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体内時計と睡眠のお話〜睡眠リズムはどうやって作られるのか?

こんばんわ!

睡眠のお話が続きます。

今回は、体内時計と睡眠の関係を通して、睡眠リズムを作るメカニズムとその方法を論文情報を元に書いていきます。

ちょっと前にラメルテオンで気絶するほど症状が出てしまった方のお話をしました。ラメルテオンを服用するということは結局体内時計が乱れているのですよね。その流れで今日のブログを書いてみようと思いました。

人工ライトに溢れている現代社会だからこそ不眠に悩んでいる人は多いのです。

体内時計という単語を出しましたが、この言葉を聞いて皆さんは何を思い浮かべますか?
不眠症のない健康な人は、決まった時間に眠くなるし、休みの日には目覚まし時計がなくても自然と朝の一定時刻に目覚めてしまいます。決まった時間にお腹も空くし、なんとなく今〇時くらいだなと直感的に思えるのも体内時計があるからなんです。
夜更かしして体内時計が乱れると、翌日だるくて昨日早く眠ればよかったなんて反省したり。
そういった話をしていきます。

体内時計と言いますか、学術的には、概日リズムというのですが、人間の身体はあらゆるところでこの概日リズムが存在します。心臓の鼓動もその一つ。これらはどうやって制御されているのか、考えたことありますか?

Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorders: a Contemporary Review of Neurobiology, Treatment, and Dysregulation in Neurodegenerative Disease.

概日リズム睡眠障害について、神経生物学、治療、神経変性疾患での不制御の現代総括を参考にやっていきます。


概日リズムとは?

概日リズムは24時間を通して振動していて(リズムを刻んでいて)、多くの身体活動の過程、摂食行動や睡眠・活動サイクルの制御、代謝性ホメオスタシス(血圧・体温)の側面に影響を与えます。

内因性の生物時計と外因性の明暗サイクルのズレは苦痛や機能不全を伴い、治療目標は、外的環境や時間に再同調(適応)することになります。

この概日システムは、実際は25時間とも言われていますが、明暗サイクルによって、食事や仕事、運動、光の曝露(最も顕著)といった同調因子による外的刺激を通して24時間に同調(リセット)されます。

しかしこの内因性の概日リズムは現代の生活方式、シフトワークや24時間営業に従事する人の割合の増加と、人工ライトが偏在する文化の影響もあり、維持するのが困難になりつつあります。

概日リズムの崩壊は、がんや神経変性疾患、心疾患、糖尿病、内分泌、消化器疾患など多彩な疾患と関連しています。

この概日リズムの発見は1世紀前に遡り、Jean-Jacques d’Ortous de Mairanは,暗箱の中でオジギソウの葉の開閉(就眠運動)が24時間周期で生じることから,この日内変動が外環境の変動に従属しているのではなく,生物に内的な機構(概日時計)によって生じていると指摘したことから始まります。

その後、網膜視床下部路を含む解剖学的構造が同定され、視交叉上核が脳におけるタイムキーパーだとラットでの研究で発見されました。

マウスでの実験で、網膜内に存在するメラノプシンを欠損したマウスで通常マウスと比較して行動反応が40%低下したというデータからも、メラノプシンを含む網膜視床下部路の光からの刺激が生体活動で重要な役割を担っているのがわかります2)。

概日神経生物学機序について


Tyler A. Steele et al (2021)ら1) Fig.1より一部改変.

外界の刺激、特にを通して、①網膜視床下部路から②視交叉上核へ、③視床下部室傍核から④脊髄の交感神経系を経由して下り、⑤上頸神経節を経由して昇っていき最終的に、⑥松果腺へ辿り着く。そこで、⑦メラトニンの放出が制御されています。

視交叉上核室傍核は重要な役割を担っており、視交叉上核からの刺激だけでなく、心臓・肝臓・膵臓のような臓器を制御し、洞調律や摂食に必要な消化酵素の分泌にも関わっています。

これらの主要な臓器での働きは、外界の明暗サイクルとは独立して機能する生物時計を持っているが、視交叉上核はこの末梢のリズムの同調にも欠かせません。

もっと簡単にまとめると、光→目で検出→脳(視交叉上核)→脳(室傍核)→脳(松果腺)→血液にメラトニン放出→各臓器と同調、体温・睡眠リズム調節ということになります。

概日リズム睡眠障害について

繰り返しますが、内因性の生体リズム(各臓器固有の体内時計)と外界の明暗サイクルとのズレ、つまり、睡眠・活動パターンの崩れが少なくとも3ヶ月持続していること(時差ぼけは除外)で診断されます。

Circadian rhythm sleep-wake disorders(CRSWDs)は主に2種類に分かれ、睡眠相が後ろに遅れるもの(delayed sleep-wake phase disoder, DSWPD)と睡眠相が前進するもの(advanced sleep-wake phase disorder, ASWPD)となります。他にも、4時間以上続けて眠れないもの(Irregular sleep-wake rhythm disorder, ISWRD)や不眠や過度の眠気が出現する時期と無症候期が交代で出現するもの(non-24-h sleep-wake rhythm disorder, Non-24)があります。

