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連載小説『縄文人の俺が弥生人のアイツに土器土器するなて』第10章 「嘘みたいな本当の話」

                     
 縄文時代に来て、アシリと意に沿わぬまま結婚をし、しかも夫の嫁に恋をしてしまった僕はその日の夜、本当に不意打ちをくらったような悲しみにくれることになる。

 その日、アシリは僕じゃなくてルルを連れて夜の森に消えた。
 寝たフリをしていた僕は、アシリがルルを抱き上げて、ルルは、これまた寝たフリをしているんだけど、極上の笑みをこぼしてそっと僕を起こさないように森に消えていった。

 竪穴式住居の中には虫除けのためか、夏でも炉に火がくべられて。夜遅くなるとそれは熾火になっていたのだけど。僕は、一人っきりで残されたことがあまりにも寂しくて。悲しいやら、アシリに置いていかれて悔しいやらで、泣いた。
 そしてその時初めて、ルルがどれほど悲しんでいたかわかったんだ。

 こんな悲しい思いをさせてしまって、ごめんなさい……と。僕は、僕が被害者だと思っていたけど。こんな、世界中から取り残されたような悲しみを感じさせていたなんて、思ってもみなかったんだ。

(こういう時……残された一人を寂しくなくするなんて……できるんだろうか。僕は、3人でするとか絶対嫌だし。ルルだってそんなの、嫌だろう。ルルは、アシリのことが大好きだから……今頃2人で、すっごいしあわせそうにしてるんだろうな。子どもを作るセックスを、しているんだろう。……僕はまだ、挿れられたこともないのに。)

 顔に血が昇って、カーッとなった。竪穴式住居の組み木には、煙を逃がす三角になった穴があって。その穴から星が見える。静かにそこから煙が流れていく。ここにいると、ものすごい静寂を感じる。縄文時代って、蛙の声しかしないんだ。そしてその蛙の声は、あらゆる感覚を僕から奪っていく。一つの音の流れを泳いでいるような感覚になる。蛙の雄が雌を呼ぶ声。まるで聖なる合唱のように、僕の体の中に音が響き渡ってくる。

(あ……でも、ある意味、すごい。)
 僕は思った。

(ルルとアシリがセックスをしなければ、巡り巡っては、子孫が。2018年に生きる僕の代までの血脈が途絶えて日本人はいなくなっていたんだ……。今はきっと、縄文と弥生の交わる時間軸だろうから……縄文時代晩期か弥生時代草創期。この後、2300年近くの時間を、縄文人は弥生人とも交わって、綿々とセックスをし続けて、子どもを産んで、育ててきたんだ……。)

「そして、その子が子どもを産んで……僕の代までバトンを繋げてきたのか」
 そう思うと、どこか一つでも何かのピースが欠けたら、今の日本人はいないような気がしてきた。
「僕は……アシリの子どもを、産むべきなのか?」

 そう考えている僕の体は、大きな胸が貫頭衣の中に収まりきらないほどに膨れ上がっているし、あそこはアシリとルルのことを考えて、悲しみで濡れてしまっている。
「アシリのヤツ、本当むかつく……」

 体を起こして僕は、竪穴式住居の柱を拳で叩いた。アシリが昨夜触れた場所が、変な熱を帯びている。僕はバンバンと柱を叩いて泣いた。
「もう、本当、あったま来る!」 

 蛙の声が高まっていく。こんな夜を一体、どう過ごせばいいのか。眠れないまま夜が明けるのかもしれない。僕は、ルルの小さな体からあの簡単な服が脱がされるのかと思ってまた腹が立ち、悲しくなり、でも。

 ルルが明日見せるであろう嬉しそうな顔を思って、信じられないけど訪れた、「よかったね」という感情の不思議さを、味わっていた……。
 
 
 つづく

連載小説『縄文人のオレが弥生人のアイツに土器土器するなんて』

第1章 ストーンサークルで神に会う

第2章 弥生人として嫁に行く

第3章 (有料300円)コレ、どうしたらいいの?

第4章 縄文人の男を取り合うだなんて

第5章 初めての恋

第6章 胸が土器土器する

第7章 (有料200円 ロヒンギャ難民支援付き)縄文人と交わるだなんて

第8章 恋とかしても生きていかなきゃいけないし

第9章 弥生式土器を教えたくない僕

第10章 嘘みたいな本当の話 <-いまここ

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