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ブルペンデーにおける事前準備の重要性と「成功の鍵」

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どうも、やまけんです。

5月18日、千葉ロッテマリーンズvsオリックス・バファローズ戦。マリーンズは、先発に2年目のリリーフ右腕・廣畑敦也投手を抜擢する「ブルペンデー」を決行しました。廣畑投手はチームの期待に応え2回無失点、その後は岩下大輝(1回)→東妻勇輔(2回)→西村天裕(1回)→ぺルドモ(1回)→小沼健太(1回)→坂本光士郎(0回2/3 1失点)→益田直也(0回1/3)と継投し、マリーンズが5-1で勝利しました。

このブルペンデーの背景には、現在のマリーンズの苦しい先発投手事情があります。
先発として実績のある石川歩投手、二木康太投手らが開幕から故障で出遅れており、同じく実績組の美馬学投手は不調により二軍調整中。その上に、今季好投を続けていた佐々木朗希投手が前回登板で発生したマメの影響により先発登板を回避せざるを得なくなり、苦肉の策としてブルペンデーの決行に至りました。
苦しい状況の中でも各投手が役割を果たし勝利を収められたことは、チームとして非常に大きな収穫だったのではないでしょうか。

本来のリリーフ投手が先発し短い回を抑えて戦う「オープナー」「ショートスターター」「ブルペンデー」などの継投手法は、2018年にMLBの球団において編み出され、NPBにおいても2019年頃から一部球団において運用されました。マリーンズにおいても、吉井理人現監督が一軍投手コーチを務めていた2019年に1試合、ブルペンデーを決行し、今回同様に勝利を収めています。

今回は、マリーンズの「ブルペンデー」をテーマに、吉井監督/コーチによる投手運用について迫っていきたいと思います。

2019年7月10日の振り返り

まず、吉井“コーチ”が最初にブルペンデーを決行した2019年7月10日vs北海道日本ハムファイターズ戦の事例について振り返りたいと思います。
当時もマリーンズは苦しい先発投手事情を抱えていました。先発ローテーションの一角を担っていた種市篤暉投手が7月5日に「細菌性胃腸炎」の診断を受け静養を余儀なくされ、本来7月10日に先発予定だったマイク・ボルシンガー投手も右足首の捻挫により登録抹消。

二軍から昇格させられる先発投手もいないとの理由で、当時リリーフとして投げていた唐川侑己投手に先発を託し、急遽ブルペンデーで戦うことを決断しました。

唐川投手は1回無失点で役割を果たし、その後はチェン(3回)→石川歩(2回)→松永昂大(1回)→田中靖洋(1回)→益田直也(1回)と継投し、ファイターズ打線を無得点に抑える完封リレーで勝利しました。

吉井コーチはこの時、自身のブログに

ゲーム前に、最高のシナリオ(投げる順番やイニング数)を選手たちに伝えたのですが、その通り、投げてくれました。(みんな、すごい!)

と書き込んでいることから、この日の継投は吉井コーチの計画通りに遂行されたものと言えます。

では、吉井コーチが事前に描いた計画とともに当時の状況をもう少し掘り下げてみましょう。
まず、ブルペンデー前日の7月9日試合開始前の時点で、翌日の予告先発を唐川投手と発表。この時、唐川投手のほかに田中靖洋投手の先発も検討していたものの、田中投手は前日(7月8日)の試合で登板しており、万が一9日の試合で登板機会が訪れると田中投手が3連投になってしまうこと、その点唐川投手なら9日の試合で投げても2連投で済むことから田中投手を回避し唐川投手の先発を決定しました。
その後、2番手にはチェン投手を抜擢。チェン投手はこの年主にロングリリーフで起用されており、この日も見事期待に応え3回無失点と好投しました。この試合の勝利投手はチェン投手に記録され、吉井コーチも

今回は、チェンが3イニング、頑張ってくれたので作戦が成功しました。

とブログ内で言及していることから、この試合の”ヒーロー”に相応しい活躍だったと言えるでしょう(事実、ヒーローインタビューにも呼ばれています)。

そして、この日“賭け”に出たのが、3番手に起用した石川投手。
この年、先発ローテーションの一角を担っていた石川投手も6月に故障で二軍に降格、本来であれば7月9日にファームで3回程度のリハビリ登板に臨む予定でした。ところがチームの緊急事態に際し急遽昇格することになり、ぶっつけ本番、かつプロ入り後初の一軍でのリリーフ登板に挑みました。
吉井コーチは「1,2点の失点覚悟で、2回くらい投げてくれたら」という目論見で石川投手を抜擢したとのことですが、石川投手は期待を上回る無失点投球で予定の2回を投げ切り、完封リレーに大きく貢献する形となりました。

