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現物不動産投資は資産だが自宅購入は負債なのか

ロバート・キヨサキ氏が書いた「金持ち父さん貧乏父さん」は米国で1997年に出版されて以来、日本を含めて世界中で支持を受けているマネー本です。

しかし著者主張の一つである「自宅購入は負債だが不動産投資による賃貸用物件は資産である」という整理に私は与しません。

一方で本稿はマイホーム所有の効用度のような定性的側面に対する経済的価値を認めて、持ち家を勧めるものでもありません。

つまるところ本人居住用であろうが賃貸用であろうが、購入した不動産はその個別的価値はもちろん異なりますが、すべて資産であるとの会計的で単純明快な主張です。

不動産を借金で購入したのであれば個人バランスシートの右側に負債も同時発生しますし、現金購入であれば左側の資産の入れ替えだけで利用目的による違いは生じません。

購入不動産が自己居住であるとキャッシュを生まないので「負債」だが、賃貸物件は家賃収入があるので「資産」になるとの不思議な理屈も「帰属家賃」という概念を使いその間違いを確認することができます。

帰属家賃とは「持ち家に居住している場合でも概念的に発生している、所有者が自分に貸して得ているはずの家賃」を意味します。

すなわち自宅用不動産と賃貸用不動産の差は借主が自分自身であるか第三者であるかの違いだけとの整理です。

購入者自身を借主とする不動産投資のメリットは「競争力がある住宅ローンの利用」と「相対的に空室と家賃滞納リスクが少なく物件管理も良好になること」があげられます。

(とりあえずは)自宅としての利用なので当たり前ですね。

一方デメリットは「経済合理性に見合わない物件購入の可能性が高まる」ことでしょう。

端的に言えば、自分自身に賃貸することの甘えの結果として、帰属家賃に見合わない高額物件を購入したり、将来に売却しづらいこだわりの家を建築してしまう等のリスクです。

また「不動産購入者=借主」の図式では借主の立場としても、より競争力のある選択肢が他にあるにもかかわらず、それを取りにくくなるというデメリットもあります。

具体的には、市場に出回る賃貸物件だけではなくて実家や社宅などに住むことが可能な人は、経済的側面だけでみればそこに住むことの方がはるかに有利です。

反対にこのような選択肢がないにもかかわらず、自分自身が賃貸アパート住まいの一方で貸家への不動産投資をする人がいます。

「自宅は負債だが賃貸物件への投資は資産」との宗教的な信念なのでしょうが、支払い家賃と受け取り家賃は金額上の差異が多少あろうとも、実質的に「行って来い状態」になっているだけというのが客観的事実です。

話をまとめていきます。

① 自宅用か賃貸用かを問わず不動産購入はすべて現物資産への投資であり、先ずは全資産の中での不動産割合や負債とのバランスが適正であるかを確認すること

② 購入後の用途が自宅用か賃貸用かを問わず、資産化する不動産の購入時に注意深く検討すべきことは次の2点

1. 保有時キャッシュフローの黒字化(貸しやすい物件)

2. 売却時キャピタルゲイン・ロス予測(売りやすい物件)

③ キャッシュフローの黒字化に於いては、自分自身に貸して得られる帰属家賃と他人に貸して得られる家賃のどちらに優位性があるか、自らを借主の立場に置き換えての他選択肢の有無も含めてよく確認すること

④ 売却時キャピタルゲインのためには、仮に自宅目的の購入であっても賃借人(つまり自分自身や同居家族)の経済合理性のない浮ついた要求にあまり耳を傾けないこと

そもそも論として自身の資産ポートフォリオ全体が小規模な段階では、そこに一回の投資金額が高額になりがちな現物不動産を含めないという考え方は正攻法です。

特に不動産をフルローンに近い形で購入してしまうと、個人バランスシート上の不動産資産割合と見合いの住宅ローン負債比率が急拡大して、流動性比率の観点から健全性に欠けてしまうケースが多いからです。

物件価値下落による債務超過と収入減などの事情により債務不履行が同時期に発生すると不動産投資は究極的な失敗に終わります。

しかしそこにも本質的に「自宅用」と「賃貸用」の違いは存在せず、共に投資戦略上の問題という整理です。

追記:

個人バランスシートが一定規模以上になる場合、アセットアロケーションの観点により現物不動産を加えるという選択肢は大いに有りです。

もちろんこの場合でも自宅用と賃貸用区分はせずに、自宅として利用するのであれば合理性のある帰属家賃を算出して、キャッシュフロー管理をしっかりと行う必要があります。

問題はその際の物件選定ですが、長期間に渡りフローとストック両面でのプラスを期待できるごく一部の物件を除き、区分所有マンション購入には十分に注意すべきでしょう。

その理由に関する記事を以前に書いたことがありますので、ご興味がある方はぜひこちらもご参照下さい。


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