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人は何故アルケミーを叩くのか

アルケミーとは:
「アルケミー」は、MTGアリーナのフォーマットです。スタンダードをベースに、デジタル・マジックならではの新規カードや再調整されたスタンダードのカードが使えるこのフォーマットでは、変化が早く常に進化を続ける体験を味わえます。

マジック:ザ・ギャザリング公式HPより引用

はじめに

本記事は筆者の思ったことを呟いただけの取りとめのないエッセイである。

2024年9月某日。TwitterもといXは久々にアルケミーのことで盛り上がった。
何度目か分からないが、今回も負の方向で、である。
発端はこちらのツイート。

先に言っておくが、このツイート自体に対しては筆者は特に何ら負の感情を持っていない。

このツイートに誤解があると気づいて「実際はアンロックすれば最初からスタンダードが遊べる」という事実を周知した人がいるのは褒められるべきことだし、ツイ主は正しい情報ではなかったことを素直に謝っているのでこれも素晴らしいことであろう。

筆者が気になったのは、これにかこつけて湧き上がる謂われないアルケミーへの愚痴・不満である。
そもそも上記の問題提起にはアルケミー・フォーマット自体の面白さは特段絡んでいない。
MTGアリーナのUIが初心者に優しくないことが本質的な問題なのであるが、それにも関わらず当然のようにアルケミーが貶される。
(勿論ツイ主の発言からは、友人にはアルケミーよりスタンダードを勧めたいという本意は見え隠れするのではあるが)
元来チュートリアルにはアルケミー(とヒストリック・タイムレス)でしか使えないアリーナ限定基礎カードが含まれているせいで、デフォルト設定をスタンダードにしにくいというWotCの言い分も分からなくもないのに。

だが、このようなアルケミーへの愚痴・不満など、今に始まったことではない。
もりゆき氏も昨年5月時点までのアルケミーの悲哀について纏められている。

この記事から1年余りが経った今、当然だがアルケミーはまだ大衆に受け入れられていない。
その原因は何なのか、もりゆき氏の言うように現状維持バイアスに拠るものなのか、もう少し考えてみたい。


テーブルトップとの同一性欠如

先述の現状維持バイアスをもう少し具体化したものである。

ご存知の通り世界最古のTCGであるマジック:ザ・ギャザリング(以下、MTG)のプレイヤーの平均年齢は高い
以下の動画でもざっくりとしたTCGタイトル別年齢層の比較をされているが、平均年齢が30歳を超えているのは間違いないであろう。

ここから類推されるのは、プレイヤーの継続年数も長いということである。
当然、最古のTCGということで他TCGから移行する受け皿的な役目も担っているであろうが、実際は多くのプレイヤーが5年ないしは人によっては10年を超えてこのゲームを楽しんでいる。
それ故に、プレイヤーの中の「MTGとは斯くあるべきだ」という固定観念も必然的に強くなる。

また、奇しくもMTGは別のデジタルプラットフォームとしてMagic Online(以下、MO)も有している。
こちらは20年ほどサービスを続けている化石のようなプラットフォームであるが、テーブルトップとの同一性を重んじている。
古くからのプレイヤーにとっては、紙との同一性だけでなく、このMOとMTGアリーナの同一性の欠如も現状維持バイアスとして働くに違いない。

ここからは筆者の個人的な意見や推測を含むが、これを理由にアルケミーに不満を持つ人間の大半は、そもそもアルケミーを多く遊んではいないのではないか
不満の根源がアルケミーというよりはデジタル専用カードへの忌避感であり、WotCがアルケミーで実現したいこととは間違いなく共存しないニーズの人種であろう。

WotCが今後もMOとMTGアリーナを共存させる方針であるならば、これらのプレイヤーは既にあるMOという受け皿に誘導するだけで、本来特に対処をすべき必要もないように思う。
ある意味、この不満は「MOというプラットフォームに将来性が無いので、MTGアリーナに八つ当たりしている」ようにも映る。

実際前半部分の前提(MOの将来性の無さ)は間違っていなそうであるし、WotCはもう少しテーブルトップとの同一性を重視するプラットフォームの扱いを考えるべきではないか。
MTGアリーナで得たUI周りのノウハウをMOに展開するだけでよい。
餅は餅屋という言葉もあるし、MTGアリーナで紙の餅を搗く必要は必ずしもないのだから。

成功体験ストーリーとの乖離

MTGを勧める側には皆自分が今も遊んでいる理由・成功体験ストーリーを持っていると思う。
そして人間誰しも自分の成功体験ストーリーは好きになってしまう。
他人に勧める以上は、自分のストーリーに近い素晴らしい成功体験ストーリーを描いて欲しいと感じてしまう。
ある種の生存バイアスとも言えるかもしれないが、このような成功体験バイアスもアルケミーに不満を持つ理由になり得る。

