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仕事は自分で調整する~ジョブ・クラフティングにつながる要求度ー資源理論~

こんにちは。今回は従業員が自律的に自分の仕事を修正していく、という行動について見ていきます。
以前の経営学では仕事は会社が従業員に一方的に割り当てるものと考えられてきましたが、仕事も従業員も多様化が進んだ昨今のビジネス環境では会社だけの力で最適なマッチングをすることは困難です。
本稿では従業員の自立的な調整行動とその効果を紹介します。

今日の一言サマリ

仕事は自分で調整すべし


参考にした書籍と論文

森永雄太、2023、『ジョブ・クラフティングのマネジメント』、千倉書房
Bakker AB, Demerouti E., 2014, Burnout and Work Engagement: The JD–R Approach, Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior



伝統的経営学の限界

以前紹介した職務設計理論では、職務に自律性を組み込むことは一般的に従業員のモチベーションを高めると主張しています。

一方で職務と従業員が多様になるにつれ、従業員の属性によっては高い自律性がモチベーションにつながらない事例も見られるようになってきました(森永 2023 p.33)。

そんな中で、従業員の側から自分の職務を自分に合うように調整していくことが重要と考える循環的な職務設計モデルの研究が進んできました。

仕事の要求度ー資源理論

仕事の要求度ー資源理論(JD-R理論)では、仕事の特徴を要求度と資源の2つのカテゴリで説明します。

  • 要求度(Demand):従業員に身体的努力や心理的努力を求める、仕事の特徴。具体的には仕事のプレッシャー、情緒的な負担、役割の曖昧さ、役割過重など従業員の負担になる要素。

  • 資源(Resource):仕事の要求度を軽減し、仕事の目標を達成する上で機能し、個人の成長を刺激する要素。具体的には、給与などの就業条件、周囲の支援、役割の明確さや自律性などの職務特徴が含まれる。自己効力感や楽観性などの個人リソースも含む。

JD-R理論の主な主張

  • 高い仕事の要求度は、資源の枯渇を介してバーンアウトなどの心身の不調をもたらす

  • 資源が豊かな場合には、仕事の要求度が高くても心身の不調が低減される

  • 仕事の資源は仕事のやりがいや組織コミットメントを高める

  • 資源がやりがいを高める効果が、要求度が高いときにさらに高くなる

ジョブ・クラフティングを組み込んだJD-Rモデル

Bakkerら(2014)は、このJD-Rモデルに従業員の自発的調整行動であるジョブ・クラフティングを組み込んだ循環モデルを提唱しました。

Bakker at el. 2014

この図の上半分では、従業員が自己調整行動であるジョブ・クラフティングを行うことで自分の仕事の特徴に変更を加え、仕事の資源を増やしていくプロセスが示されています。
そして資源の増加は従業員のワークエンゲージメントを高め、パフォーマンスを向上させます。
下半分では、ストレス下にある従業員は、その後の仕事のプレッシャーを予測するなど自ら職務上の要求を増やすような行動を取ってしまう、悪循環が生まれるプロセスが示されています。

ジョブ・クラフティング

従業員による自己調整行動であるジョブ・クラフティングは、いくつかの定義がありますが、JD-R理論の立場をとるTims et al.の定義では「職務上の要求や資源に対して、従業員が加える変更」とされます。
従業員が会社から割り当てられた仕事に対して、自発的に関わって調整していく姿が浮かび上がってきます。

実践への示唆

ビジネスの現場では、上記の知見をどのように活用できるでしょうか。

従業員にとっては、自分の仕事を振り返り、理解する枠組みとして使うことができます。どんな要求があり、資源としては自分自身の中に、そして周囲にどんなものが存在するかを理解することは、仕事への積極的な関わり方の第一歩となります。
その上で、周囲からの必要な支援を要請したり自己啓発などの資源の増加、納期の調整など要求の調整を試みる行為として、ジョブ・クラフティングを実行することは、ワークエンゲージメントを高めさらにはパフォーマンスを向上させる行動となります。

マネージャーにとっては、メンバーの置かれた状況を理解するためのフレームワークとして利用できそうです。
例えばパフォーマンスが低いメンバーがいる時に、その人の職務の要求は妥当か? 十分な資源を持っているか?を検証することができます。
本稿では従業員による自己調整に注目しましたが、マネージャーからメンバーの職務の要求や資源を調整することで、メンバーのパフォーマンスを改善できるかもしれません。

本稿では、自分の職務に積極的に関わり、変えていく自己調整行動を見てきました。

「仕事は会社に与えられるもの」という見方は、日本だけでなく海外でも見られますが、与えられた仕事をこなす受動的な従業員像ではなく、自らの仕事を自発的に作っていく従業員像を想定している点で、JD-R理論やジョブ・クラフティングは今後期待の研究分野と言えそうです。
ジョブ・クラフティングそのもののプロセスについては、別の機会に解説します。

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