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ジョブ・クラフティングによる仕事の意味付け~認知的クラフティング~

こんにちは。今回はジョブ・クラフティング行動のうち、仕事の意味付け行動について解説します。
自分の仕事をどう意味づけるのかが、仕事のモチベーションやパフォーマンスに影響を与えるようです。

今日の一言サマリ

仕事の意味は自分で見出すもの


参考にした書籍と論文

高尾 義明・森永 雄太、2023、『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』、白桃書房



ジョブ・クラフティングには2つの流派がある

以前こちらの記事で、個人が主体的に仕事の創意工夫を行う概念としてジョブ・クラフティングを紹介しました。

実はジョブ・クラフティングの研究が進むにつれて、ジョブ・クラフティングの定義が大きく2つに分かれ、それぞれの定義を使った研究が発展する状態になっています。


オリジナル理論「役割クラフティング」

1つ目の定義はジョブ・クラフティングの提唱者Wrzesniewski and Dutton(2001)によるもので、以下の下位概念から構成されます。

  • タスク・クラフティング:具体的な仕事の内容や方法を変更すること。

  • 関係性クラフティング:仕事の遂行に関わる他者との関係性を増やしたり、その質を変えたりすること。

  • 認知的クラフティング:個々のタスクや仕事全体について自分がどのように捉えるかを変えること。

p5


発展のきっかけとなった「資源クラフティング」

もう1つの定義はジョブ・クラフティング研究が増加するきっかけとなったTims and Bakker(2010)によるもので、JD-R(仕事の要求・資源)理論に基づき以下の下位概念から構成されます。

  • 対人関係における仕事の資源の向上:職場の上司や同僚からフィードバックやアドバイスなどを得ようとする行動。

  • 構造的な仕事の資源の向上:自分の専門性を高めたり能力を高めたりする機会を作り出す行動。

  • 挑戦的な仕事の要求度の向上:自分の仕事をより挑戦しがいのあるものへと変更する行動。

  • 妨害的な仕事の要求度の低減:仕事の負担を減らすための行動

資源クラフティングには役割クラフティングに含まれている「認知クラフティング」に相当する概念が含まれず、外部から把握可能な行動に着目していることがわかります。
これによりジョブ・クラフティングを計測することが可能となり、ジョブ・クラフティング研究が増えることになったのです。


仕事に有意味性を見出すリフレーミング

計測しやすい資源クラフティングに比べ研究が少なくなっている役割クラフティングの特徴ともいえる「認知的クラフティング」について詳しく見ていきます。

認知的クラフティングでは、職務を細分化されたタスクの束としてみるのではなく、それを意義有る全体的な物と捉えるように個人の認知がリフレーミングされていくとされます。
仕事の有意味性とは、自分自身にとって仕事が重要であり肯定的であることが結合していることです。また仕事の意味が自身にとって成長と全体性に資する目的があることが重要といいます。

そして認知的クラフティングは単独で起こるのではなく、タスク・クラフティングや関係性クラフティングにもつながっていき、仕事のパフォーマンスを向上させると考えられています。

本書では、日本の認知的クラフティングの事例として以下の2つを挙げています。

1.東京ディズニーランドの清掃係

東京ディズニーランドのカストーディアル(清掃係)は、1日中パークを清掃する不人気な職種でした。東京ディズニーランドでは、カストーディアルの仕事を清掃という個別業務ではなく、「パークを清潔にしゲストの保護をする」というより東京ディズニーランドの全体の目的に寄与するものへと位置づけを変えました。
この認知的クラフティングの結果、カストーディアルが濡らしたほうきでミッキーマウスの顔を描くというタスク・クラフティングがおこりました。結果的にカストーディアルは人気職種になりました。

2.新幹線の車両清掃係

CNNで「7分間の奇跡」として紹介された新幹線の折り返す際の清掃業務の事例です。
JR東日本の関連会社テッセイの組織文化変革により「わくわくドキドキ新幹線劇場」として「トータルサービス」でお客様をおもてなしすることへと意味付けの変更がなされました。
それまで受け身で清掃業務にあたっていた従業員から膨大な業務に関するアイディア提案が生じたといいます。


実践への示唆

ビジネスの現場では、上記の知見をどのように活用できるでしょうか。

社員が仕事の意味付けを行うことが、社員のモチベーションを上げパフォーマンスにつながるというのは古くから言われています。レンガを積んでいるのか、立派な教会を建てているのか、というたとえ話も有名です。
ビジネスマンは、自分の目の前のタスクを単体で見ずに、仕事の全体像を見てタスクを位置付けることで、有意味性を見出すことができます。
また、認知的クラフティングは動機、強み、情熱に関連づけることで促進することができます。自分の動機や強み、情熱という要素を言語化しておくことは認知的クラフティングに役立つのではないでしょうか。

マネージャーにとっては、上記のような部下のジョブ・クラフティングのプロセスをサポートすることが求められます。
動機や強み、情熱に気づかせるコーチング行動や、タスクの意味付けを助けるコーチング行動は部下にとって助けになります。

本稿では、ジョブ・クラフティングの流派のうちの役割クラフティングの、さらに認知的クラフティングについて見てきました。
結局タスクの「意味」というのは与えられるものではなく、自分で見出すものだと言えそうです。


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