お薬のお話〜亜鉛補充で気をつけるべき点とは?
(写真: 猫とくすり by ねこちゃんホンポさんより拝借)
こんにちは、やま茶です。
今回は、ノベルジン®︎やプロマック®︎(保険適応外)を用いた亜鉛補充について、薬剤師として知っておきたい点をまとめてみようと思います。
Q. 酢酸亜鉛を味覚障害で半年間100mg /日で内服している29歳女性(164cm, 44kg)の患者さんが少し息切れや立ちくらみをするようになってきたと訴えがありました。 あなたは何を考え、どう介入しますか? うつ病の治療中で内服薬はセルトラリン50mg /日と酢酸亜鉛100mg/日の2剤(do処方)とします。食事制限のダイエットを1年前からしており偏食であると申し出あり。採血データはありません。
※上記のQ.に対して正解はありません。以下の情報を参考にbrain work をしましょう。
本記事は以下の文献を参考に作成しています。
1) ノベルジン®︎、プロマック®︎の添付文書.
2) H N Hoffman 2nd et al. Zinc-Induced Copper Dificiency. Gastroenterology. 1988 Feb;94(2):508-12.
亜鉛は、人間が生命活動を行う上で必須の微量元素
その亜鉛が低下してしまう原因には、偏食やストレス、肝疾患、腎疾患、褥瘡等、様々な原因があります。
亜鉛が不足すると、味覚障害や食欲低下、皮膚炎、脱毛、貧血等の多岐にわたる症状が出ます。
前置きはこれくらいにして、お薬のお話にいきましょう。
ノベルジン®︎とプロマック®︎の亜鉛補充による気づかれにくい副作用
以下は、ノベルジン®︎とプロマック®︎の添付文書を一部抜粋したものです。
1) ノベルジン®︎、プロマック®︎の添付文書一部改変.
赤線の箇所を今回は見ていきたいと思います。
亜鉛補充による銅欠乏症です。
高用量の亜鉛投与により、消化管での銅の吸収が阻害され、銅濃度が低下し銅欠乏症となり、貧血、好中球減少、神経症状等が出現することが知られています2)。
イギリスにおける、高用量の亜鉛を投与された患者さんの小規模実態調査3)によると、70人の亜鉛投与患者さんのうち2人が血清銅濃度が測定され、1人に銅欠乏症の副作用が報告されていました。
また、70人のうちの9%(6〜7人)に原因不明の貧血がみられ、7%(4〜5人)は銅欠乏症によると思われる神経症状が発現していました。
つまり、高用量の亜鉛投与時に副作用としての銅欠乏症の頻度は低いが、貧血や神経症状が血清銅濃度低下によるものと認知されていないこと、銅濃度を測定していれば防げることがわかります。
上記の事実は、薬剤師として血清銅濃度測定の提案や銅欠乏症の症状のモニタリング等、介入できそうですね。
亜鉛補充における高用量とはどのくらい?
メーカー等から明確に◯mgから高用量という規定はないのですが、文献を参考に薬剤師として目安になる用量を探ってみました!
アメリカミネソタ州からの文献2)によると、亜鉛110〜165mgを10ヶ月間投与した症例に銅欠乏症がみられたこと、
また、以下の日本の透析患者でのデータ4)で、銅欠乏症を発症しないと考えられる亜鉛の血清上限濃度と1回50mgを1日2回投与した血中濃度データから、亜鉛100mg以上/日(参考までに、亜鉛の1日摂取量は15mg, プロマック®︎150mg/日だと亜鉛33.8mg, ノベルジン®︎は規格量=亜鉛量)を目安にみておくのもありかと思います。
4)より抜粋. 銅欠乏症を発症しないと考えられる血清亜鉛の安全濃度域は41.3〜78.3μg/dL。
4)より抜粋. 酢酸亜鉛を1回50mg, 1日2回投与を3ヶ月経過時点で亜鉛安全濃度域(Fig. 6)を超えている。
亜鉛補充する上で採血の頻度は?
こちらも文献を参考にみていきます。
1日100mg未満で使用している患者さんはそこまで頻回にフォローする必要はないと思われますが、貧血や好中球減少、神経症状がないかモニタリングは必要でしょう。
これらが疑われたらすぐに採血を提案し、銅を摂取(2〜3mg/日)するよう促すと良いと思われます。
しかし、透析患者さんや肝硬変患者さん等、栄養状態が悪化している方は、低アルブミン血症(アルブミンに結合できない亜鉛は尿中に排泄される)であるが故に、亜鉛を高用量投与しないといけない場合があります。
その際には月1回の頻度で亜鉛と銅を測定しても良いと思われます4)。
メーカーのHPには、血清銅の測定のタイミングについて以下のような記載もあります。
血清銅濃度については、添付文書には本剤投与により血清銅濃度が低下する可能性があるため、血清銅濃度を定期的に確認することが望ましい1)と記載しております。
なお、血清銅の測定については、亜鉛欠乏症の診療指針2)の「亜鉛投与中は、定期的(数ヵ月に1回程度)に銅、鉄を測定する。」の記載を参考にして頂き、医療機関の判断で実施して下さい。
1) ノベルジン®錠25㎎・50㎎ インタビューフォームP7(第4 版、効能追加等に伴う変更等)
2) 児玉 浩子、他:日本臨床栄養学会雑誌2016; 38(2) : 104-148
亜鉛投与により銅欠乏症になると、鉄の利用を抑制するようです。そのため、数カ月に亜鉛・銅・鉄濃度を測定することが推奨されています。
つまり、栄養状態不良の方に亜鉛100mg以上/日投与されている場合は頻回に(月1〜数カ月に1回)亜鉛と銅と鉄の測定を提案していきましょう。また、貧血や神経症状等のモニタリングも欠かさずに!
貧血の原因は鉄不足じゃなくて、銅不足によるものかもしれません。薬剤師として知っておいたほうが良いでしょう。
※ 臨床判断を行う際には、患者背景や最新の情報を考慮の上、個人の責任のもとに行いましょう。
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