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菅野剛士に学ぶ、社会人野手にこそ求められる凡事徹底力

どうも、やまけん(Twitter:@yam_ak_en)です。先日の小野投手のnote、たくさんの反応を頂けて大変嬉しく思っています。改めまして、ありがとうございます!

さて、今回は「社会人野手」にスポットライトを当てたnoteを書きたいと思います。

社会人野球は非常にレベルが高く、プロ野球選手以上の技術があるのではないかと感じる選手も少なくありません。ドラフト会議で即戦力の社会人野手を指名してチームの立て直しを図るケースも多く、近年ではトヨタ自動車から西武に入団し、球界一の守備力でショートのレギュラーに定着した源田壮亮選手や、大阪ガスから阪神に入団し1番センターの座を掴んだ近本光司選手などが代表例に挙げられます。

一方、源田選手や近本選手とは違い即戦力としてはすぐに持ち味を発揮できなくても、プロ入り後に一軍戦力として貢献する方法を見つける選手もいます。その代表例が、今回取り上げる千葉ロッテマリーンズの菅野剛士選手です。

菅野選手は明治大学から日立製作所を経て2017年のドラフト4位でロッテに加入し、即戦力として期待されながらも、2年間一軍で目立った結果を残すことができませんでした。しかし3年目の昨年、一軍で自己最多の81試合に出場し存在感を示しました。今回は菅野選手が3年目にして一軍に定着できた「凡事徹底力」について書きたいと思います。

アマ時代のキャリア

菅野選手は東海大相模高校から明治大学、日立製作所というアマチュア球界の名門を渡り歩いてきました。高校では甲子園優勝、大学では8シーズン中3シーズンリーグ優勝、社会人では都市対抗野球大会準優勝を経験し、まさに「野球エリート」とも呼べます。

アマチュア野球界のエリート街道を歩み、順風満帆なキャリアを経てプロの世界に入ったように見える菅野選手ですが、大学時代にはプロ志望届を提出しながらドラフト会議での指名漏れを経験しています。大学の同期である高山俊選手や坂本誠志郎選手、上原健太投手らが指名を受ける中、菅野選手ただ一人がどの球団にも指名されず、挫折を味わいながら社会人野球を経て2年後のドラフトに再挑戦し、指名を受けたという経緯があります。

アマ時代の選手としての特徴

菅野選手は高校時代から一貫して打撃で勝負してきた選手で、東海大相模、明治大、日立製作所と名門を渡り歩いてきたアマチュア時代のキャリアでも常に打線の中軸クリーンナップを担ってきました。大学では4年間のリーグ戦で二塁打を通算28本放ち、東京六大学野球連盟の歴代最多二塁打記録を更新しました。打者タイプとしては中距離打者に該当するかと思います。

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画像をクリックすると東京六大学野球連盟公式ホームページへアクセスすることができます。

またチャンスで結果を残す点もアマチュア時代の菅野選手が高く評価された点のひとつで、大学から社会人にかけて複数球団のスカウトが菅野選手の勝負強さを評価するコメントを出しています。
スカウトとして社会人時代の菅野選手を担当したロッテの諸積兼司氏(現二軍外野守備・走塁コーチ)は

社会人No.1強打者。スイング力、ミート力の高い打者で、広角に強い打球を打てるのが持ち味。楽天・茂木、オリックス・吉田にも引けをとらない打力で、ルーキーイヤーからの大ブレークは間違いない。

とコメントを残しており、4位指名ながら打撃に非常に高い評価と期待を寄せていた様子が伝わります。

一方で、それだけ高い打撃技術を持っていたのにも関わらず大学時代は指名漏れ、社会人でも4位指名となった理由として、
・本塁打を量産する長距離打者タイプではない(東京六大学通算6本塁打)
・小柄な体格(ドラフト指名当時171cm83kg)
・守備や走塁に特徴がない
・高校から社会人までメイン守備位置が両翼

などの理由が考えられます。
アマチュアのレベルで見たら間違いなく好打者で、社会人の日本代表入りにも異論や反論はないのですが、当時プロの打者として見た時に凄みインパクトに欠ける印象は否めませんでした。実際にアマチュア野球雑誌『野球太郎』では菅野選手に対し、

左対左でも芯で弾き返せる。四球も選べる。社会人なら「いい選手」。だがプロでは凄み不足か

との寸評が残されています(現在発売中の『別冊野球太郎 完全保存版 ドラフト答え合わせ1998-2020』より抜粋)。

また、脚力や守備力も決して悪くはなかったものの、プロで武器にできるほどでもなく、他の外野手と差別化できずに埋もれてしまう可能性が懸念され、多くの球団が指名に躊躇したのではないかと考えられます。

例えば、菅野選手の大学の同期でドラフト1位指名を受けた高山選手は、「走攻守全てにおいてレベルが高い」「打つだけでなく、守りも足もある」など、東京六大学の安打記録を塗り替えた打撃以外の能力も高く評価するコメントがスカウトから出されていましたが、菅野選手にはそういった評価がなかったことを考えると打撃以外の評価はそこまで高くはなかったと推測されます。

