情報の保護には十分注意しており、個人を特定できる情報を取得する項目はございません。結果の公表につきましては、主に回答者の方へ個人情報を含まない集計結果をclosedな環境で共有させていただきますことをご理解ください。

次回は、大学院教育と給与についてのデータをご紹介したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

山本純志郎

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