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とっておきのレシピ本について 若山曜子「フライパンリゾット」と有賀薫「豚汁レボリューション」

 レシピ本を読むのが好きだ。
 料理が趣味なので、当然いろんなものを作りたがる(夫に言わせれば私は「料理にとらわれている」らしい。夕飯を食べた直後に翌日作りたいものを考えていたりするから)。そんな時、レシピ本を開くと、いろんなアイデアが湧いてきて、居ても立っても居られなくなってしまう。料理は好きだけど手順を読んでそれに沿ってきっちり物事をなすのが苦手なので、レシピ本の通りに作ることは正直あまり多くない。(だからお菓子作りはしない、お菓子は手順と分量がすべてなので。)一般的に、よいレシピ本として挙げられる特徴は「手順がわかりやすい」とか「工程ごとの写真がある」などの事柄だと思う。が、私にとって一番大事なのは「どれだけアイデアをくれるか」である。食材の組み合わせや調理法、扱い方。知らないことを知る瞬間はいつだって心が躍る。
 ここ数か月で買ったレシピ本の中で、とっておきの2冊がある。ひとつは若山曜子「フライパンリゾット」、もうひとつは有賀薫「豚汁レボリューション」だ。どちらもアイデアに満ちていて、新鮮な驚きをくれた。この2冊のおかげで、料理のバリエーションが格段に増えたと感じている。もちろん、料理の楽しさもだ。

 まずは若山曜子「フライパンリゾット」から。タイトルのとおり、フライパンで作れるリゾットが紹介されている。ところで、皆さんは普段リゾットを食べるだろうか。私はあまり食べなかった。学生時代にサイゼリヤに通い詰めていた時、トマトと魚介のリゾットをたまに頼んだかな、というくらい。あとは、作りすぎて残ってしまったコンソメスープに解凍した冷凍ごはんを入れて軽く煮たものを「リゾット」と称して食べたりしていた。どちらかというと、それは洋風のお雑炊といった方が正しいかもしれないけれど。
 リゾットは、生の米を研がずにそのまま炒める。まずこの時点で最初はびっくりしてしまった。パエリヤを作るときもそうだけど、米を研がずに使うということ自体がかなりショッキングだ(一応書くとうちは無洗米を購入しているので、普段もほとんど研いでないけれど、それでも「研がない」と指示されるのはかなり新鮮)。肉や玉ねぎのようにしっかり火を通したい具材も、米と一緒に炒める。お米が透明になるくらい炒められたら、水を足して煮る。火を通し過ぎたくない具材は、途中で足す。そうしてできたリゾットは、お米の安心感のあるおいしさと、一緒に入れた具材の質感やうまみが共存して、非常に満足感のある一皿になる。
 このレシピ本に出合うまで、リゾットはヨーロッパのおかゆでしょ、という雑な理解をしていたが、ちょっと違う。リゾットは、お米をつなぎにしていろんな食材を美味しくつなげる、とてもかしこい料理なのだ。本の冒頭に、忘れられない一文がある。
「欧米では、お米は、どちらかというと野菜のひとつ。そう思うと、もっとカジュアルに、いろいろな食べ方が楽しめると思います。」 
このことを知ることができたのは、私の料理アイデアを格段に増やしたと思う。旬で安かった食材や、冷蔵庫に居残ってしまった食材を美味しく使い切ることができるし、量の調節もしやすい。そして何より簡単だ。具材を切って炒めて煮るだけなのである。米を使った料理は、失敗したときのがっかり感と罪悪感が他の食材よりもなぜか強いのだけど、基本的には失敗なしで作れている。
 このレシピ本の中でちゃんとレシピ通りに作ったのは「鶏肉とかぶのリゾット」と「にらの中華風リゾット」だ。鶏肉とかぶのリゾットは、コンソメを使わず鶏肉のだしと塩だけで、こんなに豊かなうまみが出るのか!と驚いた。鶏肉のうまみを存分に吸った、とろっと崩れるかぶとお米を一緒にスプーンにのせて食べるしあわせ。後日、カリフラワーを追加してみもう1回作ってみたら、鶏肉とカリフラワーが相乗効果をおこし、お気に入りの一品になった。また、かぶが安くて買ったものの、なかなか使い切らなかったときは、かぶといろんな食材のリゾットをせっせと作った。熱が入ってとろけるかぶは、お米と一体化する。ここでは「米は野菜」の逆で「かぶは米(?!)」という認識がうまれた。「にらの中華風リゾット」を作ったときにも、勝手にかぶを足した気がする。この日は海老しゅうまいがメインだったのだけど、しゅうまいを蒸すのを待ちながらつまむにらのリゾットは、白ワインにもよく合ってとても満足した。
 そう、リゾットのいいところは、ワインに合わせやすいことだ。私はワインを飲むのが好きなので、最近ワインを飲むときはもっぱらリゾットとパスタを1人前ずつ作っている。リゾットはなるべくお米の量を減らして(なんと1/4合くらいしか使わない)、その代わりに野菜をどかどか入れる。今日はパスタがクリームベースだから、リゾットはトマト缶入れてトマトベースかしら、なんて組み合わせを考えるのも楽しい。レシピ本から飛び出て勝手に作って美味しかったのは、牛豚あいびき肉とトマト缶のリゾットだ。チーズをけずって山のように乗せるとさらにおいしい。

