見出し画像

研修転移に必要な、心がけと声かけ

人材育成担当者が「良い研修」を作るために「き」をつけることを書き連ねています。

前回は、研修で武を手にして、勇を心に抱いた受講者が、現場に戻ったあとに「き」をつけることを書いてみました。

研修の前に、上司が待を受講者(部下)に伝える。その言葉を胸に研修を受けた受講者が、現場に戻ったあとに、本で「やってみる」。上司は、受講者(部下)が試行錯誤する会(仕事)を用意する。

今回は、本気で「やってみた」あとには何が必要なのか、という問いを考えることで、人材育成担当者が「良い研修」を作るために「き」をつけることを書いてみようと思います。

試してみることに失敗はない

「良い研修」というテーマではあるのですが、扱う範囲が「研修の中身」を超えて、「研修と現場のつながり」に広がっていることが感じられるでしょうか。考えてみれば当たり前のことなのですが、研修というのは、そこで学んだ内容が現場で実践されて(研修を超えて)、はじめて意味が出てきます。

この、研修で学んだ内容が、現場で実践され、「仕事において」効果が生まれるということを、研修転移と呼びます。

学問的な研修の定義は、「組織のかかげる目標のために、仕事現場を離れた場所で、メンバーの学習を組織化し、個人の行動変化・現場の変化を導くこと」です。

研修開発入門 「研修転移」の理論と実践』より
研修転移とは、「研修で学んだことが、仕事の現場で一般化され役立てられ、かつその効果が持続されること」を指します。

研修開発入門 「研修転移」の理論と実践』より

「仕事の現場で一般化」の端緒である、「うまくいくかどうかは別にして、まずはやってみる」を引き出すのが、上司の待と、上司による会(仕事)の提供でした。

では、「効果が持続」するために必要なことはなんでしょう。

それは、上司の継続的な関わりです。「最初の」実践や一般化でうまくいくなどという、うまい話はそうそうありません。

私が「やってみる」という言葉に対して、「うまくいくかどうかは別にして」という長ったらしい形容句を付け加える意図はここにあります。実践したからといって、すべてが成果に結びつくわけではない。しかし、成果が出たときには、その手前には(失敗も含めた)たくさんの実践があるはず。だから成果を出すためには、「うまくいくかどうかは別にして」「やってみる」ことが必要。(それで十分、というわわけではないことに注意)

余談ですが、「うまくいくかどうかは別にして」「やってみる」ことの大切さは、この本でわかりやすく紹介されています。

上司の継続的な関わりの大切さを研修転移の言葉で言い直せば、「一回で」「一人で」転移が起きるというのはない、ということになります。上司の継続的な関わりによって、研修で学んだ内容に磨「」をかけることが、研修転移には必要です。

磨「」をかけるための、上司の心がけや声かけを紹介します。

変化と成果を区別する

研修から戻ってきた部下と接するときに気をつけてほしいのが、変化と成果を区別して見る、ということです。変化と成果の区別については、以前こんなふうに書きました。

変化について考えるときに大切なことは、「変化には、良いも悪いもない。変化している(行動)/しようとしている(意図)ことそれ自体が、すべて善」と捉えることです。
育てる側の価値判断を含めないということですね。
「良い変化」のみを見ようとする人がいますが、「良い変化」は「成果」です。
成果は出ればうれしいけど、水物です。
結果であって、育てる側がアプローチする場所ではありません。

育てる側が約束できること』より

研修転移が進んだ状態が、「成果」と呼べます。一方、その手前である、「うまくいくかどうかは別にして」「やってみる」状態は、「変化」にあたります。

研修から戻ってきた部下の状態というのは、「変化」の段階だということです。研修で「こんなふうにやるとうまくいくよ」とテクニックを教わったり、「うまくいった場面をイメージしてみよう」と前向きな気持ちなっています。「やってみよう」という「変化」への準備が整っている状態です。

途中の「変化」ではなく、最終的な「成果」を求める上司からするともどかしいかもしれませんが、一歩ずつ進んでいくしかありません。「一回で」研修転移は起きないのです。

「変化」と「成果」を区別して部下に接するためには、「研修行って、できるようになったか?」という問いかけをNGワードにしてみるとよいです。

「できるようになったか?」は、「成果」を問うています。そうではなくて、「研修でどんなこと教わったの?」という「変化」を問いかけてみてください。部下から「こんなことを教わりました」という答えが返ってきたら、それが彼/彼女にとっての「変化」の入り口です。「やってみようと思います」という言葉も添えられていると、なお良いですね。

「教える」は「教わる」につながる

もう一つ、研修から戻ってきた部下に対する接し方として大切なのは、「研修だとどう教わった?」「研修だと◯◯だったよね」という声かけです。研修後の仕事の場面で、部下にフィードバックするときに、この言い方を使ってみてください。仕事での「経験」を、研修という「理論」によって、意味づけしなおすことにつながります。

経験をうまく概念化するには、先人の知恵を参考にするのが一番です。 組織理論学者のミンツバーグは「優れた理論は、自分の経験を理解するのに役立つ」と述べています。 体系的に整理された既存理論と、経験から気づいた自分の考えを照らし合わせます。

自分の経験に近い既存理論を探したら、その既存理論を自分の状況に当てはめて、個別具体的に解釈し、発展させ、新しい理論を構築するのです。 ここでいう「理論」とは、広く世界的に適用できるものでなくてもかまいません。自分自身やその周辺に有効な「理論」(持論、マイセオリー、教訓)を生み出すことこそ重要です。

「経験学習」とは?学習プロセスや促進させるためのポイントなどご紹介』より

仕事での「経験」を、研修(をはじめとした先人の知恵)という「理論」によって、意味づけしなおすことというのは、実は、部下だけでなく上司自身にとっても必要なことだったりします。

労働時間が長いマネジャーは、 営業の勝ち筋がわかっていない。
できるマネジャーは、営業で何か問題が生じたときに最短ルートで解決する方法をメンバーに指示できる。
マネジャーについては、できる人ほど短い労働時間で高い成績を上げる。
逆にできないマネジャーは、試行錯誤を繰り返しているうちになんとなく数値はとれても、それが理論化できないものだから、ほかの機会でまた試行錯誤することになる。
結果として、マネジャー自身もメンバーも労働時間が長くなってしまう。

働き方改革時代にマネジャーは何をすべきか―働き方改革の中間報告―』より

教えることと、教わることは表裏一体です。部下の研修転移を進めるのと同時に、上司の理論化が進めば、組織としては一挙両得のはずです。

===

「良い研修」にするために必要な、上司の関わり方をいくつか紹介してきました。研修の前に、上司の待を伝える。研修の後には、上司が会(仕事)の提供する。そして、その仕事の中で、上司が継続的に関わることで、研修で学んだ内容に磨「」をかける。

研修転移とは、「一回で」「一人で」起きるものでありません。また、上司のもとに手放しで転がり込む福音でもありません。研修(人材育成担当者)現場(上司)で一緒に引き出す、共同作業の産物です。

次回は、研修と現場の共同作業が進みやすくするための考え方について書いてみます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?