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職業作曲家の心得[8:推薦図書(前編)]

 音楽家の中には、読書が好きな人も苦手な人もいるでしょう。嫌いなことを無理くりやっても身につかないので、あくまで読書好きな人向けだとお考え下さい。僕は音楽に関する書籍はチェックする習慣を持っています。その中で、作曲家に有益だなと思う本を紹介しようと思います。
 日本語でそんな本を書く人は、見事に全員知り合いだったりするのですがww 本当に素晴らしい内容だと思いっています。

 今、確認したら単行本が出たのは2011年でした。その後文庫化されています。著者の佐藤剛さんは、音楽プロデューサーとして先輩で尊敬している方です。音楽ライター、編集者からマネージメントに進出して事務所社長としてクリエイティブにも深く関わるスタンスで、良質の作品を世に送り出した方です。知性を感じるプロデュースワークで、僕は自分がマネージメントだけではなく、プロデュースをやり始めた頃、「山口くんは、剛さんタイプだね」と言われてとても嬉しかった記憶があります。
 佐藤剛プロデュースで一番有名なのは、おそらくTHE BOOMの『島唄』でしょう。もう事務所は辞めて、物書きに戻るとおっしゃって、アーティストとマネージャーをそれぞれ独立させて、執筆活動に入られました。
 と思ったら、由紀さおりさんのジャズアルバムでiTunesで一位を取ったり、ソノダバンドを世に出したり、プロデューサー業も続けられていますが、作家としての最初の力作がこの本です。BTSに破られるまでは、アジア発で唯一のビルボード一位楽曲だった「上を向いて歩こう」、英語名「SUKIYAKI」は、野球に喩えるなら野茂英雄が出てくる前の沢村栄治投手のようなことですね。(むしろわかりにくいかなww)そんな伝説的名曲の記録を丁寧にたどった感動的なルボルタージュです。一つの楽曲からこんな物語が紡がれるのは、作曲家にとって感動的なことでしょう。また第二次世界大戦直後の日本の芸能界が感じられるのも魅力です。ナベプロ、ホリプロといった、今につながる日本の芸能界、音楽業界の礎が気づかれていく様子がわかります。戦後焼け跡から日本の芸能界を作られた皆さまが、消えゆく今(ジャニーさんが亡くなられたのは象徴的ですね)日本人音楽家は読んでおくべき本だと思います。
 その後も剛さんは、精力的に執筆活動を続けられています。TAP the POPというサイトで興味の有りそうなアーティストへの評論があれば、読んでみましょう。圧倒的な知識と音楽への深い洞察が感じられるはずです。

 著者の三浦文夫さんは、今は関西大学の教授ですが、長らく関西電通で活躍された方で、radikoを実証実験から中心的に手掛けた、生みの親のような方です。音楽業界にもネットワークを持っているだけに、業界事情も的確に踏まえた分析になっています。
 個人的には、素晴らしい本だけに、ソソられない書名が残念で、タイトルがよければもっと売れたのにと思いますww 内容は、日本と韓国とアメリカのポップスの比較を文化論、ビジネス論を縦横に交えた秀逸な内容です。8年前の本なので、K-POPの進化が進み、日本は随分、水を開けられてしまいましたが、歴史的な変遷も含めて、押さえておきたい内容です。
 radikoについて知りたい方はこちらのエントリーをどうぞ。

作曲家育成プログラム「山口ゼミ」で伝えることの一つに、アーティストとクリエイターの違いがあります。今どきに言うと、アーティストはtoC(ユーザー向け)ビジネス。ファンに支持されることが唯一最大の価値です。支持されているのであえば、曲は手癖のワンパターンでも構いません。引き出しが多いことはマストでは無いわけです。一方で、作編曲家や作詞家は、toB(事業者向け)で、アーティストやディレクターにスキルを提供する仕事ですから、ビジネス職業作曲家は、音楽に詳しいことや引き出しが多いことは職業的にマストです。
 そのtoCなアーティストになる方法の入口を書いているのがこの本です。著者の加茂啓太郎さんは、実績、実力ともに間違いなく日本一の新人発掘A&Rマンです。ウルフルズ、ナンバーガール、氣志團、Mr.Green Apple等々、数々のアーティストをデモテープから世に送り出してきました。東芝EMI時代にGreatHuntingというチームで行っていたのですが、EMIの合併でユニバーサルミュージックになりました。グローバルNo.1レーベルで、新人アーティストは売れてから契約金を払うという価値観のユニバーサルでは新人開発チームを抱える気は無いようで、退職されました。Facebookで見つけた僕は、すぐ連絡して、一緒にオーディションをはじめました。資金調達して加茂さん中心の事業にできればという思いもあったのですが、SONY MUSICと契約されたこともあり、形にはなりませんでした。でも、クレオフーガに協力してもらって、3回行ったオーディションは僕にとっても貴重な体験でした。

 新人を見つけて、作品力を強化し、アーティストの意識を上げ、アイデンティティや売り出し方を決める、いわばプロトタイプにするところまでやったら、他のスタッフに引き継ぐというスタイルだった加茂さんが、最終形までプロデュースしたのが「フィロフィーのダンス」です。音楽愛あふれる加茂さんらしい、ブラックミュージックへのリスペクトが感じられ、「アイドルのフォーマットを上手に使えば音楽的にはマニアックなことがやれるね」と言ってたのが印象的でした。

 楽曲コンペをやる時に、「ネタバレ」的なプレイリストを公開しているのが新しいなと思いました。
 職業作家とアーティストの共通点と相違点がよくわかる本だと思います。もちろんアーテイスト志望者には普通にオススメです。(推薦書籍後編に続く)

モチベーションあがります(^_-)