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文化GDPという視点で日本の未来をボジティブ考えてみよう

 貴重な視点です。経済力を測る指標であるGDP(国民総生産)に敢えて、文化という言葉を付けて、文化力を定量的に、経済統計の分析のように捉える「文化GDP」という言葉を聞いたことはありましたが、書籍として読んだのは初めてです。
 著者は金融分野から転身して、日本のアニメコンテンツをアメリカで販売する会社の社長を務めたという経歴で、日本のエンタメコンテンツについて、世界経済という土俵で捉えて書いています。
 2020年代の経済を考えた時に、日本の競争力の源泉はクリエイティブな力、歴史と多様性を持つ「文化力」だなと思っている僕にとては、我が意を得たりという本でした。

 文化GDPの定義自体は、国際標準が定まらず、それぞれの自国に都合の良い統計方法を主張しているようですが、ユネスコモデルの集計だと、日本の文化GDPは2016年で10兆443億円だそうです。関連領域の観光が13兆円790億円、スポーツ7兆5598億円を加えて、文化創造産業の全体はおそよ31兆円GDP比で5.7%ということになるそうです。
 2011年から編集委員をやらせていただいてる経済産業省の「デジタルコンテンツ白書」では、2019年のデジタルコンテンツの市場規模は、9兆2,320億円(前年比102.2%)となっています。9兆円程度で微増が続いていて、かねがね感覚的に言うと、数字が小さいな、コンテンツってもっと市場規模あるのでは?と思ってたのですが、この本の「文化創造産業」という概念を知って合点がいった気がしています。
 市場規模の数字の話で言うと、2017年度の日本の名目GDP547兆円の内、個人消費が297.1兆円。その中で形態別内訳で、食料品、光熱費などの非耐久財が27.3%、交通費や保険なども含むサービスが59.1%、この2つを合わせた「ソフト経済」で86.4%、金額で257兆円。これらの数字から日本の経済の中心がソフト中心になっていることを説いています。ソフト経済を刺激し、牽引するのが文化産業であることは間違いないでしょう。
 人口が減りはじめて、市場拡大が難しい日本において、文化創造産業の存在感が大きくなっていることがよくわかります。

 インターネットの発展によって、コンテンツビジネスは、グローバル市場になりました。そこでの日本の文化力の価値とその源泉についても、本書は熱く語っています。

 日本はほぼ単一民族の島国であり、他民族に完全に侵略された歴史を持たない稀有の国である・同じ島国でも複数民族を抱える英国とは異なる・文化とコンテンツが、ほぼ1つの民族によって継承され、加工されながら進化し、増幅していったのである。(中略)
 気候を始め自然環境的な多様性こそが創造の源である。日本はそのバラエティーに富んだ自然条件のもとに多様なコンテンツを創造してきたし、現在も生み出している。(中略)
 歴史において過去の否定がなかったおかげで、コンテンツを生み出して、それをさらに育て、蓄えていくことができた。コンテンツにとって、これまでこれほど恵まれた歴史的環境を持った国はない。(P84〜P86)

 ネトウヨ的な歪んだナショナリズムとは一線を画した正当な評価だと思います。2020年代以降の日本は、国際社会でグローバル市場で勝ち残るために、この財産を経済的にも最大化する必要があります。
 多様で多作な日本のコンテンツを著者は、ピカソの天才ぶりにになぞらえて語ります。コンテンツ創出力が日本の財産であるという主張に僕は全面的に賛同します。

 ところが、「コンテンツという当たりくじを換金できない日本」(P226)という大きな大きな課題があります。僕自身、最大の課題と考えてきたポイントです。換金できない理由は、筆者によると以下の通りです。
 1:モチベーション(豊かな国内市場への安住)
 2:海外在住日本人の少なさ
 3:マーケティング能力・技術の欠如
 4:プラットフォーマーの不在
 5:リーダー企業の不在

 どれも一朝一夕では解決できない問題です。国を上げて本気で取り組む必要があります。居ても立っても居られずに、著者の福原さんを招いてトークイベントをやることにしました。飛び込みのメールに対して快く登壇をご了解いただいて感謝です。

 ということで、ニューミドルマンコミュニティのマンスリーオンラインイベント「MusicTech Radar」の5月のテーマは「文化GDP視点からの日本の未来」です。是非、この本も読んでご参加下さい。

※参考:日本の文化GDP(文化庁資料)


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