言葉や行動で脳を傷つけてしまう [読書日記♯12]

「子どもの脳を傷つける親たち」 友田明美


子どもがルールやマナーを守らなかったり、やるべきことをやらなかったとき、どうしても叱りつけてしまう。そのとき、子ども自身のことを否定してしまうことがある。親であるぼくもきっと疲れている。

けど、「正すべきはその行動自体であって、成長段階にある子どもの人間性ではありません」(p.55)と著者も言うように、本来は正しい行動を教えるべきシチュエーションなのだ。
そうとわかっていても、気をつけていても、ぼくの口から出るのはどこか子どもの人格を責め立てるようなものになってしまっている気がする。

しかもついつい、「きいてるの!?」と怒鳴ってしまうことがある。
けれど、注意したりしたときに子どもが反応していなかったとしても、子どもが聞いていないわけではない場合もあるようだ。
聞いていないようでも心の奥で傷つき、「感受性が強く、柔らかな子どもの脳には、ボディーブローのように、ダメージが少しずつ積み重なって」(p.56)いく。

また、スマホなどをしていると子どもが落ち着いているからといって、そのまま放置してしまうこともある。
その結果、手を繋いだり抱っこしたりというスキンシップは、子どもが安心して生きていくための重要な行為なのに、その機会があまりに少ないことがある。
親の自由な時間は、もちろん大切だ。それで余裕ができたら子どもへの関わり方も良い方向になる可能性が高い。
けど、もしスマホやテレビ、ゲームをさせることで子どもと向き合う時間をなくしているだけなら、その時間は余裕をもつためのものではなく、そのあとイライラしてしまうだけの予備時間にすぎないのではないか。
あくまでも、あとで子どもとの時間を楽しむための、少しのあいだの猶予期間としてそれらを与えるべきなのだろう。

さて、これらのようなマルトリートメント(不適切な扱い)により、子どもの脳は変形するというのが本書の主題だ。
そしてマルトリートメントの種類や経験する年齢によって、脳の変形する場所は変わってくるらしい。
それは子どもが自分のつらい環境、ストレスをどうにかしようともがいてなにかを抑え込もうとしたり無理に適応しようとした結果だと考えられる。

それでも、時間がかかっても脳は少しずつ回復する。つまり、こころも。
マルトリートメントを受けた子どもをケアするためにまず大切なのは、安心や安全を確保すること。そして、薬物療法や心理療法によって、時間をかけて彼ら自身がつらい記憶を整理できるようにすること。
また、愛着関係を築けるようにサポートしていくことも大切だ。それは守られ、愛されていると感じるもので、健全な発達にとって「基地」となるものだから。

また、マルトリートメントの後遺症による社会的な影響(子どもが成長してからの不適応行動など)へのケアを考えると、早期に介入して育児支援したり精神的ケアをおこなった方が費用対効果が高くなるという海外の研究も出ているらしい。

これはよくわかる。
大人になっても周りを巻き込むほどの迷惑行為をする人に対しては、介入が難しいし解決まで時間もかかる。ときには、解決できないのではないかと思わされるほどに。
そうして、社会に重大な影響が及ぶ。

だから子どもの養育は社会的サポートが不可欠なのに、著者も言うように未だにこの国では「母性神話」が幅をきかせている。
それは生得的なものではなく育児をすることで身についていくものなのに、現代では自分が子を持つまでその能力を伸ばせるような環境、つまり大人になるまでのあいだに乳幼児と触れ合う機会自体が少ない。
それはもはや仕方がないのかもしれないから、せめて子どもができる前後には適切な教育や体験ができるように考えていかないといけないのではないか。
親だけで子育てするのはとても難しいのだから。


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