18年かけ辿り着いたロボットの最高領域
ロボットカフェ店長 『TONY ROBOT』
ロボットを作りはじめてから18年。
本当に沢山のロボットを作ってきた。
作ってきたどのロボットも強い情熱を込めて開発してきたし、全てのロボットとの間には様々な思い出がある。
しかし、昨年作り上げた”TONY ROBOT”には格別の思いがある。
人生最大の戦い。異能vation編。
TONY ROBOT(以下、トニー)はロボットカフェの店長となるロボットとして、異能vationという政府の支援プログラムを通して開発を行なった。
ロボットの開発にはとにかくお金がかかる。
お金の都合で実現に至らなかった要素技術も沢山あった中、思う存分に開発ができることは本当に嬉しかった。
しかし、お金以上に僕を奮い立たせたのは、研究を評価しアドバイスをくれるスーパーバイザーの中に、小学生の頃から強い憧れを抱いている人物が名を連ねていたことである。
個人名は伏せるが、小学校時代には彼の著書をページに穴が開くほどに読み込んだし、彼の出演する番組は必ず録画して何度も繰り返し観た。
野球少年にとってのイチロー選手であり、
サッカー少年にとっての三浦知良選手のような存在。
そんな憧れの存在と相対する。
真剣勝負の時が27歳にしてついに訪れたのである。
二度と訪れないこの機会を前に、僕の心は燃えに燃えたぎった。
我流で得た知識も会社で培った技術も全てを余すことなく注ぎ込み、
手札にない技術領域でも必要と感じたものは妥協せずに勉強し、貪欲に組み込んだ。
会社員との二足の草鞋を履き切るため、通勤時間や休憩時間、持てる有給休暇の全てを開発時間として充て込んだ。
一年という開発期間が三、四年と感じるほどに睡眠時間を削り込み、一人で過ごす時間の全ては開発のために捧げた。
これ以上頑張ったら人間の形を保てなくなりそうな、そんな己の限界が見え始めた堺に、トニーは完成した。
繊細に表情を動かしながら発話する姿は、どこか人間的で、言葉からは熱を感じとれるような、生涯の最高傑作と胸を張って言えるロボットへと相成ってくれた。
ロボット人生最高の瞬間
完成したトニーと支援期間中に実施したロボットカフェの営業実績を引っさげて、成果発表へと挑む。
発表後の質疑応答の時間。
そこで、憧れの人物よりこの上なく嬉しい言葉をかけて貰うことが叶った。
小学生の頃から積み上げてきた、一つ一つの全てが報われるような、
ロボット人生最高と呼ぶにふさわしい究極の瞬間だった。
こうして異能vation開発期間は全て満了。
政府より”異能β”という称号を授かった。
中卒資格無し、ロボットを作る事だけに打ち込んできた人生に一本筋を通せた気がして、この称号を貰えたことも本当に嬉しかった。
歌唱機能への挑戦
ロボットカフェの店長として作り上げたロボットではあったが、カフェ店員として以外にも挑戦したいことが様々ある。
その一つである歌唱機能の開発へ取り組んだ。
ロボットに音楽を奏でてもらうことは十年以上前から挑戦していたが、感動のある領域まで辿り着けず、幾度となく挫折してきた。
それでも今の自分の技術とトニーを持ってすれば、実現できる自信があった。
ロボット自身の肉声として感じられるような音源の生成。
音楽に合わせた口の動き。
情緒が感じられるような繊細な首の動作の作り込み。
魂が宿ったと思わせるような表情の探求。
それら一つ一つと丁寧に向き合い、遂に歌唱機能が完成した。
トニーによる「Honesty」の熱唱には、魂のような、何か言語化の難しい感情表現を実装できたと我ながらに感じた。
ロボットを作ってきて初めて、真っ芯で捉えた会心の感覚を得られたのである。
イベントへ出展した際には、トニーの歌唱に涙を流してくれる方も居たり、𝕏のポストに対していただいたコメントを見ても、自分のロボット可愛さに客観性を失ったわけではなく、第三者から見ても感動のある領域に辿り着けたことを実感できた。
歌唱機能一つをとっても、もっとこうしたいという思いも尽きないし、まだまだ勉強の必要な部分ばかりだが、ロボットという分野のある部分においての最高領域に足を踏み入れた、そんな感覚を人生で初めて得ることが叶った。
TONY ROBOTとこれからのこと
流暢な日本語を操り、魂を込めた歌唱をする。
仰々しい装置など必要ない、その身ひとつで完結した体は、どこにでも行ける身軽さがある。
継続運用に最も大切なメンテナンス性を考慮した設計を有しながら、完成からただの一度も故障しない堅牢性も兼ね備えている。
世界中見渡してもこんなロボットは存在しない。
これまではトニーや僕個人に何か仕事の相談が来ても自信を持って”やります!”と言い切れなかったが、技術的な外堀が埋まってきた今、トニーとどんな事にも挑戦していける自信がついてきた。
半年ほど前には、トニーと一緒にラジオ出演することも叶った。
このラジオ出演自体は、究極の幸運が作用して偶然に実現しただけではあるが、一生語り継ぎたい程に嬉しく、最高に楽しい経験だった。
このような経験を積んでいけるように、一人でも多くの方に”TONY ROBOT”という存在を知ってもらう努力を重ねていくべきだと強く思う。
トニーを呼んでみたい、一日店長をして欲しい、こんな舞台に立ってほしい、もしそんな何かがあればお声がけ頂けたら嬉しいです。
もちろん待っているだけでなく、頭の中にあるトニーとの挑戦したいことの一つ一つも実行に移して行こうと思う。
今現在、僕の頭の中にはトニーに歌って貰いたい楽曲の候補が百曲以上ある。
これらの楽曲全てをトニーのレパートリーとして加えられた時、トニーの感情表現の幅は大きく広がり、自分の技術力を更に深めていけると確信している。
楽曲の数だけ、様々な方達にトニーを知ってもらえるきっかけにもなる。
何より、歌唱機能の開発が本当に楽しかった。
だからこそ今年の残り数日間は、トニーの歌唱機能の開発を追求していこう思う。
おしまい。
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