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わたしの人形はよい人形。

1.おばあちゃんと人形

実は人形が苦手だ。

ぬいぐるみやフィギュアなんかは大丈夫なのだが、どうにも昔からリカちゃん人形や、今で言うメルちゃん、ぽぽちゃん人形的なミルク飲み人形なんかは苦手だ。

まぁ、正確にいうと

怖い。

小さい頃、女の子遊びの定番であるお人形遊びを一切しなかった私を母は本当に不思議だったという。

そして、女の子の人形といえば雛人形である。
白い顔におだやかな顔付き、色とりどりの十二単に豊かな表情を讃えたお仕え達。
だが、私にとって雛人形は残念ながら苦手な人形のタイプ、トップクラスの代物。

私が生まれ、さて初節句…という頃「とにかく飾るのが面倒、飾る場所に困るから。」との母の主張により、我が家には雛人形は購入されなかったという経緯がある。


うちの母は超合理的。


結果的に母と人形が怖い私的にはwin-win状態だったが、どうも納得できなかったお方が1人。

私が敬愛して止まない今は亡き祖母である。


面倒という理由で雛人形は要らないという娘に対し、祖母は孫の私が不憫に思ったのかその代わりにと、棚に仕舞えるサイズの陶器の人形を贈ってくれたらしい。

確かに場所は取らない。ただそれを良しとし365日、応接間の棚に飾られていて完全にただの人形と化していたけれど。

そんな微妙なポジションの人形の正体。

全長15センチくらい。


ああ。ウン。おてもやん、有名よね。
愛嬌ある女性よね。
熊本独自のキャラクターという意味ではくまモンの先輩的位置よね。
ウン、有名有名。
おばあちゃんは私に愛嬌のある子になって欲しかったのかナ。

でもこれは完全に民芸品。
因みに我が家は熊本県と何の縁も無い。
おてもやんには失礼だけれど、流石にお雛様代わりには相応しくは無いと思うの。

…。

……。

………おばあちゃん…ドウシテ??

私はおばあちゃんを敬愛するあまりに、この謎について考えないように過ごしていた。
こういうミステリアスな発想もおばあちゃんのチャームポイントよネ☆
そんな風に思い込むが、正直スゴイ謎だった。

そんな長年の謎にちょっとしたヒントを知る出来事がひとつ。

私が高校生の頃、イトコに赤ちゃんが生まれた。
母方一族に生まれた久々の赤ちゃん。

そんな可愛い初ひ孫へおばあちゃんは、これまたナゼか陶器製のトラディショナルな猿の人形をイトコのお家まで持って来たのだそうだ。

全長約30センチ。
ついでに言うと、イトコのお家は新築で洋風な造り。猿の置物よりウサちゃんの置物を置きたい感じ。因みに既にお雛様は購入済みである。

突然やってきた緑色の猿に戸惑うイトコのお嫁さん。

そりゃそうだ。

重量タイプ


その話を聴いてから、ひょっとして陶器製の人形とはお雛様云々関係無くおばあちゃんにとって何か意味のある事だったのかも知れないと信じている。

いや、そうであってくれ。


2.それはホラーか。どこがホラーか。

母にはとても仲の良い高校時代からの友人が二人いる。
ちょっと神経質なスミさん。その相反するかのように大らかなヨウコさん。

同じ地方ながらもそれぞれの住まいが、電車を乗継ぎ最低1時間半は掛かる距離にも関わらず、80歳になる今でも頻繁に交流がある。
皆、夫を亡くしてはや数年の身の上。
何かあっちゃあ、誰かの家でお泊まり会を開いている。そんな関係。

そんな未亡人お泊まり会の時にスミさんがこんな事を言いだしたそうだ。

ある時、スミさんが家の片付けをしていると押し入れの奥にしまい込んでいた日本人形が出てきたそうだ。俗世間でいう市松人形である。

何気なく手に取ってみると、ふと気付く。

アレ…この人形、こんなに髪長かったっけ…??

もう一旦思うとそうとしか思えなくなり、怖くて再び仕舞い込んだそう。

「そんなアホな。」

その話を聞き、バッサリと一蹴するマイマザー、かなえサン。
非科学的な事は一切信じない。

「いや、ホンマやって!」

「ないない!」

そんなやり取りを延々と繰り返す二人を眺めていたヨウコさん。
「ほんまぁ〜。じゃあ、人形供養したらいいんちゃう〜?何やったらうちの近くのお寺さん人形供養してはるでぇ。一緒に持っていく?」と、一気に解決する案を打ち出してきた。

スミさん 「エッ!ヨウちゃんそれホンマ?!行く行く!付いてきて!」

ヨウコさん 「かなえちゃんも来るー?」

母(かなえ)   「ワタシはそんなん行かへんわー。」

そんな感じでスミさんとヨウコさんは連れ立って近い内に人形供養のお寺に行く事になったらしい。

それから数ヶ月後。
またもや未亡人のお泊まり会 at 母の家での話。

ふと母が「そういやさぁ、あの人形どうなったん?ちゃんと供養できた?」と2人に聞いたらしい。

2人は顔を見合わせ、

ヨウコさん「行ったのは行ったんだけど、供養はまだなんよ。」

スミさん「人形の受付期間があるらしくて、今年はまだやったねん。何回も行くの嫌やしヨウちゃん家に置いてきた。」

ヨウコさん「確か来月やな。まぁ、近いしまた持ってっとくわ。」

スミさん「頼むで!アンタ、あれ呪いの人形やし、あんまりぞんざいに扱わんといてなぁ!」     

呪いの人形と言い切るシロモノを持ち込み、友達の家に置いてきたクセにスミさんの自分勝手な言い方に母はちょっとイラッとしたと言う。

そんな母の心境を余所に、大らかキャラのヨウコさんはいつものようにとても明るく、何でもない事のようにお菓子を食べながら

「大丈夫やでぇ〜。大事にしてるでぇ。

アンタが包んできた新聞紙から出して、

床の間に飾ってあるわ。」

と言い放った。

即座にイヤアアアアアア!!と叫ぶスミさん。

即座に爆笑する母かなえ。

その様子を見ながらヨウコさんは「確かにあの市松人形、髪の毛長い気がするなぁ。」と、二つ目のお菓子を食べたという。

因みにヨウコさんは普段から床の間で寝ているらしい。

さて、ホラーな部分はどこだ。



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