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変則日程における吉井理人コーチ流投手マネジメント

どうも、やまけん(Twitter:@yam_ak_en)です。
1年前、千葉ロッテマリーンズの吉井理人投手コーチに関するnoteを書かせていただき、おかげさまで多くの方からの反応をいただきました。

吉井コーチといえば、球界を代表する名投手コーチの1人といっても過言ではありません。特に投手の運用方法・マネジメント能力に長け、これまでコーチを務めたファイターズ、ホークスではいずれもリーグ優勝・日本一を経験しており、昨年からマリーンズの一軍投手コーチを務めています。

今年は新型コロナウイルスの影響でプロ野球の開幕が大幅に遅れ、移動を極力減らすために変則的な日程になるなど普段とは違う戦い方を各球団とも強いられることが予想されます。しかしマリーンズは開幕からの9試合で8勝1敗と好スタートを切ることに成功しました。今回のnoteでは、開幕から現時点までで見えてきた「変則日程における吉井コーチの投手マネジメント」について具体的に書いていきたいと思います。

今季のプロ野球

新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れた今シーズンのプロ野球は、

・延長12回から10回への短縮
・一軍登録人数29人から31人への増枠
・一軍ベンチ登録25人から26人への増枠
・一軍外国人枠4人から5人への増枠(ただしベンチ登録は4人まで)

等、いくつかの特例措置が設けられて開幕しました。
また、パ・リーグは開幕から8月23日までの間、選手・首脳陣をはじめとしたチーム関係者の移動を極力減らすために同じ対戦相手との6連戦という変則的な日程で試合を行うことが決まっています。

シーズン終了まで火曜日から日曜日の6連戦を毎週続けるだけでも大変なうえ、8月下旬までは同じ相手と1週間戦うという普段ではありえない日程。各チームとも投手の運用方法を普段のシーズンから変えなければいけない部分が多かれ少なかれあるかと思います。一軍登録人数や外国人枠の増枠を有効に活用できるかどうかも鍵となりそうです。

吉井流・投手マネジメント【先発投手編】

まず、先発投手について大きく言えることは、投球数を制限していたということです。これは吉井コーチのブログにも、

先発は球数制限がある中(わしが勝手に決めたんやけど)、みんな5回以上投げてくれました。

と記載があります(吉井理人オフィシャルブログより引用)。

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上の表は、開幕後の先発投手の投球数についてまとめたものです。例えば、開幕戦に先発したエース・石川歩は6回79球、その他の投手も開幕後最初の先発登板では投球回数5回~6回、投球数80球~90球程度を目処に交代しています。
そして、石川・種市・美馬の3人は2度目の先発ではいずれも6回~7回、100球前後を目処に投げており、投球内容にもよりますが今後他の先発投手も同様に投球数を伸ばしていくことが考えられます。

緊急事態宣言の全面解除・チーム活動再開から急ピッチでの開幕に至ったことで、選手は約3週間という短期間での再調整を強いられました。実戦での投球機会が少ない中で強度の高い投球をすると故障リスクが高まるということもあり、吉井コーチはチーム活動再開後の紅白戦や練習試合から先発投手の投球数に関して一定の段階を踏ませること、そして開幕後も無理をさせないことなどを決めていたのではないかと思います。
開幕戦で完璧な投球をした石川も6回79球を投げた時点での交代を決断し、その他の先発投手に関しても球数制限を設けたことで、故障離脱のリスクを極力回避したと言えます。

結果論ではありますが、開幕から先発投手が大崩れすることなく各投手とも定められた投球数で毎試合5回以上を投げている点は評価できますし、リリーフ投手の節約という点でチームにとっては非常に大きかったことだと言えます。

吉井流・投手マネジメント【リリーフ投手編】

ここからは特殊日程における吉井コーチのリリーフ投手の運用方法について考えていきたいと思います。まず現時点でのマリーンズの一軍リリーフ投手陣と主な役割について確認していきます。

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※開幕後間もないため役割が明確でない部分がありますがご了承ください。
今季はハーマン、ジャクソンという2人の経験豊富な外国人リリーバーを獲得し、彼らがクローザーの益田直也に繋ぐという形をとっています。また、FA移籍した鈴木大地の人的補償でイーグルスから加入した小野郁や、昨季途中にタイガースからトレードで加入した石崎剛など、新たな顔ぶれもブルペンに加わっています。