そして、終盤3イニングは松永投手、田中投手、益田投手が1イニングずつ締めて無事に勝利。その上で吉井コーチは、万が一延長戦にもつれた場合まで想定し、ロングリリーフも可能だった西野勇士投手をブルペンに温存していました。
この西野投手の温存まで含めて、吉井コーチの「最高のシナリオ」通りの継投だったと言えます。

吉井監督のブルペンデーに対するスタンス

ここで一度、吉井監督のブルペンデーに対する考え方、スタンスについて少し掘り下げてみます。
上記の試合を振り返るブログで、当時コーチだった吉井監督は

そのブルペンデーですが、やってみて頻繁に使う作戦ではないなと思いました。
複数イニングを投げられる投手が限られている中、1試合(延長の可能性もあるし)を終わらせるのは大変なんです。

と、やや否定的ともとれる記述を残しています。
監督・コーチの立場で継投をプランニングするだけでも負担の大きさは容易に想像できますし、実際に起用される投手の負担は尚更です。

また、ブルペンデーについて迫った二宮清純氏のコラムの中でも、吉井監督は当時を振り返り

「あのときは試合前、登板予定の投手全員に『お前は何回、お前は何回やぞ』と、継投プランを全部伝えていました。オープナーもブルペンデーも、そうやって事前に準備をしておかないと絶対にうまくいく作戦じゃないんですよ」

と、準備の大切さと大変さを示すようなコメントをしています。

さらに、2019年オフに放送されたNHKの番組「球辞苑」の中でも、吉井コーチはブルペンデーに対して「失敗したときのダメージは計り知れない」と言及しており、決行するには絶対に失敗が許されない作戦である…少なくとも吉井コーチはそう考えていると解釈することができます。

ブルペンデー、オープナーといった戦略については先発投手の枚数や力量が不足しているチームが採用する手法という印象が強いですが、それでも一朝一夕に、場当たり的に使える作戦ではなく、入念な準備が求められるものであると言えるでしょう。
実際に2019年のマリーンズのブルペンデーを振り返っても、吉井コーチは試合前から入念な準備をしていたことがわかります。

一方で吉井監督はブログの中で

(1軍レベルのリリーバーが15人以上いれば多用してもいいかも)
(短期決戦などでは、良い作戦と思う)

とカッコ書きで残しており、必ずしも全否定しているわけではないということもわかります。実際に、吉井監督が侍ジャパンのコーチとしてWBCの決勝、アメリカ戦で見せた投手起用はまさに「ブルペンデー」そのものだったのではないでしょうか。

以上を踏まえて吉井監督のブルペンデーに対するスタンスを表すのであれば、「基本は否定的だが、場合や状況によっては入念な準備・プランニングで失敗リスクを低減させた上で採用する」ということになるかと思います。
「何がなんでもブルペンデーを実行する/しない」と極端に頑固なスタンスではなく、その時の状況に応じて対処できる柔軟性、そして各投手が与えられた役割で実力を発揮できるよう入念に準備に取り組む姿勢から、やはり指導者・指揮官としての資質の高さが垣間見えます。

2023年5月18日の振り返り

ではここで、冒頭の試合、5月18日のバファローズ戦に話を戻したいと思います。
既に書いたように、マリーンズは苦しい先発投手事情の中でブルペンデーを採用することを決定し、廣畑投手に先発を託します。

1年目の昨季は30試合すべてにリリーフとして登板し、今季もここまで4試合すべてリリーフの登板となっていた廣畑投手にとってはこのマウンドが記念すべきプロ初先発に。絶対に失敗できないブルペンデーと自身プロ初の先発マウンドが重なった形となりましたが、前回登板の13日から中4日空いたことで心身ともに万全に近い状態でマウンドに上がることができたのではないでしょうか。

社会人時代に培った経験とメンタルも味方したのか、2回を1安打3奪三振無失点に抑える完璧な投球で1番手としての大役を見事に果たしました。

2番手でマウンドに上がった岩下投手は、元々は先発だったものの昨季途中から一軍での登板はすべてリリーフ。特に今季は全ての登板が1イニングとなっており、この日も3回の1イニングを無失点に抑えたところで降板。チームが3回裏に先制点を挙げたことから、結果として岩下投手に勝利が記録されています。

続く4回からは3番手で東妻投手が登板。5回までの2回を無失点で抑え、こちらも役割を十分に果たしました。
この試合で複数回を投げたのは廣畑投手と東妻投手のみで、廣畑投手は5月13日のファイターズ戦、東妻投手は5月5日のホークス戦でいずれも2イニングスのリリーフを経験しています。