加えて、菅野選手がメインで守っていた両翼(レフト、ライト)のポジションはプロでは菅野選手以上の強打者外国人選手が務めているケースが多く、レギュラー獲得の難易度が高くなることが想定され、各球団が指名に二の足を踏んでいたのではないかとも取れます。

菅野選手を指名したロッテは2017年シーズン、チーム打率.23312球団ワーストで、一部のポジションを除いてレギュラーが白紙状態だったこともあり指名に至ったと考えられますが、当時のロッテのチーム状況がここまで酷くなければ、もしかしたら菅野選手はドラフト指名を受けることなく現在も「社会人No.1強打者」であり続けたのかもしれません。

プロ入り後、3年目に開花

晴れてプロ野球選手となった菅野選手は、1年目のオープン戦で好アピールを続け、同期入団の藤岡裕大選手とともに2018年の開幕スタメンの座を勝ち取ります。しかしその後は一軍と二軍を行き来し、最終的には53試合 打率.176 2本塁打 18打点と目立つ結果を残すことはできませんでした。翌2019年も28試合 打率.197 3本塁打 7打点と、やはり期待とは程遠い結果に。

一方、二軍成績に目を向けると1年目に打率.270、2年目に打率.300という数字を残しており、二軍レベルの投手相手には十分に適応できていたと言えます。また1年目に二軍で.344だった長打率が2年目には.460を記録しており、当初期待されていた中距離打者としての素質も徐々に発揮されてきたと捉えることができます。

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「Baseball LAB」より、画像をクリックするとサイトにアクセスすることができます。

そして3年目の昨シーズン、開幕こそ二軍で迎えたものの7月に一軍昇格すると、最終的に81試合275打席打率.260 2本塁打 20打点という成績を残し、外野の一角を担いました。特に出塁率.389OPS.748を記録しており、チームOPS.684と貧打にあえいだ昨年のロッテ打線においては欠かせない存在となりました。

菅野選手が一軍で本格的な成績を残すまでには3年の期間を要し、当時の担当スカウトだった諸積コーチの「ルーキーイヤーからの大ブレークは間違いない」というコメント通りとはならなかったものの、上記の通り二軍成績を見ると年々プロの投手のレベルに適応していった様子が伝わります。この二軍成績の推移から見れば昨年の一軍での好成績は必然とも言えるかもしれませんが、今回はあえて”それ以外の要因”に目を向けたいと思います。

一軍に定着できた要因とは?

冒頭でも書きましたが、アマチュア時代の菅野選手は打撃を高く評価されていた一方で守備や走塁に対する評価はあまり聞こえず、可もなく不可もなく、プロレベルで見たら「武器」にできるほどではないと見られていました。

しかしながら、昨年の菅野選手のUZRに目を向けると、404回1/3を守ったレフトで10.9という高数値を記録しており、平均的なレフトの選手と比較して約11失点を阻止していることを示しています。この数字は400イニング以上守った選手の中では青木宣親選手(ヤクルト)の15.2に次ぐ全体2位に位置しています。またUZR/1000(1000イニング換算のUZR)で比較すると、青木選手が19.7であるのに対し菅野選手は27.0と青木選手を上回っており、メインで守っていたレフトの守備で大きな貢献をしていたことがわかります。

実際に菅野選手の守備に目を向けると、一般的に守備の名手と呼ばれる選手が魅せる派手なダイビングキャッチや送球は多くないものの、とにかく堅実で丁寧なシーンを多く目にすることができます。例えば内野手や捕手がタッチしやすい場所へ素早く正確な送球をしたり、間に合わないタイミングでの送球を控えて別のランナーの進塁を抑止したり…
凡事徹底」という言葉がありますが、菅野選手の守備はまさに凡事徹底を実践しており、こうしたことの積み重ねで相手の進塁や得点を抑止していると言えます。

アマチュア時代は守備を評価されることが少なかった菅野選手ですが、下記の記事を見ると大学でのドラフト指名漏れを経て入社した日立製作所時代に守備練習に時間を費やしたことが現在の好守備に繋がっていると捉えることができます。

 >悔しさを糧に過ごした社会人時代。すべてを野球に費やした。自信のある打撃でアピールをする一方、不安のある守備を磨くことに時間を費やした

また昨年は出場機会を広げるために本職の外野だけでなく春季キャンプからファースト守備にも取り組み、レギュラーの井上晴哉選手が不調の際はファーストでスタメン出場も経験しました。外野と一塁を守りながらもシーズン無失策で、首脳陣にとっても非常に起用しやすい選手だったのではないかと思います。

守備以外でも、相手の隙を見て先の塁を陥れる走塁、打てなくても粘って四球を奪う打撃など、常に自分にできるプレーを100%に近い水準でこなしていたのが昨年の菅野選手だったと自分は思います。

