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仮面ライダーの思い出(にかこつけて)(2021/10)

NHK の特別番組『歴史秘話 仮面ライダーヒストリア』の番宣を見て、「ひえー、NHK がそんな番組やるのか!」と驚いた。そして、BSプレミアムで 2021/10/2 に放送したのを録画して観て、もう一回「おいおい、NHK がこんな番組作って放送しちゃったのかよ」と独りごちてしまった。

知っている人は知っていることだが、最初の『仮面ライダー』を放送したのは我が毎日放送(MBS)である。もちろん僕が入社する遥か前なのだが、入社してからも、

石ノ森(当時はまだ石森)章太郎先生を訪ねたら、先生は「子供には円い形が受けるんだよ」と言って、その場で仮面ライダー(その時点ではまだその名前はない)の原型となるヒーローの顔をさらさらと描いて見せた。

とか、

番組開始直前に、なんとか視聴率を上げたいと思った東京支社営業第一部の副部長が、自作の番宣プラカードを掲げて、日曜日に後楽園だか豊島園だかを歩いた。

とか、いろんな逸話を聞かされたものだ。

まあ、大ヒット番組がひとつあると、「あの番組は実は俺が作った」みたいなことを言う人が 10人くらい出て来る業界だった(と過去形にしておこうw)ので、これらのエピソードもどこまで尾鰭がついているのかは知らないが(笑)

番組が始まったとき、僕はすでに中学生で、そろそろそういうヒーロー物からは卒業して行く潮時だったのだが、この番組だけはなんか面白いなと思って観ていた記憶がある。特に悪の組織ショッカーの下っ端である「人間もどき」が好きだった。

そして、僕が入社して何年か経ったあと、6年ぶりに仮面ライダーを復活させることになった。それが『仮面ライダーBLACK』だ。当時タイム営業のバンダイ担当だった僕は必然的に(営業局での)番組担当となり、企画とセールスの最初から番組に関わって、有楽町の東映本社や大泉学園の撮影所に通ったものだ。

その次のシリーズ『仮面ライダーBLACK RX』を以て毎日放送での放送は終わり、平成の時代に入ってから、今度はテレビ朝日(EX)で新しいシリーズが始まった。世に言う「平成仮面ライダー・シリーズ」である。そして、このシリーズは現在の「令和仮面ライダー・シリーズ」まで脈々と続いている。

さて、何を言いたかったかと言えば、つまりこんな風に放送局が2つに分かれていると、50年続いている仮面ライダー・シリーズを総括する特番は、MBS にも EX にも作れないということである。

それは放送権があるとかないとか、放送素材が残っているとかいないとか言う問題ではない。すごく感覚的な表現になってしまうのだが、どちらかの局が全体を論じてしまうのは、構造的にちょっと無理があるのである。

唯一あるとしたら、局からの発注を受けずに東映が独自に作るという手かもしれないが、それにしても作った完パケをどこの局に売りに行くかとなると、これは俄に面倒くさくなってくる。いずれにしても、東映が作ったら、今回の NHK の特番のようなテーストには決してならなかったと思うが(笑)

で、そこまで考えた時にふと気づいたのは、そういうことができるのがまさに NHK であり、多分そういうことが NHK の新しい機能であり、役割であり、ひょっとしたら使命なのかもしれないな、ということである。

この業界には、NHK が何か新しいことをやろうとすると、間髪を入れず「民業圧迫」だとか「受信料収入制度との整合性」がどうだとか言い出して、いろんなことを阻止しようとする人たちがいる。そういう人たちがどれくらい多いのかは知らないが、そういう人たちが社を主導しようとしているのは確かだ。

僕は本当にそれでいいのかなと大きな疑問を感じる。NHK と民放の関係を昔のままの形で死守しようとするのは往々にして視聴者/ユーザの利益に反する行為であり、自分たちにとっても逆に命取りなのではないかと思っている。

すでに何年か前から、例えば『進撃の巨人』を NHK が放送し、民放(これも MBSだが)が配信するというような新しい形が出てきている。形としては MBS が NHK に売ったのではなく、製作委員会が NHK に許諾したのではあるが、昔だったらどちらの局もこんな形には歩み寄っていないと思う。

そんなことに思いを馳せると、ひょっとすると今回の特番のような「局際的」な企画というのは、本当に NHK の新しい役割なのかもしれないという気がしてきた。

昔だったら、多分こんな文章を書いて発表した途端に、会社の誰か偉い人に呼び出されただろう。今回もちょっとこわごわ書いてはいるのだが(笑)、しかし、時代は変わるものだし、現に変わってきているのである。

NHK と民放の関係は、いや、広くテレビ局同士の関係は、新しい時代にふさわしい新しい形を模索して、しっかりと変わって行かなければならないのではないかと、歴代のライダーたちを眺めながらそんなことを考えた。

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