複数投球回を投げるという点では元々先発をしていた岩下投手に任せるという選択肢もあったかもしれませんが、あくまでも今季ここまで1イニング投球のみの岩下投手は1イニングまでと割り切り、廣畑投手と東妻投手に2回ずつ任せる計画を立てたところに、吉井監督がいかに事前の準備を大切にしているかが垣間見えます。裏を返すと、東妻投手と廣畑投手が上述の試合でいずれもロングリリーフの適性を見せてくれたことで、吉井監督の頭の中でブルペンデーの計算が立った、とも考えることができそうです。

その後は6回の西村投手、7回のペルドモ投手がいずれも1回無失点。6回裏に1点、7回に3点を追加し5点リードとなった8回からはこの日昇格した小沼投手が登板。小沼投手も8回を0点に抑え、後続にバトンタッチしました。

9回からは前日にも登板した坂本投手が登板。5点差あった中で、連投になる坂本投手ではなくこのカードここまで登板のなかった澤村拓一投手が登板するのではないか?と思ったファンの方も少なくはないと思いますが、坂本投手に連投してもらってでも勝ちパターンの投手に負担をかけたくないという首脳陣の意思が感じられます。

その坂本投手ですが、2アウトを奪ってから3連打を浴び1点を献上してしまいます。吉井監督はここで守護神益田投手を投入。普段であれば坂本投手に続投させていそうな展開でしたが、万が一にも延長戦に突入してしまった場合、控え投手が益田投手、澤村投手しか残らないマリーンズが明らかに不利になるため、4点差でも惜しむことなくクローザーの益田投手を投入した、と考えられます。

この点は吉井監督の当初の計画から外れてしまったかもしれませんが、それでも「プランB」的に検討はしていたと思いますし、吉井監督が恐れる「ブルペンデー失敗」を回避するためにも必要な継投だったと解釈します。

結果として吉井コーチ/監督にとって「3度目」となった今回のブルペンデーでもマリーンズは勝利を収めることができました。そしてその裏には、監督・コーチ、選手それぞれの入念な準備があったからこそ成立したのだと、改めて思います。

陰のMVP

この日投げた投手のうち、勝利が記録された岩下投手と、本拠地ZOZOマリンスタジアムでの通算100セーブ目を記録した益田投手がヒーローインタビューに呼ばれました。

もちろん両投手ともヒーローに相応しいと思いますし、登板した全投手がヒーローに値するといっても過言ではないでしょう。
ですが、この日のブルペンデーを成功に導いた「陰のMVP」は、このカードの1戦目に先発した種市投手と2戦目に先発した小島和哉投手ではないかと自分は思います。

1戦目に先発した種市投手は今季最長の9回を投げて1失点。延長にもつれ1-1の引き分けとなったため、種市投手に勝敗は記録されなかったものの、12回まで戦ったマリーンズが起用したリリーフは益田、ぺルドモ、西村の3投手のみ。
2戦目の小島投手も今季最長の8回を投げてくれたことで、リリーフを坂本投手のみの起用に抑えることができました。

結果としてマリーンズは同一カード3試合の中で延長12回とブルペンデーが組み込まれる形となったものの、3連投した投手は0、同一カード内での連投は坂本投手のみ、2登板した投手も坂本、益田、ぺルドモ、西村の4投手と極めて健全な投手運用ができたと言えます。

2023年5月16日~18日のマリーンズ投手運用

もし種市投手や小島投手が早い回で打ち込まれ降板していた場合、カード3戦目のブルペンデーのプランも崩壊し、勝利も逃していたかもしれないと考えると、やはり陰のMVPは先発で長い回を投げ切ってくれたこの2投手に尽きるのではないかと自分は思います。

実は2019年にマリーンズがブルペンデーを決行した際にも、今回のケースと同様に、前日と前々日に先発した佐々木千隼投手、岩下投手がいずれも7回まで投げており、陰ながらリリーフ投手の負担軽減に大きく貢献した形となっています。

2019年7月8日~10日のマリーンズ投手運用

これらを踏まえると、ブルペンデーの成功の鍵は直前の試合で投げる先発投手が握っているといっても過言ではありません。

緊急事態!週に2度目のブルペンデー

この勝利から3日後の5月21日、マリーンズは予告先発として公示されていた森遼大朗投手が背中の張りを訴え、急遽先発登板回避を余儀なくされる事態に。
二軍で先発要員として昇格の準備をしていたルイス・カスティーヨ投手や本前郁也投手が揃って前日・前々日のファーム公式戦で登板しており、この日の二軍の先発予定が育成選手の古谷拓郎投手であったことから、一軍に即昇格させられる「保険投手」が不在というタイミングの悪さも重なり、異例となる「週に2度目のブルペンデー」で戦うことを急遽決定しました。