アルケミーというフォーマットは2021年に制定されたばかりであり、まだ日が浅い。
そして、先述した通りMTGプレイヤー(=勧める側)の継続年数は高い。
したがって、アルケミーでMTGを始める成功体験ストーリーを描いてきた勧める側はまだほとんど存在しない。
恐ろしいことかもしれないが、アルケミー制定当初からMTGを始めた人はまだ新参者扱いされているかもしれない。

アルケミーでの成功体験ストーリーのない勧める側にとって、MTGアリーナのチュートリアルがアルケミー前提になっていることは受入れ難いことである。
何せ、前項でも触れたが、下手したら勧める側はMTGに詳しくとも、アルケミーではほとんど遊んでいないかもしれない。
これから始める超初心者ビギナーに対して全知全能プロフェッショナルとして振る舞いたいのが人間の性であり、それを阻害するアルケミーのデジタル専用カード達は害に映ってしまうのである。

また、アルケミーで成功体験を積みにくい理由の一つには、成功した事実が広まりにくいこともあるだろう。
後述するがアルケミーは競技人口が少なければ競技シーンも少ない。
プレイヤー主催大会もほとんどなければ、数少ない競技シーンの予選で結果を出したリストを公式が紹介することもない。

結果何が起こるかと言えば、大きく二つ。
一つ目に、模範となるデッキリストが出回らなくなる
自身で一からデッキビルディングをしないプレイヤーにとっては、デッキリストという他人の成功体験が知れないことは大きなネックである。
逆にデッキリスト・環境の周知性が高いほど環境は固定化しやすいため一長一短ではあるが、さすがにアルケミーの現状は極端であろう。

二つ目に、アルケミーで勝つことが成功体験ではなくなる。
勝っても公式すらそれを成功と看做さないのだから、当然であろう。
勧められた際に聞いていたようなMTGで勝つことで得られる輝かしい成功体験ストーリーはアルケミーでは得られず、ますます理想と現実は乖離していく。

まずは月に1回くらいはアルケミーの特集記事を公式が上げたらどうであろうか。
それだけでもデッキリストという参入障壁は下がり、記事に載る名誉という形で曲がりなりにも成功体験ストーリーを作らせられるのだから。


ゲーム性の欠如

ここからはバイアスというよりもゲームとしての本質的なところに触れていく。

そもそもアルケミーのゲーム性は高いのか?

筆者はどちらかと言えばアルケミーを推す側であるが、この問いに自信を持ってYesとは言えない。
これは、本記事の冒頭にも記載したアルケミーの理念である「変化が早く常に進化を続ける体験」を味わいきれていないためである。
事実、アルケミー:サンダー・ジャンクションリリース以降~現在までのアルケミーは強奪が大きく幅を利かせているが、リリースから4か月ほど経過しローテーション後もなお1枚たりとも再調整されていない

アルケミーもといMTGアリーナはDCGだ。
紙と違って効果のナーフもできればバフもできるし、それを即時適用もできるのが強みであろう。
そもそもスタンダードの時点でアリーナ特有のインスタント反応や時間制限もあり、紙との同一性はどうやったって保てないのだ。
上記理念を達成すべくアルケミーはアルケミーらしく振り切って、もっと高頻度で再調整を行い、環境の流動性を高めるべきではないか


フォーマットとしての魅力の欠如

最後はだいぶ朧気な題目にしてみた。
正直そんなに深堀りしていないが、筆者として提起したい問題は一つだけ明確にある。

年に一回しか競技シーンのないフォーマットに魅力は生まれますか?

全く魅力がないとは言わないが、競技シーンが増えなければプレイヤー人口は増えないであろう。
ジョニーのようなエンジョイ勢にとっては競技は関係ないかもしれないが、ジョニーがわざわざアルケミーを選ぶ理由もない。(何ならEDHやブロールと魅力を競わないといけない)

毎月のランクマッチも広義の競技シーンと言い出すかもしれないが、どの構築フォーマットでも構築ランクを上げられる現在の仕様ではアルケミーをやる理由にはならない。
WotCはチュートリアルからアルケミーを半強制的にやらせるより、毎月の予選でもっとアルケミーをやらせていったらどうだろうか
予選ではなくアリーナオープンでもいい。
それだけでメタゲームも回り始めるのだから、前項のゲーム性も多少なりとも増すだろう。


おわりに

重ねてになるが、筆者はアルケミー肯定派である。
冗談半分であるがアルケミーの良い所を挙げた記事も書いたりしたくらいである。

アルケミーの掲げる理念にも共感している。
だからこそ、そんなフォーマットがもっと愛される存在になることを祈って、この駄文を締めたい。


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山辺カフカ@MTGリミテッド
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