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ユニバーサルのレコーディング部門の解雇とPOPHOUSEの好調ぶりから知るレーベルの役割の変化と日本への波及時期。これからのA&Rとは?

 ちょっと意外なニュースでした。業績は好調なはずの、ユニバーサルミュージックが大きなレイオフ(人材解雇)を行うというニュースです。主に、「recoreded music」の部門ということなので、A&Rなど、いわゆる音楽制作のスタッフを削減するということなのでしょう。(詳細ご存知の方がいらしたら教えてください。)

音楽制作のレーベルの関与減少、音楽家側へのパワーシフト

 拙著『最新音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本』やこのnoteでは指摘してきている、デジタル化でレコーディング費用が低廉化したこと(以前は1曲100~150万円の原盤制作費だったのが、今では極論すれば、プロの作曲家は自宅で0円で遜色のないクオリティの作品が作れます)、創作についても、アーティストとクリエイターのコーライティングやコラボレーションが中心で、レコード会社や音楽出版社の関与の割合が下がっていることが背景としてあるのでしょう。
 これからは、AI活用、データマーケティングや収益多様化のサポートなどが、アーティストに貢献する方法です。マスメディアの影響力も相対的に下がり続けていて、ストリーミングサービスでのプレイリストやSNSでの拡散、TiktokやYoutubeでユーザー作成の動画に音楽を使ったUGCがヒットの主な理由になっているのは世界中で起きていることです。

日本では外資系で正社員化という逆転現象

 僕がここで感じるのは、欧米と日本の「時間差」です。昨年は日本の大手レーベルの経営者の方々と意見交換をする機会が多かったのですが、デジタル時代を理解した若い世代のA&Rを切望されていました。これまでの日本の音楽業界は「背中を見て覚えろ」的な感覚で、システマティックなA&R育成は行われてきませんでした。地方のCD店回りの営業から、ラジオ局周りの宣伝などを経て、晴れて花形である制作分野のディレクターみたいなキャリアプランがあるだけでした。問題は、今の中堅幹部以上がデジタルリテラシーが低いことです。見て覚える「背中」が無くなってしまった訳ですね。
 現状の日本のレコード会社のビジネスモデルでは、A&Rはビジネスの幹なので、むしろ契約社員を正社員化する動きがあります。ユニバーサルミュージックジャパンは2018年に、ワーナーも昨年行われています。外資系の2社は意思決定は海外の本社が行いますから、シビアな経営者を納得させるロジックと達成目標を日本側から提示したのでしょう。

A&Rとは:アーティスト&レパートリーの略。そのアーティストのプロデュース方針を考え、適した楽曲を用意する役割。日本では従来ディレクターと言われていた役割が、レコード会社内で言い換えられた印象。

これからのA&Rの「必須科目」はコーライティングセッションの仕切り

 日本の音楽界のDXのためにと、音楽に特化したデジタルマーケターの育成にこの数年取り組んで、成果が上がり始めています。各社から人材紹介のご依頼をいただくことも増えてきました。実際、「音楽マーケティングブートキャンプ」での知見と、そこで得た人脈・情報、山口脇田のアドバイスを使って、レコード会社や音楽関係の会社に就職する大学生も出てきました。
 もう少し広げた形で「音楽業界DX人材」を大学生や第二新卒に提供するプログラムを現在準備中です。そのためのヒアリングの中でもう一つのテーマは、制作領域A&RのDXが出てきたので、こちらも併せて用意しようと思っています。
 というのも、A&Rは従来の音楽トレンドへの敏感さ、アーティストとの信頼関係というこれまで必要だった予見に加えて、新たな必須科目として、デジタルサービスに関する知識とコーライティングセッションを取りまとめられることが加わったと考えられるからです。