これらの睡眠障害の治療となると、この生体リズムのメカニズムをうまく利用してやっていくしかないのですよね。

現在は唾液や尿中のメラトニン分泌量を測定できるキットもあるようでして、、
そういうものがなくても日頃の睡眠・活動の記録が1〜2週間分あれば何時頃にメラトニンが分泌されているのか、何時に深部体温が最も低くなるのか知れるかもしれません。

というのも、この睡眠障害の治療は、光療法とメラトニンの投与時間が重要でして、眠りにつく2時間前に薄暗い光の中で過ごしメラトニン分泌をさせること(Dim Light Melatonin onset, DLMO)、睡眠後5〜6時間後に深部体温が最も低くなりその後に太陽光を浴びること、この2つが鍵のようです。

眠れない人への睡眠衛生指導

ほとんどは、先に紹介した睡眠相が後ろに遅れるタイプのDSWPDだと思うので(睡眠相が前進するのは高齢者に多い)、DSWPDを前提に進めていきますが、以下の情報を参考にやってみてください。

経口メラトニンを試すのであれば、薄明下メラトニン分泌開始時刻(以下、DLMO)の2〜7時間前に服用すると睡眠相は前進する。一方、メラトニンをDLMOの後、または、朝に投与すると睡眠相は後退します。

光療法に関しては、夕方や深部体温が最も低くなる前の早朝に光を浴びてしまうと睡眠相は後退するので、夜はパソコンやビデオゲーム、スマホ、iPadなどは避け、深部体温が低下した後(睡眠後5〜6時間後)に朝に光を最低30分間浴びると睡眠相は前進します。
夕方以降はブルーライト眼鏡をかけることも推奨されているようです。

メラトニンは日本では処方箋がないと手に入らないのでまずは、夜間の人工ライト接触を減らす、ブルーライト眼鏡をかける、就寝後6時間以降で太陽光を30分浴びること、ですね。メラトニンを試す場合は、人によって鎮静が強くかかる人もいるそうなので服用時間をDLMOの2〜7時間の間で調整しましょう。

メラトニンを代謝するCYP1A2は、個人によって遺伝子多型が異なり(アルコールが強い・弱いと同じ)、poor metabolizer(PM)に該当する人はメラトニンの代謝が遅く、その代謝物は作用を示すため翌日の昼くらいまで持ち越すこともあるかもしれません。その場合は、合わないので、別のオレキシン拮抗薬のような眠剤を試してみても良いかもしれません。眠剤を使用する前に日中はしっかり活動して身体を疲れさせておくなど基本的なことも大切です。

Tyler A. Steele et al(2021)ら1)Fig.4より一部改変.

睡眠リズムを戻すのは辛いでしょう。意思の強さも必要です。まずは、朝に30分間目を開けて太陽の光を浴びてみましょう(太陽光は直接見ないでね)。身体が乗り気ではなくても、30分やったら昼まで少し寝ようなど自分にうまいこと言い訳つけてやってみてください。目に光刺激を入れるのが大事なのは前半部分で説明しましたね。

実際論文で紹介されている治療例

Tyler A. Steele et al(2021)ら1)Fig.6より引用.

 上の図は睡眠相が遅れているDSWPDの22歳男性のアクチグラフ(睡眠時間と活動時間を測定したグラフ)です。平均入眠時間は2:30、起床時間は10:30。睡眠時間は6h30mです。活動時間は黒く、睡眠時間はグレーで示されています。たまに不定期で昼に睡眠を取っていることもこの図から窺えます。朝の光療法とメラトニン0.5mgを18時に服用することで、0時前には入眠でき、7時に起床するようになった例です。日中の眠気も緩和されたとのこと。

またDSWPDではないISWRDやNon-24など(詳細は「概日リズム睡眠障害について」の項を参照)の非典型的な睡眠障害でも、個人の睡眠リズムに基づいて適切なアプローチをすれば改善しうることもわかっています3)。

まずはアクチグラフを1〜2週間分作成し、現在のメラトニンが分泌されている時間、体温が下がる時間を把握し、本記事で記述した睡眠リズム基礎知識をもとに睡眠相を前進または後進させ、元のリズムに戻していきましょう。

鍵は太陽の光を目からしっかり入れることです!!


参考文献

1) Tyler A. Steele et al . Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorders: a Contemporary Review of Neurobiology, Treatment, and Dysregulation in Neurodegenerative Disease. NeuroTherapeutics.2021 Jan;18(1):53-74.

2) Norman F Ruby et al. Role of melanopsin in circadian responses to light. Science.2002 Dec 13;298(5601):2211-3.

3) Melanie Pogach et al. Challenging Circadian Rhythm Disorder Cases. Neurol Clin 37(2019) 579-599.


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