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日本一無名な島根が異世界に行ったら世界一有名になった話 23

昨日の地震、そしてそれに伴う大規模な地形変動の発生からもうまもなく一日が経とうとしていた。
県内各地の通信施設では夜通し作業が行われたこともあり、県内の固定回線はおおむね復旧し、固定電話をはじめとする一部の通信が再開された。
その一方で、県外の通信施設とは未だ音信不通の状態が続き、衛星通信なども途絶している。
通信を回復させるために県内では多くの技術者が動員されたものの状況は芳しくなく、県民の間には不安が広がっていった。
そして幸か不幸か、固定電話がつながるようになったことでそのような異変があちこちで話題になる。
やがて民衆の不安は相乗効果を起こし、県内各地の役所に住民が押し掛けるようになっていった。

通信障害及び県境での地形変動に関しては昨日の時点で一部の住民から相談は届いていた。
その時はなんとかその場しのぎの回答を役所各自でしていたが、もはやそういうわけにはいかない。
昨日とは訪れる住民の数が違うのだ。
とても窓口では対応しきれない人数。
入り口では警備員が彼らを制止しようと必死になっている。
過疎化が進み人口が減りつつある島根だったが、それでもこんなに人がいるのかと思わせる数の群衆が押しかけてきていた。

もちろん県内各地で人口はまちまちであるため、その人ごみの規模は一概に比較できない。
だが島根県庁がある松江市は、島根で最も人口が多い市であることからひときわ多くの群衆が詰めかけてきていた。
そんな中朝早くから何十人もの応対をしなければならない職員たちの表情には、疲労の色がうかがえる。
とはいえ、今や生活基盤となっているテレビやネットが突如として使えなくなってしまったら当然そうなるだろう。
人によっては生活にかかわるからだ。

そのような状況において、市役所や県庁はどう対応するべきか苦慮していた。
しかし民衆の中から何が起こっているのか説明を求める声が飛び交っている状況。
あたり一面を覆う群衆の熱気はますます大きくなるばかりだった。

今のところ暴動などには発展していないものの、このまま対応が遅れれば何が起きるかはわからない。
一刻も早く県民が納得する情報を出さねばならないのは誰の目にも明らかだった。
そのため県庁では夜勤の職員も含め、多くの人員を割いて情報収集及び情報の整理を行って何を伝えるべきか慎重に決定していた。
もちろん寺山もいつもより早く来庁し、ともに作業に当たる。
今回のような災害時において、寺山は知事として公式声明を発表する立場にある。
そのためいち早く届けられた情報に触れて内容を確かめることが重要だと思っていた寺山は、災害対策本部から受け取った資料を片手に知事室の扉を開いた。

いつもよりだいぶ早い時間帯、まだ朝日が低い中、眠い目をこすりながら資料に目を通す。
そして定期的にあくびを出しつつも新たな情報が入ってきていないか、紙に穴が開くほど読み込んだ。


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