「山口ゼミ」出身のA&Rマンの活躍

 その証拠に、プロ作曲家育成「山口ゼミ」を経て、Co-Writing Farmのメンバーとして活躍したクリエイターが、兼務的にA&Rとして「就職」するケースがでてきています。
 ももいろクローバーZ、恵比寿中学、超特急といった魅力あるアイドルをプロデュースし、最近はVaundyもデビューさせた事務所、スターダストプロモーションは、レコード会社もグループにありますが、そこでバリバリ活躍している安楽謙一は山口ゼミ/Co-Writing farmの一期生です。作家として、安室奈美恵「Hope」などのヒット曲を出しています。作家として一定の結果が出たところで、プロデューサー志向したので、スターダストに紹介したところ、気に入られて、活躍の場をもらっているようです。今も日常的にコミュニケーションがあり、CWFメンバーからの採用もたくさんしてくれています。昨年は3期生で、おそらくCWFで一番、コーライティング制作楽曲数が多いだろうペンギンスがワーナーミュージックの社員A&Rになりました。初めての経験に作家との両立には苦労しているようですが、楽しく働いている様子です。ほかにも「山口ゼミ」から4〜5人は、A&Rが出ています。彼らに共通するのは、コーライティングというクリエイター主導、かつグローバルで行われている音楽創作/制作手法のエキスパートであることです。制作の肝のところの経験値と具体的な方法論、作曲家の人脈を持っているので即戦力となるのでしょう。もちろん著作権ビジネスや音楽業界慣習の最低限のところは、「山口ゼミ」の講義はCWF内の勉強会などで教えているので、役に立っているはずです。
 僕は、この経験・実績を踏まえて、デジタルマーケターと次世代型のA&Rマンというまさに音楽業界のDX人材を育てていく場を作ろうと準備しています。音楽業界内の中高年のデジタルリテラシーが低く、既存の音大専門学校の教員の多くはそれ以前の悲惨な状態ですから、仕組みとして必須だと感じています。大学生のダブルスクールや、音楽業界に入りたいと思っている第二新卒、社会人のリスキリング向けのオンラインを中心としたプログラムです。春には発表するべく鋭意調整中なので、音楽を仕事にしたい若者は楽しみにお待ち下さい。(メッセとかくれたらもう少し詳しい情報教えますよ)
 まだあと5年位はレコード会社に就職できるでしょうし、A&Rスキルや、デジマは、これからの音楽ビジネスの根幹ですから、獲得しておけば間違いありません。

「職業作曲家3.0」という提言

 ユニバーサル(本社)の記事にもあるように、音楽ビジネスのもう一つのテーマはAIです。これも、まずはプロの作曲家から優れた人材、結果を出したいくのがスムーズではないかと考えています。
 そんな理由で、年末から『AI時代に職業作曲家が成功する方法』(仮題)という書籍を書き始めています。6月出版の予定です。
 コーライティングを音楽制作の軸にして、その延長線上にAI活用があり、インディペンデントな存在で、デジタル時代のビジネスを理解して、アーティストとコラボレーションしていく活動スタイルを「職業作曲家3.0」と名付け、提唱していくつもりです。3年前から言い始めたのですが、生成AIの進化で、インパクトが出てきました。
 AIの発展は音楽家にとって大きなチャンスです。その活かし方を、AIのマクロな捉え方から、各論的な方法論まで本質的かつ実践的にまとめています。

旧譜活用は異分野からの資金流入とデータ活用のバリューアップ

 さて、レコード会社の役割の話にもどります。音楽創作/原盤制作については、アーティスト側にイニシアティブが移りました。そこに関与する方法は、同じ目線でコーライティングに参加することです。
 ヒットはデジタルマーケティングとデータ分析からしか生まれなくなっています。マスメディアの影響力が小さくなったことで、レコード会社のコネクション力の価値は相対的に見て、著しく落ちました。「昭和の芸能界の仕組み」が日本でもやっと終了しました。
 そして、ストリーミングサービスが音楽消費の幹になったことで、旧譜カタログの価値が上がりました。過去の再生データから今後の再生数が統計的に予測可能になっています。同時に、何かのきっかけで再生数が上振れする可能性はありますから、音楽著作権/原盤権が投資商品として成立しやすくなった訳です。
 これまでは目利き力(耳利き力)がある音楽に詳しい人でないと、音楽への投資は難しかったですが、投資家がリスクとリターンを計算することが可能になり、異分野から資金が流れる動きが欧米で大きく始まっています。
 スウェーデンのPOPHOUSEは、ABBAの元マネージャーとEQTという北欧最大のPEファンドの大物が手を組み、元Spotifyのスタッフが多数加わった会社です。旧譜の権利を買い取り、デジタルやその他の手法を駆使して、バリューアップするというビジネスモデルで大きな注目を集めています。
 資料をいただいく機会があったのですが、「これからのレコード会社の姿」がここにあるなと直感的に思いました。
 何がヒットするかはユーザーが決める、マスメディアを使った従来型の「仕掛け」は有効性が落ちている、データを丁寧に追いかけて、小さくても反応があったらそこをブーストするというのがこれからの音楽プロモーションになるでしょう。そして一定以上の成功を収めると、POPHOUSEのような会社に権利の一部ないし全部を売却するという新しいビジネスモデルが音楽界に生まれつつあります。
 StudioENTREとしては、日本版POPHOUSEの設立を真剣に検討開始しましたので、興味のある方はご連絡ください。

 デジタル化で構造変化した音楽界、Web3時代に向けて今は過渡期というのが僕の認識ですが、取り組んでおくべきことはたくさんあります。
 ユニバーサルミュージックの冒頭の記事からこんなことを考えました。質問、意見、異論反論、歓迎します。

<関連投稿>

2021年に提唱した職業作曲家3.0という概念はこちら

著作権債権化についてはこちらの記事を

昭和の芸能界の終焉についてはこちらの記事を


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