165.姪っ子と私
私には姪っ子が2人いる。私の兄の子供だ。大体7歳と4歳くらいの姉妹である。
もしも違う土地に住んでいたらそこまで会う機会が無かったと思うが、兄夫婦が私の実家で親と同居しているので数ヶ月に一度、私が実家に帰るタイミングなどに度々遭遇する。
ただ、子供にとって数ヶ月に一度というスパンは長い期間になるので、何度顔を合わせようとも初対面の様な挙動で出迎え、言葉少なく緊張した面持ちでジッと私の事を眺めている。
まだ姉の方は生きてきた年数分、会った回数が多いので比較的肩の力は抜けているが、妹の方は誰かの側にいないと私と同じ空間にいられないようだ。
だが叔父さん(私)は大丈夫。そんな挙動を取られようとも君達に悪意が無いのを知っている。
急速に仲を深めさせようと私の母が『叔父ちゃんに抱っこしてもらいな』とでも言おうものなら、『イヤァァァ!!!』と半泣きで断末魔の叫びというか、この世の終わりの様な声を出される事もある。告白してないのに勝手フラる構図。
でも叔父さんは大丈夫。そんな事で傷つきはしない。お前らとは生きてきた年数とくぐってきた場数が違うんだ。大人の余裕でそんな事態すら軽やかにいなす事が出来るし、時間が全てを解決してくれる事を知っている。
案の定、大体1時間くらいすると、徐々に緊張が解け少しづつ私に声を掛けてくる様になる。何かを持ってきては"これ見て"とか"あれ見て"と。
最近でいうと姉の方が絵が得意なようで、市だか県で最優秀賞を取ったとかで新聞に掲載された記事と絵を見せられた。確かに小1にしてはお上手である。
『(まあ俺(40歳)の方がうまいけどな)』
なんて言葉も選択肢としてあるが、そんな野暮な事は言わない。ここでも大人の余裕を発揮する。『おお、すげえじゃねえか』と頭を撫でれば姪っ子ニンマリ、叔父さんホッコリである。
だがここまできても妹の方は警戒を解かない。前半より肩の力は抜けているが最寄りの大人の側を離れず、隙あらばこちらをジッと見つめている。
本来であればこの壁も時間が解決してくれるのかもしれないが、叔父さんも立派な大人。そんなに暇じゃない。次の予定が入っている。いつもそこそこの滞在時間で帰路へつくのだ。
帰り支度を整え玄関に向かうと、姉が見送りに来てくれ、妹は最寄りの大人に耳打ちで『ワタシも見送る』的な事を言い、大人に保護されながら見送りに来てくれる。少なくとも嫌われてはいないようである。
『ありがとな』と姉の頭を撫でてニンマリさせ、妹にも『ありがとな。またな』と言いながら頭を撫でるとニヤっとしている。『(同じ末っ子同士、お前とも打ち解ける日が来るのだろう)』そんな心持ちで実家を後にする。
こうして少し打ち解け、数ヶ月経った頃に実家を再訪するとまた関係性がリセットされる。この繰り返し。
きっといつか仲良くなれる日が来るのだろう。そう姪っ子たちの心の解放を少し願いつつ過ごしている。
人によっては子供用に声のトーンを変化させて幼子達と戯れるのかもしれないが、《退かぬ、媚びぬ、省みぬ》のメンタルで接する私は基本的に居酒屋で友人達と話すのと同じトーンで話しかける。お互いナチュラルな状態で仲良くなり、フラットに付き合えれば良い。叔父さんはそんな事を思っている。
だが近頃、不穏な噂を耳にした。
それは唐突に我が母から告げられた事実。
あいつらは最近、私の事をこう呼んでいるらしいのだ。
【弟】
と。
『(・・・オトウト・・)』
最初聞いた時は叔父さんビックリした。少し鼻水が出たよ。一体どういう事なのだろうかと。色々思う事はあるが、まず最初にお前たちに言っておこう。
《お前らは間違っちゃいない》と。
私はお前らのパパ(兄)の弟。その通りだ。40年も前からその肩書を背負って生きてきた。学術的には間違っちゃいない。間違っちゃいないのだが、叔父さんはこう思ったよ。
『なんだい、その距離感は?』
ってね。
感覚的には"山田"って呼ばれてんのと変わらないぞ。そらあ"気心知れた仲"とまではいかないと思う。けど、会話した事も無い赤の他人ではないじゃないか。なんならお前らが産まれた時には抱っこだってしてるし、もしDNAを調べたら20〜30%は一致するであろう程の仲じゃないか。
それとも何かい?"パパの弟"という意味で呼んでる訳ではなく『あんたはアタイ達の弟みたいなもんだよ』的な事なのかい?そりゃあまりにも酷いじゃないか。お年玉をあげる弟なんてこの世にいないぞ?
そんなざわめきが心の内で巻き起こる。
しかも聞くところによると近々ではなく、結構前からそう呼ばれてるらしいじゃないか。
例えば私が"これから実家に向かう"と親に連絡をして、それが姪っ子達に伝わると『弟来るって!お片付けしなきゃ!』とバタバタしているらしい。
先日実家に帰った時なんかは私の親が『弟来たよー』と姪達に伝えていた。《いや、子供は良いけど、せめてお前らは受け入れるな》と思いながらその様子を見つめていた。
いずれ彼女達も大人になるのだろう。だがその頃までこれが続いていたら多少考えものだ。もし実家に帰った時
『あれ、叔父ちゃんじゃん、何しに来たの?』
と
『あれ、弟じゃん、何しに来たの?』
では何かが違う。ずいぶんと舐められている感がある。
でもまあ良い。子供のする事だ。大目に見ようじゃないか。今だけは。
もう少し大人になるまでに直ればいい。
叔父さんはお前らの成長を楽しみに待っているよ。
おわり
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