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[SF小説]やくも すべては霧につつまれて15

多くの生物の生存を許さない過酷な環境である南極。その地下にヴァンパイアが住んでいるという話にどこか現実味を感じられない一同。そんな中暁が口を開いた。

「南極はたしか、どこの国も領有権を主張しないことなどの内容を盛り込んだ条約があったと思いますが、それはヴァンパイアと何か関係があるのでしょうか?」

暁の質問を聞いて宮内は軽くうなずき、話し始めた。

「はい、南極条約のことですね。内容はいろいろありますが主な要素として、南極における軍事利用の禁止、科学調査の国際協力や領有権の凍結などを盛り込んだ条約です。これらは総じて南極の環境保全などを目的としてきたのですが…」

宮内が含みを持たせた言い方をした直後、画面の映像が切り替わる。

「実際には、ヴァンパイアを必要以上に刺激しないようにするためでもありました。そしてこちらは人類が初めて南極点に到達したときの映像です」

映像には南極点に到達した探検隊が旗の前で記念撮影しているものだった。画像の粗さから当時の年代がうかがえる。

「初の南極調査のときから、ヴァンパイアの存在を思わせる証拠は存在しました。その後も調査隊は何度も派遣され、ヴァンパイアの存在は確実なものとなりました。公式にいつから地球連邦政府がヴァンパイアと交信していたのかは不明ですが、それなりに昔から人類とヴァンパイアは二度目の邂逅を果たしていたのです」

ここまでの話を聞いて質問が上がる。

「…当時その事実、つまりヴァンパイアが地球にやってきた宇宙人であったことや、今でも南極にヴァンパイアが存在するということを知っていた人はごく一部だったのでしょうか?」

「そうですね、地球連邦政府大統領とその周辺のごく一部の政治家などしか知りえなかったと聞いています。過去にはヴァンパイアの存在を公のものにしようとして暗殺された人物などもいます。それほどヴァンパイアについては繊細な問題だったことがうかがえます」

暗殺という言葉を聞いて、自分たちがいかに重大な事実の片鱗に触れているのか思い知らされる一同。だがそれと同時に疑問も浮かんでくる。

「ではなぜ今、人類とヴァンパイアが接触しようとするのでしょう?」

皆の頭に浮かんだ当然の謎をひとりがつぶやいた。これまで六百年近くお互いにほとんどかかわりがなかった人類とヴァンパイアの問題がなぜ今議題に上がっているのか。一同の視線が宮内に集中する。

「このヴァンパイアに関する様々な件に関して、さきほども言った通り一部の人は理解していましたし、いずれ公の場でもこの事実に関して発表しなければならないと考えられてきました。

歴代の大統領が問題を先送りにしたというと言い方は悪いですが、どのように民衆にこの事実を伝えるかというのはずっと議論されていたのです。
そのため今になって急にヴァンパイアに接触しようとするものではありません。

これまで先人たちがさまざまな意見を交わしてきたのです。
事実、記録によるとヴァンパイアと直接接触したことがある政治家も中に入るようです。

しかし、それはあくまで極秘裏に行われた地球連邦政府との非公式な接触でしかありません。

地球連邦政府がヴァンパイアと正式に国交を結んだというようなことではなかったのです」

激烈な地球侵攻の果てに南極へと雲隠れしたヴァンパイア。人類はそんな彼らとの関係が問われていた。

「そしてなぜ今回皆さんに集まってもらって、このような話をしているのか。それはついに地球連邦政府がヴァンパイアと正式に国交を結び、その存在を公の場で明らかにするとの方針を打ち出したからです」

宮内の言葉に部屋中がざわつく。今この話を聞いていた自分たちですら受け入れがたい内容であったものを、一般大衆がそうやすやすと受け入れられるのか。一同疑問と不安がこみ上げてくる。

「おい暁、お前はこの話をどう思う?最初から最後まで信じられるか?」

一通りの話を聞いてきた神崎が暁に耳打ちをした。そして腕を組んで考える暁。

「まあ、この話だけではなんとも言えないというか、別に実物を見たわけじゃないから本当にヴァンパイアがいるかはわからんけど。まあ、こんな場所で冗談を言うのもおかしな話だし、信じるしかないかな」

三人ともいまだに実感がわかないようだが、それは周りにいる人も同じようだ。頭の中で理解が追い付いていない。だが追いつけていない理解をさらに置き去りにするように、宮内は話を進めていく。

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