先発には3日前に1回を投げた岩下投手を抜擢。岩下投手が1回を無失点で抑えた後、廣畑(3回1失点)→坂本(1回1/3)→東妻(1回2/3 1失点)→澤村(1回2失点)→ぺルドモ(1回)と継投し、打線の援護もあり6-4で楽天イーグルス相手に勝利を収めました。

前もって投手の登板スケジュールを考慮し準備することができた18日のバファローズ戦とは違い、今回のブルペンデーは当日に急遽決まったハプニング。吉井監督も試合前のミーティングの場で投手陣に対して頭を下げるなど、自らの準備不足を反省した様子でした。ここからも、普段吉井監督がどれだけ投手の準備を大切に考えているかが伝わります。

ですがこの試合でも、前日に先発した西野投手が9回1失点で完投勝利を挙げたことと、カード初戦の19日の試合が雨天中止となったことにより、結果として18日のブルペンデーで登板した投手を含むすべての投手に中2日以上の登板間隔が与えられたため、緊急事態のわりには万全に近いコンディションで登板でき、好投、そして勝利につながったのではないかと考えられます。

改めて、ブルペンデー直前の先発投手の投球がいかに重要かを感じさせてくれた試合となりました。

今後の投手運用のキーポイント

ここまで、吉井コーチ/監督が実行してきたブルペンデーについて振り返ってきました。
ブルペンデーの裏に隠された入念な準備や、陰ながら大きな貢献をしている直前の試合の先発投手については、お読みいただいた皆さんにも伝わったのではないかと思います。

ですが、ここまでで「マリーンズはこれからもブルペンデーを採用するの?」「投手運用はこのままで大丈夫なの?」と思ったファンの方も少なくないのではないでしょうか?

吉井監督のこれまでのスタンスから考えても、頻繁に採用する戦略ではないことは容易に想像できます。今回も、先発投手不在という緊急の状況だったことがブルペンデー決行の最大の理由となっています。

この根本的原因の解決、先発投手を充実させることが、投手陣の喫緊の課題であると言えるでしょう。とはいえシーズン開幕後のトレードや外国人補強でローテーションの一角を担えるレベルの先発投手を獲得するのは至難の業で、現実的には故障や不調により二軍調整を余儀なくされている選手の復帰以外に有効な手段はほとんど無いのかもしれません。
そのため、場合によっては今後もブルペンデーを実施するタイミングが訪れる可能性も十分に考えられます。

このような状況下で期待したいのが、「ピギーバック」の運用です。
ピギーバックについては、吉井監督がマリーンズの投手コーディネーターを務めていた昨年7月のブログの中で書かれています。

ピギーバックはおんぶ(背負い投げじゃないよ)という意味で、先発の上にもひとり先発を乗せるようなイメージでしょうか。

要するに、日本語で言うところの「第二先発」に近い役割です(吉井監督は「言い方が嫌い」と言及されていますが)。この時はWBCに向けてのメンバー選考の過程でしたが、個人的にはマリーンズの中で活用しても有効ではないかと思っています。

例えば体力面に不安がある投手や、投球の引き出しが少なく長い回を投げるのが難しい投手でも、2人組み合わせれば6,7回まで試合を作ってくれるかもしれません。もちろん先発投手が常に6人以上安定して揃っている状況がベストだとは思いますが、現実的にはそれも難しいため、ブルペンデー以外にこのような運用を挟むことにも検討の余地があります。

また、黒木知宏投手コーチも、就任後間もない昨年の段階でフレッシュな状態を保つ投手運用やゲーム中盤に投げる投手の重要性についても言及しており、「ブルペン改革」を宣言しています。今後は本格的にその動きが顕在化してくるかもしれません。

そしてこの中で、

「だいたいシーズン中だと6もしくは7人でベンチ入りをしながら待機するんですけど、その×2。倍ですね。だから12人から13人、14人ぐらい」とリリーフ陣の人数倍増計画を明かし…

と言及されています。これは、奇しくも吉井監督が2019年のブログの中でブルペンデーに対して言及していた

(1軍レベルのリリーバーが15人以上いれば多用してもいいかも)

という人数にほぼ一致することになります。要するに、黒木コーチの当初の思惑通りに計算の立つリリーフ投手を擁立できれば、今後もブルペンデーで臨む試合が増える…かもしれません。

故障者も少なくない中、ここまで上手く現有戦力を運用しながら勝利を積み重ね、5月22日時点で貯金9、パ・リーグ首位に立つマリーンズ。
この先、更に苦しい戦いとなることも予想されますが、その局面をどのような選手運用、とりわけ投手運用で乗り切るのでしょうか?
また、今回のブルペンデー2試合で活躍が光った廣畑投手や東妻投手に続く投手は二軍から現れるのでしょうか?
今から目が離せません。

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