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カブトムシとプラケース。

生物が結構好きである。生態の不思議、動いているだけで楽しい。神秘の塊。

小学生の頃は飼育係。中学に入ると生物部に入った。でも母が動物苦手だったので、飼育と言えば、せいぜい弟と共同で昆虫だった。

夏の鉄板、カブトムシとクワガタ。親は弟が喜ぶと思ったのか、生き物好きの私を不憫に思ったのか小学校が夏休みに入ると、虫取りに連れ出し夏の間の飼育の仕事を与えた。
私達はこなれた感じでカブトムシを「カブ」クワガタを「クワ」と呼び飼育した。

さて昔からお手軽飼育容器にプラケースがある。そこそこの年齢の方ならお分かりだろうが、昔のプラケースといえば緑のメッシュ状で蓋の引っ掛かりの浅い、深底のあのケース。上から取り出す窓も小さく片手だけが入るくらいのサイズ。
ザ⭐︎プラケース。

しかし我が姉弟にとっては神の如き万能のケースである。
カブクワも入りゃ、とっ捕まえた亀を入れ観察したり、極小のカタツムリをたくさん見つけた時はカタツムリ牧場にしてみたり。そういった方も多かったのではなかろうか。

話は戻るが昆虫の王様といえばカブトだ。シャープで攻撃的なスタイルのクワガタも魅力だが、あの丸いフォルム。重厚のあるワガママボディ。私的可愛さのツボであった。
ただプラケースの飼育に於いて最大にして唯一欠点。力が強い。カブ一匹、二匹位ならいいのだが七匹程になると夜中、力を合わせるのかプラケースの蓋を持ち上げ一斉大脱走。朝になるとカブト大捜索である。それはとても大変な作業だった。

脱走防止策として弟と2人で紐で蓋ごとケースを縛ってみたり試行錯誤した。そして小学生2人が知恵を絞り出した結果。

ガ ム テ ー プ 

     グ ル グ ル 巻 き。

シンプルイズベストと言わんばかりの戦法。
さすが小学生。この策が功を奏し、以降カブトが脱走する事は激減した。(たまにほぼノーガードの上小窓から正攻法で脱走する個体もいた。)ただ、この戦法はカブのお世話がめっちゃめんどい。
お世話の度にグルグルテープを外し、また巻くの作業を繰り返した。
テープをちょっと止めたぐらいじゃ、奴らは夜持て余す力で脱走するのだからグルグルは必須なのだ。

ある夏の昼下がり私はカブケースのお世話中に「折角テープを外したんだから」と、ゆっくり観察しようとお気に入りの雌カブを庭の木に捕まらせた。つやつやの栗のような甲殻をじっくり眺め堪能していた。美しい。
そして、それに答えるかの様にカブは突如、硬いその前羽を優雅にかつ勢いよく「バカリ!」と見せ付ける様に開いた。
私はその図鑑でしか見たことのない姿に目を奪われた。心から「あっ!」と驚嘆の声を出したその瞬間。

後ろ羽も大きく広げカブは夏の青空に飛び立ってしまった。

暑さからか冷や汗か判らぬ汗を拭い途方に暮れた。
無言でまたカブのケースにグルグルとテープを施し、所定位置の下駄箱の下にそっと置いた。その横にあるクワケースは平和なもんである。

夕方、遊びに出ていた弟が帰ってきた。怒られる事を覚悟で事の顛末を話すと「雌カブやろ?別にええで。」と今ならセクハラ問題になりそうな発言をさらりと言って私の罪を許した。

そしてこのカブとの攻防は私が中学に上がり、弟も夏は塾が忙しくなった年を境に終結した。

今ではそんなプラケースも高機能。カブも逃げない外れないロック式。大きな窓。使い込んでもクリアなプラ素材。なんなら防虫シートスペース付きと目も眩む機能付きだ。
でもこれはきっと緑の蓋プラケースと攻防を繰り広げた世代の戦果なのだと思う。心より感謝。また夏が来る。





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