同一カード6連戦という異例の変則日程が続く今季のパ・リーグ。日曜日までのバファローズとの6連戦の中で、マリーンズのリリーフ陣は「同一カードでの登板数は3試合までに制限する」という方針を敷いている可能性が見えてきました。

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上の表は、6月23日から6月28日までのバファローズとの6連戦におけるマリーンズのリリーフ投手の登板機会をまとめたものです。回跨ぎや連投を極力セーブしている点は従来の吉井コーチの運用法から大きく変わりませんが週間登板回数を多くても3試合までに抑えています。
土曜日の試合までに益田とハーマンが3試合に登板して迎えた日曜日の試合では、1点リードの8回に小野と東條大樹が登板、同点に追いつかれてしまいますがその後再び勝ち越した9回にはジャクソンが登板してゲームを締めています。井口資仁監督は試合後のインタビューで、

「今日はハーマンと益田が使えない状態だったので」

とはっきり言っていることからも、基本的には同一カードで3試合までの登板に制限する方針を敷いていると考えられます。

同一カードでの登板数を制限する理由として、登板過多による故障リスクの増加や疲労の蓄積を回避するためであるということが当然考えられます。さらに、同じ相手に手の内を見せすぎないことで、適応されるリスクを回避しているのではないかと考えられます。

マリーンズに限らず、リリーフ投手の多くは引き出し・球種をたくさん持っているというタイプではありません。必然的に同じ勝負球で同じ打線に勝負せざるをえなくなり、同一カード内で投げるうちに捉えられるリスクは高くなっていくと考えられます。もちろん捕手も配球や組み立て方を変えるなど工夫をする必要はあるかと思いますが、それだけでは限界があるためチーム方針として登板数を抑える方向に舵を切ったのだと思います。まさに「6連戦のためのマネジメント」と言えるでしょう。

また、このように同一カード6連戦での登板回数を制限することにより、普段は所謂「Bチーム」と呼ばれる非接戦リード時やビハインド時に投げる投手が勝ちパターンの投手の代役として登板したり、セットアッパーの投手がクローザーの投手の代役として登板したりする必要が生じてきます。日曜日にリリーフ登板した小野やジャクソンが最たる例です。

チームが連勝していたこともあってより思い切った起用をしやすい局面ではあったと思いますが、吉井コーチは決して目先の1勝だけに囚われず、接戦の場面をあえてBチームの投手に託すことで成長を促し、将来のAチーム入りへのきっかけを掴ませようとしているとも考えられます。
また、ジャクソンをクローザーとして起用したことも、現在クローザーを務める益田へ依存しすぎないようにするためではないかと考えられます。現在のマリーンズにはシーズンを通じてクローザーの役割を担った経験のある投手が益田以外に西野勇士、内竜也しかいません。西野は開幕前の練習試合で肘の故障(靭帯損傷)が発覚し長期離脱が予想され、内は元来の故障がちな体質に加えて今年で35歳と年齢面での不安もあり、戦力として年間通じての計算に含めるかどうかは微妙です。もし今後益田に何かあった際、急に場慣れしていないリリーフ投手をクローザーに配置するようなリスクの高いマネジメントを避けるためにも、他の投手に定期的にクローザーを任せることは必要だと自分は考えます。

この6連戦では、目先の1勝ばかりに囚われることなく、先の試合、さらには数年後までを見据えた吉井コーチの「総合的な投手マネジメント」が光ったと感じます。

まとめ

ここまで、開幕から現時点までの吉井コーチならびにマリーンズの変則日程下での投手運用・マネジメントについて考察していきました。先発投手・リリーフ投手とも方法こそ違えど、故障リスクを極力抑え、長いシーズンを見据えた運用をしていることがお分かりいただけたかと思います。

特殊日程の今季は今後も6連戦が続くため、一軍投手だけでなく現在二軍にいる投手の力も必要になることが考えられます。内や大谷智久、松永昂大など経験豊富な中堅・ベテラン勢、東妻勇輔や永野将司、山本大貴など活きの良い若手組、場合によっては大型ルーキー佐々木朗希も…一軍・二軍の投手全員で戦うことが求められます。

今年も、吉井コーチのマネジメントならびにマリーンズの各投手の投球から目が離せないシーズンになりそうです。

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