[SF小説]やくも すべては霧につつまれて9
「おお、ウィリアム・ムーア大将、ご無沙汰しております」
二階堂は振り返り笑顔を見せる。ウィリアムは二階堂と同じく、地球防衛軍において大将を務めており、配属先の違いはあれど地球から宇宙まで幅広い職務をこなしている。
それゆえに先ほどの会議にも防衛軍の上層部として参加していた。
「…先ほどの決議、どう思いました?私はどうも、もやもやするというか、本当にこれでよいのかどうかと考え込んでしまって…」
ウィリアムの言葉に二階堂も少しだけ笑顔を曇らせる。そしておもむろに口を開く。
「…あれが本当に正しいのかは俺にもわからん。ただ、人類にはこの課題を解決するという責務がある、ただそれだけだ。それに国民の決めた政治家たちの決断だ。俺たちの口出すことじゃねぇ」
「だけど、いまだに国民には何も伝えられてないじゃないですか!それでもいいと?」
ウィリアムの返答にうつむく二階堂。だがすぐに顔を上げた。
「ウィリアム、俺たちは軍人だ。政治家の決めたことに対してああだこうだ言うのはみっともない。俺らは任務を粛々とこなすだけだ」
「それがたとえ間違っていてもですか?」
「ああ、そうだ」
どうも納得のいかない表情のウィリアムだったが、二階堂は話を続ける。
「お互いがお互いの専門分野をきちんとまっとうする、それだけの話。第一、国民が選んだ政治家の決定だ、それを疑うなんて間接的に国民を疑うのと一緒だ。守るべき対象を疑うのか?」
「…そう、ですね」
「俺たちが守る国民、いや、人類のためにも、さらに会議を進めて計画を完璧なものにしないとな。なに、大丈夫だ。俺達には優秀な部下がたくさんいるだろ?」
二階堂は笑顔でウィリアムを見つめる。するとウィリアムも少しだけ表情がほぐれた。
「じゃあ、この後も仕事あるだろ?お互いがんばろうぜ!人類のためにな!」
二階堂はそう言い残してその場を去ろうとする。だがウィリアムは最後に一つだけ質問をした。
「…その人類ってのは地球人のことですか?」
核心を突くその一言に動き出した右足が止まる。そしてにやりと口元が緩み、一言だけ言い放った。
「いいや、人の類と書いて人類だ」
一瞬の沈黙が二人の間に流れる。
「ですよ、ね…」
少しだけ理解に時間を要した返答。
ウィリアムは緊張がほぐれたような気がした。
二階堂も自身と同じ感覚でいるのだと確信したからだ。
同業者として、使命に臨む心意気は同じなほうがいい。
そしてたった一言で二階堂の思いをくみ取ったウィリアム。
「じゃあな、ウィリアム」
再び二階堂は廊下を歩き始める。次の仕事に向かうために。
「ええ、また」
そういってウィリアムは彼と別の方向へ歩き出す。次の会議室に向かうために。
そして人類も新たな一歩を歩み始める。次の時代に向かうために。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?