 もう1冊のとっておきのレシピ本は、有賀薫の「豚汁レボリューション」。この本が「革命」をうたうのにはわけがあり、この1冊になんと50種類(!)の豚汁レシピが記載されているのがそのゆえんだ。特徴的なのは組み合わされる食材の多様さだ。「あー、これは約束されたおいしさ」というものから、「こんな食材も使えるんだ!」という驚きに溢れたものまでさまざまだ。
 私が作ったのは「トマトン汁」(トマトと豚肉)、「にらたま豚汁」(にらと卵と豚肉)、里芋のそぼろ豚汁(里芋と豚ひき肉)だ。トマトン汁は、トマトの酸味と味噌のまろやかさが絶妙にマッチするので、ぜひ夏の、トマトが出盛りで安いときにまた作りたい。よしながふみ「きのうなに食べた?」の中で、「夏豚汁」と称したトマトとにらと豚肉で作る味噌汁が登場したが、これもきっと似た感じの味わいなんだと思う。にらたま豚汁は、にらの香りが存分に楽しめてよい。にらは足が速いので、買うと消費に頭を使うことになるのだが、にらたま豚汁にすればそのあたりも解決。里芋のそぼろ豚汁は、ほろほろした豚ひき肉と里芋の相性が抜群だった。豚ひき肉を豚汁に使うというアイデアをこの本で知ったのだけど、目からうろこだった。たしかに、豚ひき肉は豚なんだから、豚汁にしてまずいわけがないのだ。大き目の肉団子をゴロゴロ入れた味噌汁はボリュームがあって素敵だし、そのままバラバラの状態で入れるとさらっと飲みやすくてよい。
 もし人にレシピ本を勧める機会があったら、かなりの確率でこの「豚汁レボリューション」を選ぶ気がする。というのも、このレシピは料理が好きな人もそうでない人も、得意な人もそうでない人も、どちらも活用できる本だと思うからだ。手順がシンプルで簡単だし、用意する材料だって特別なものはない。それに「味噌汁」だから、味のイメージがつかないことはまずないだろうし、日々の食卓にも乗せやすい。だから、料理が好きじゃないし得意でもないという人が、何らかの理由で料理をすることになってレシピ本を手に取ることになったとき、すぐに実践できると思う。実際にこの本は、作者の有賀薫さんが独り立ちして一人暮らしをしている息子さんのことを考えたのがきっかけで作られたらしい。
 そして、料理が得意な人、もしくは料理が好きな人にもきっとこの本は価値がある。なぜなら、食材の組み合わせが新鮮で、とてもわくわくさせられるから。ここで知った組み合わせを、炒め物やスープなど他の料理に活かすのも面白いと思う。後ろについている「豚汁インデックス」がまたいい仕事をしている。「野菜の旬」や「ボリューム感」でレシピが分類されているのだ。なんの野菜を買おうか悩むとき、たまにこのインデックスの力を借りることもある。
 とにかくレシピの種類が多くて眺めているだけでも楽しい1冊なのだが、この本のすごいところは、読んだ人に「じゃあこの食材もいけるんじゃない?」という無限のチャレンジ精神を湧き起こしてくれるところだ。この本を買ってから、我が家では格段に味噌汁の出番が増えた。とにかくいまある食材を、ストックしてある豚バラと一緒に味噌汁にしてしまえばいいのだ(かしこいストック方法も本の中で紹介されている)。最近自分で作って大ヒットだったのは「春菊の豚汁」だ。春菊の春らしい苦味が、豚バラの脂のうまみと組み合わさって、なんとも豊かな気持ちになれる一椀である。

 本屋に行くと、いろんなレシピ本があふれている。どの本も、めくると未知の世界が広がっている。レシピ本は実用書を超えて小説のような奥行きのある書籍だと思う。なので今日も、小説を読むような気持ちでレシピ本を読んでいる。



 


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