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170.人間観察

競馬場の近所に住んでいる。

全国に10ヶ所しかないJRAの競馬場のうちの一つである。

その近くに住む恩恵は、ウォーキングの時に外周の距離感がほどよいとか、その程度の事だ。

捻り出すとしたら

⚫︎開催の時期になるとタレント達がやってくる(興味は無いが)

⚫︎開催の時期、夜中に馬の鳴き声が聞こえる事がある

⚫︎風向きの調子が良ければ家まで馬の匂いが届く

という非日常的な事がある。弊害があるとするならば

⚫︎各地から人が集まってくるので混雑する

⚫︎万が一ぶつかったら、とんでもない金額を請求されるであろう馬を乗せた車(馬運車)が割と気軽に市内を走り回っている

⚫︎窓を開けて寝ていると家の中で馬の匂いを感じる事がある

といった所だろうか。

競馬の話を出来る人が周りに少ないのであまり言ってないが、競馬自体は昔から好きである。馬券を買うという事はそんなに多く無いが、スポーツを楽しむような感じで見ている。

なので競馬場に行くという事はあまり無い。ただ近所に住んでいると開催の時期に競馬場に招待される事がある。定員⚪︎名、希望者がいれば申請してください的な感じで。

招待されるのであれば試しに行ってみようと一瞬考えた事もあるが、基本的に大家からそれを通知されるので、承諾すれば大家と一緒に行く可能性が高い。しかもドレスコードがある。

なので"なぜ大家と襟付きのシャツを着て競馬場に行かねばならぬのか"と思い、それに便乗した事は無い。まあ行ったら行ったで何か話のネタになりそうではあるのだが。

これを見ている方の中に競馬場に行った事がある人はどの程度いるのだろうか。定かではないが、もし誰かに"競馬場ってどうなの?"と聞かれたら私はこう答えるだろう。

【是非一度だけでも、競馬場に足を運んでいただきたい】

私自身、行った回数はそこまで多くはない。だがそれでも私の経験則的に競馬場は面白いので一度行っていただきたい。そう思う。競馬に興味がなくても、馬券を買わなくても大丈夫。

では何が面白いのかと言うと、それは【人】である。福島の競馬場しか行った事が無いので他の競馬場の事は分からないが、ここでは様々な人間模様を見る事が出来る。

まず西側、東側と入り口は大きく分けると二つあるが、西側(国道4号線側)から入っていただきたい。西側には直接2階に行く階段と1階正面玄関からフロアに行く入り口があるが、1階からフロアに行く方をお勧めする。

するとそこには競馬に勤しむ人がいらっしゃると思う。まずそこで新聞を手に持ち、ジャケットにキャップをコーディネートするという、漫画やドラマでしか見かけないステレオタイプの"競馬場のおっさん"がいると思う。実在するのである。

更に周辺を見渡すと、そこで不思議な景色が見れると思う。私はいつもそれを見るとこう思うのだ。

『(ここお前の家か?)』と。

地べたに新聞紙をひき、そこを拠点に活動している方々だ。それが良いとも悪いとも言えないが、ただ何故そこに新聞紙をひくと彼らの陣地になるのか理解しかねる。しかもそこに座るだけならまだしも、寝転がったり、睡眠を取っている人もいる。

もちろんやった事は無いが仮にその新聞紙を剥ぎ取った場合、恐らくキレられるのだろう。"ここは俺の場所だ"と。そういう気概を感じる。

縄張り意識というか、陣地取りというか、本能的に発せられる"所有の概念"という意識がそこにあるように思え、それを感じると世の中の争い事の根幹が見え隠れしているような気がして、ちょっとした社会勉強になる。

そして、施設内には至る所にモニターが設置されており、その下で競馬を食い入るように見つめるおっさん達の姿がそこにはある。その中の数人がモニターに向かって『いげぇぇぇ!ゴラァ!』『差せぇぇ!』と大声を上げて応援をしている。それはもう生活費でも賭けているのだろうかと勘繰ってしまう程の熱狂ぶり。

しかも仲間と見ているのなら分かるが、仲間も連れず大抵1人で来て声を出している人がほとんどだ。それを見ると私は思うのだ。

『(どこかに遊びに行き、その場所で1人で大声を上げる事が私に出来るだろうか)』と。

私にはそれをやっている自分が想像が出来ない。その発想が無い。でも彼らは当たり前のようにやっている。そう考えると、必須では無いが生きていく上でそれなりに大事な事である"自分の思った事をどんな場であれ表現する"という行動のヒントが隠されているようにも思える。

こんな風に1階は殺伐とした雰囲気が漂っている。不思議な事にこれが2階、3階と階層が上に行くほどその空気は薄まり、極端な言い方をすれば治安は穏やかになる。

だからと言って油断は禁物である。2階や3階は観戦用の椅子が大量に並べられているのだが、そこで横になっている人もいるし、床に唾を吐く人も見かけたら事もある。変わらずモニターに向かって叫び散らしている人もいるし、ここでも稀に地べたに陣地取りをしている人もいる。が、1階よりは殺伐としていない。ちなみにそこから上の階は関係者や招待客しか入れないので更に治安は良くなる。

こうして様々な人間模様を鑑賞できる場ではあるが、その濃淡がより濃く、禍々(まがまが)しくなる日がある。それは年末の総決算。【有馬記念】という馴染みの無い人でも聞いた事あるであろう、フェスの様なイベントの日だ。この日は福島開催ではなくパブリックビューイングでの観戦となるのだが、それでも県内外から人が訪れ、1年で1番人が集まる日となっている。

私も数年に一度、友人に誘われた時に行く事もあるが、その時目の当たりにする光景として1番の目玉は

【券売機の前】

である。いつもそこを見ると圧倒される。

何というか、私に霊的な能力など備わっていないのだが、それでも何かが見える気がするのだ。券売機前に群がる大量の人々。その頭上には黒い雲の様なモヤが漂っている様な気がする。ものすごく禍々しい雰囲気。正直、あまり近づく気になれない。

あれは何だろうかと考えたのだが、あれは恐らく【欲望の渦】というやつなのかもしれない。そう解釈している。

なにせ券売機前。これから現金を投入して当たるか外れるかの賭けに出るのだ。そこにベットする瞬間、欲望がピークに達する場面。そんな気迫を持った大量の人々が局所的に集まり、その思惑が集合体になっている気がする。

これは私の中で拡大された妄想という可能性もあるが、驚く事に同じ事を言っている人に会った事がある。

といったように、普段あまりお目にかかれない模様や現象が確認できるのだ。私の中では一見の価値ありだと思っている。

ちなみに東側の入り口は地下歩道になっていて、そこから直接レースコースの内側に行く事が出来る。出店や子供用の遊具、芝生があり西側の世界とは対極にあるエリアとなっている。西側の世界の殺伐とした雰囲気に耐えられない時はここに逃げ込むと良いと思う(帰っても良いが)。

暇で暇でしょうがない時は社会見学に来てみるのもありだと思うのだ。

おわり

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