6月の推奨香木は、正真正銘の「沈の佐曾羅」♫

「沈の」佐曾羅とは、一部御家流の先生方が「沈香の」佐曾羅という意味で使われる表現です。
『六国五味傳』の『六国列香之辨』において、「六国の列(伽羅・羅国・真那賀・真南蛮・寸門陀羅・佐曾羅)の六品が何れも沈水香木である」と記されているにも拘らず、敢えて「沈の」と断りを入れられる理由は、一般的に御家流で佐曾羅と言えば「栴檀」及び「赤栴檀」を指すからだと思われます。
歴史的名香の中でも「至高の佐曾羅」と評価されるのは、いわゆる「手筥の太子」、すなわち淡路島に漂着した香木を鑑定した聖徳太子が〝仏教を篤く信奉しているご褒美に賜わった“ と喜び、百済から職人を呼び寄せて仏様を彫らせた、その余材と伝わるものです。

伝承の真偽はともかくとして、存じ上げる名香『太子』或いは『法隆寺』は沈香ではなく、最上質と思われる栴檀香、すなわちインド産の白檀です。
(淡路島に漂着した香木が沈香あるいは伽羅ではなく白檀であったであろうと推察されますから、むしろ辻褄が合うと言えるのですが…。)

他にも歴史的名香の佐曾羅として白檀や赤栴檀が用いられている例は珍しく無いのですが、沈香が用いられている方が一般的と言えます。
ちなみに存じ上げる範囲では、志野流香道では沈香しか用いられません。
(赤栴檀を「鼻休め」として用いられる例は知られています)

常々申し上げているように、香木をどのように分類・評価して用いるかは、流派の歴代御家元・御宗家のご判断によって決められるものです。
従って「佐曾羅」という木所を何を拠り所として判定するのかは、複雑な要素が絡み合って一般では容易には答えが出せず、それが香道の奥深さに繋がっているようにも思えます。
果たして沈香の香気の中に白檀・赤栴檀の香気に通ずるものを聞き分けることがあるのか、気のせいなのか…興味深いところです。

良い「顔」をしています

さて、ようやく本題に入ります。
典型的なインドネシア、いかにも「カリマンタン産」と思える最上質の沈香です。

樹脂化の密度も平均して高いです

佐曾羅の特徴として伝書に記載されるのは「匂い冷やかにして酸し。上品、炷き出し伽羅にまがうなり。」等ですが、今回の推奨香木は、それらの表現を彷彿させる…とまでは言い切れないのですが、特有の酸味や木所の判断に迷うような立ち始めが好ましい、とても上質な「沈の佐曾羅」としてお奨めできます。
樹脂分を多く含んで火末が永く味わえるところから、次の和歌を証歌として「仮銘 老いせぬ秋」と付銘しました。
流派を問わずお愉しみいただければ幸いに存じます。

露ながら折りてかざさむ菊の花老いせぬ秋の久しかるべく  
                          (紀友則)

木目が素直に通っており、綺麗に截香できそうです




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