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【hint.287】この言葉に、誰しもが少なくとも一度は思い煩わされるのではないだろうか

「この世でもあの世でも、人間も天使もみんなへんで、ふつうなんだ。頭おかしくて、狂ってて、それがふつうなんだよ」
(森 絵都 著『カラフル』/文春文庫 より引用)

 この文庫本は、先日の年末年始、宮崎県・都城市への帰省のお伴に何かいい本はないかなぁと、いつもふらっと立ち寄る本屋でそれらしい本を探していたところ、「大人も泣ける青春小説!」「高校生が選んだ読みたい文庫No.1」「累計100万部突破の名作」という本の帯が目について、中身をパラパラとめくりもせずに、いわゆるジャケ買いをした本。

 結局、帰省準備のどさくさに紛れて、お伴に携えることはできなかったのだけれども、年が明けて東京に戻って来たあと、日常の生活に戻って少し落ち着いた時に、ふと思い出して読み始めることになったのだった。

 物語の設定も非常に簡潔でスッと入り込みやすく、登場人物の関係性も僕としてはけっこうシンプルに感じ、サクサクと読み進めていけた一冊。

 朝夕の通勤電車の中でぼちぼち読み進めているうちに、一週間ほどで読み切ってしまったんじゃないかな。


 物語の設定の大枠はこうだ。

 親切にも、物語の中からそのまま引っ張って来やすいところがあったので、ちょっとだけここで紹介してみたい。

1 さっきも言ったが、ぼくは前世で大きなあやまちを犯した魂だ。本来ならもう二度と生まれ変わることができないところだけど、幸運にも抽選で当たり、再挑戦のチャンスを得た。
2 再挑戦とは、ぼくが前世で失敗した下界で、もういちど修行を積んでくることをいう。
3 修行とは、ぼくの魂がある一定の期間、下界にいるだれかの体を借りてすごすことをいう。借りる人間、およびその家庭はプラプラのボスが指定する。
4 この修行を、俗に、天使の業界では「ホームステイ」という。
7 修行が順調に進むと、ある時点で、ぼくはおのずと前世の記憶をとりもどすことになっている。前世で犯したあやまちの大きさをぼくが自覚したその瞬間にホームステイは終了。ぼくの魂は借りていた人間の体を離れて昇天し、ぶじ輪廻のサイクルに復帰することになる。めでたし、めでたしというわけである(ほんとかよ)。

 プラプラというのは、この設定を主人公に伝えている天使の名前。


 主人公が、ホームステイ先に指定されたのは、高校受験を控えた中学三年生の男の子。

 その男の子として「ホームステイ」を過ごしていく中で、その男の子の生前の人間関係へと、主人公は入り込んでいく。

 何人かの主要な人間関係との関係性が深まっていったのちに、主人公が、男の子の体を借りて話した言葉が、冒頭にも挙げたものだ。

「この世でもあの世でも、人間も天使もみんなへんで、ふつうなんだ。頭おかしくて、狂ってて、それがふつうなんだよ」

 「普通」という言葉がある。

 そしてこの言葉に思い煩わされてしまうことを、誰しもが、人生のどこかのタイミングで少なくとも一度は経験するのではないだろうか。

 もしかすると、生まれて此の方、「普通」という言葉に人生を締め付けられてしまって苦しいという人もあるかもしれない。

 そんな「普通」を、主人公は、作者は、「みんなへんで、ふつうなんだ」「頭おかしくて、狂ってて、それがふつうなんだよ」と言ってのける。

「こんなことを考える自分って普通じゃないんだよ」と、最終的には自分で自分のことを傷つけ、ガサガサとした心に仕上げていってしまうことを経験したことのある僕にも、気持ちが晴れやかになるセリフとして響いたところだった。

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