見出し画像

育てる側が約束できること

前回は、人を育てる側になったら、成長と成果を区別して考えてみようというお話しでした。
成長は本人の感じ方の問題成果はアンコントローラブルということで、育てる側の「やれることの精一杯」というのは一体どこなんでしょう。

いつまでたってもできるようにならない人

ここで突然ですが、「ペットボトルの水をコップに注ぐ」という行動を、20個以上のステップに分解してみてください。







1. ペットボトルを見る。
2. ペットボトルに利き手と反対側の手を伸ばす。
3. ペットボトルをつかむ。
4. ペットボトルを引き寄せる。
5. 利き手でキャップをつかむ。
6. キャップを時計と反対周りに回して開ける。
7. キャップをテーブルに置く。
8. 利き手でペットボトルをつかむ。
9. ペットボトルを上げる。
10. 利き手と反対の手でコップをつかむ。
11. コップを引き寄せる。
12. ペットボトルをコップの上に移動させる。
13. ペットボトルの口を下にして傾ける。
14. 水が少しずつ出てくる角度で止める。
15. コップとペットボトルを交互に見る。
16. コップの八分目くらいまで水が入ったら、ペットボトルを垂直に戻す。
17. 利き手と反対の手をコップから離す。
18. ペットボトルをテーブルの上に置く。
19. ペットボトルから手を離す。
20. 利き手でキャップをつかむ。
21. 利き手と反対の手でペットボトルをつかむ。
22. キャップをペットボトルの口まで移動する。
23. キャップを口にかぶせる。
24. キャップを指でつかむ。
25. キャップを回して閉める。
26. キャップから手を離す。
27. ペットボトルから手を離す。
『行動科学を使ってできる人が育つ! 教える技術』 石田淳

これが解答例なのですが、いかがでしょう、20個以上に分解できましたか?
意外と難しいと思います。
どうしてこんなことをやってもらったかというと、「ペットボトルの水をコップに注ぐ」というのを、ひとつの仕事ととらえてみてほしいのです。
そして、本人がその仕事をできるように育てるまでの場面を想像してみてください。

「ペットボトルの水をコップに注いどいて」とだけ言われた本人は、今日はうまくできなかった。
その次の日もうまくできなかった。
それが何日も続き、1週間たってもできなかった。
「ペットボトルの水をコップに注いどいて」はあまりにも簡単な作業ですが、この部分を本人に課している実際の仕事に置き換えて想像してみてほしいのです。
さて、1週間たっても「成果が出ない」本人に対して、育てる側であるあなたは、どうアプローチしますか?
ちなみに、ここまでの過程で、本人が「成長している」かどうかは、本人に聞かずには判断できない、というのも前回のお話しでした。

今日できるようになったことはなにか?

ここで、「ペットボトルの水をコップに注ぐ」というひとつの仕事を、さきほどの例のように、細かく細かく分解していくと、なにが起きるでしょうか。
「1週間たってもできなかった」が、「今日は3番までできた」「その次の日は7番までできた」「1週間たつと16番までできた」「来週は17番から27番をがんばろう」といった言い方ができないでしょうか。

本人に課している仕事を、育てる側が細かく分解すると、「できた」「できない」の解像度が上がります
本人にとっては、「次に目指すべき場所」が明確になります。
いわゆる、サブゴールを設定するというものです。
育てる側にとっては、本人の変化がよく見えます。
昨日と今日のあいだで、きっと「なにか」が変化しています。

分解する、よく見る、信じる

育てる側が約束できることというのは、実はこの「変化」を引き起こしたり、見つけたりすることなのです。
変化を引き起こすには、本人に「変化しろ」とはたらきかけるのではなく、仕事の側にはたらきかけます
そう、細かく分解するのです。
そして、変化を見つけるためには、「よく見る」ことです。
それも、なんとなく見るのではなく、「変化があると思って見る」ということです。
相手を信じる、ということですね。

変化について考えるときに大切なことは、「変化には、良いも悪いもない。変化している(行動)/しようとしている(意図)ことそれ自体が、すべて善」と捉えることです。
育てる側の価値判断を含めないということですね。
「良い変化」のみを見ようとする人がいますが、「良い変化」は「成果」です。
成果は出ればうれしいけど、水物です。
結果であって、育てる側がアプローチする場所ではありません。

まとめ

成長と成果と変化を分けて考える。
育てる側がやれることの精一杯は、変化を引き起こし、見つけること。
変化は、本人にはたらきかけるのではなく、仕事の側にはたらきかける、すなわち細かく分解することで引き起こす。
変化には良いも悪いもなく、変化している(行動)/しようとしている(意図)ことそれ自体が善。
唯一、悪なのは、「変化していない」ということ。
「変化していない」を、本人ではなく育てる側を主語にして捉えなおせば、「変化が見えるほどに解像度を上げられていない」という言い方になります。

次回は、本人の変化に対して育てる側がどうアプローチして、成長や成果につなげていくか、という内容を書こうと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?