武器をアピールするために得意分野以外もこなす

既に書いているように、アマチュア時代の菅野選手は良い選手ではあったものの、飛び抜けて凄いとは言い難い選手でした。そんな菅野選手がプロの世界で存在感を示すことができたのは、武器としていた打撃面でプロの投手に適応できたことはもちろん、打てない時期でも四球を獲得して出塁をしたり、守備面で進塁や失点を抑止したり、常に自分にできる仕事をこなし続けたからではないかと思います。

仮に菅野選手と同等の水準の選手がもう1人いたとして、打撃面でプロの水準に適応できたとしても、雑な守備で相手に進塁や得点を許したり、ランナーとして先の塁に進める状況で進塁を怠ったりしていたら昨年の菅野選手ほどの出場機会は得られなかったでしょう。

菅野選手の例から、即戦力として加入する社会人野手は自分の得意分野をアピールすることは当然必要ですが、その武器をアピールするためには得意分野以外でもできることをこなし、まず出番を与えられる選手になることが重要であるとわかるかと思います。

打撃での貢献を求められる選手も守備でできることを怠ってはいけませんし、守備での貢献を求められる選手も打席でできることを怠ってはいけません。いくら優れた武器を持っていても、こうした凡事徹底ができない選手にはその武器をアピールする場所すら与えられないのがプロ野球の世界であると自分は考えます。

即戦力としての働きを求められて加入した社会人選手が当たり前のプレーを当たり前にこなせないとなると、一軍での出番どころか二軍でも次第に出番を失い、長くは生き残れないかと思います。育成リソース(二軍での出場機会など)の観点から見ても、20代半ばで求められることができない選手にリソースを割くより高卒ルーキーなど若い選手にリソースを割いた方が将来的なリターン(一軍成績)に期待が持てるケースも多く、現に近年のドラフトでは高校生野手の指名数が増加し、社会人野手の指名数が減少している傾向にあります。

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上の表は、2015年から2020年までの高校生野手と社会人野手のドラフト指名人数を比較したものです(高校生は支配下指名のみカウント)。

とある野球漫画で「プロに入るには三拍子もいらない、飛び抜けた武器がひとつあるかどうかだ」とスカウトが選手に語る描写があるように、全ての能力・技術が優れている必要はなく、武器と呼べるものがひとつでもあればプロの世界で勝負できると自分は思います。しかし、だからといって他の部分を疎かにしたら勝負する土俵にすら上がれないとも思います。

捕球から送球までの時間を短くする、野手がタッチしやすいところへ正確に送球するなど、菅野選手の守備でのプレーはプロ野球選手やプロのスカウトに注目されるほどの能力のある選手であれば決して難しいことではないと自分は思います。菅野選手を貶すつもりはありませんが、アマチュア時代には決して守備面で高い評価を受けていなかった菅野選手"でも"できることです。だからこそ、即戦力としての働きが求められる社会人選手には得意分野以外の分野でも一定の働きが求められます。

結論:プロ入りする社会人野手に必要な素質とは?

今回は菅野選手を例に、「プロ入りする社会人野手に必要な素質とは」というタイトルで社会人野手に必要な素質を考察してまいりました。
大学時代にドラフト指名漏れを経験し、社会人でも良い選手ではあったものの飛び抜けて凄いとまでは言えなかった菅野選手が一軍に定着できた要因は、アマチュア時代から武器としていた打撃での適応に加えて、当たり前のことを当たり前にこなす「凡事徹底力」ではないかと思います。そしてこの凡事徹底力こそが、即戦力としてプロ野球チームに加わる社会人野手に必要な素質ではないかと自分は考察します。

ドラフト会議を経てプロ野球界に入れるのはアマチュア野球界のほんの一握りの優秀な選手だけで、彼らは必ずプロで勝負できると評価された武器を持っているはずです。その武器をアピールするためには、得意分野以外のプレーでもできることはきちんとこなし、首脳陣からの信頼を得て出場機会を確保する必要があります。まさに凡事徹底の積み重ねです。

この「凡事徹底力」は社会人出身の選手に限らずどの選手にも必要な素質とも言えますが、とりわけ時間的猶予の少ない社会人選手には欠かせない素質ではないかと自分は思います。

プロ入り後2年間は一軍で目立つ成績を残せなかった菅野選手ですが、二軍ではプロの投手に次第に適応し、昨季の一軍での好成績に繋がりました。結果が出ずに二軍にいた期間も、武器の打撃を磨くだけでなく、守備や走塁などを怠らず、常に自分にできることをこなし続けて出場機会を得られたからこそこの結果に繋がったはないかと自分は考えます。

打ってからアウトになるまで全力で走る、常に声やジェスチャーで状況確認をする、相手の捕りやすい位置に送球する…これらは少年野球でも教わることですが、強いチームの選手ほどこうした基礎中の基礎を抜かりなく徹底している印象を受けます。
今後は社会人出身の選手やプロを目指すアマチュア選手のプレーを見る際にも、その選手が得意とする分野のプレーだけでなく、あえて得意分野以外のプレーにも目を向けてみることで、新たな発見につながるかもしれません。そして、プロや上の世界での勝負を目指している選手は、得意分野をアピールすることはもちろん、苦手な分野でもできることを確実にこなすことで新たな可能性が広がるかもしれません。


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