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広島広域都市圏の新カルチャーとPBL オソトバレンタインフェス2024|Memo

2024年2月10日、広島・HIROSIMA GATE PARKで開催された「オソトバレンタインフェス2024」というバレンタインイベントに行ってきました。主催したのは安田女子大学公共経営学科のPBLチームの皆さんです。フラワーバレンタインというカルチャーを冬の広島から発信しようという挑戦的なこのイベントは、ひょっとするとピースフルな風物詩が広島に生まれる最初の日だったのかもしれません。この企画への僕の関わりはわずかなものでしたが、先生たちからお声がけを頂きこの日に至るまで、見聞きした範囲のことを忘れないようにまとめておきます。


5月|お声がけを頂き戸惑いと共感と

この企画は、安田女子大学現代ビジネス学部公共経営学科の「公共政策演習」という授業の一環で、社会連携型PBL(Project-Based-Learning)として取り組まれたものです。学科長の安東先生から5月に頂いた最初のメールには、今年3月にオープンした旧広島市民球場跡地の公園を利用した広島広域都市圏の地域活性化策について学生に取り組ませようと考えていて、矢ヶ部に一度オンラインで講義をして欲しい、進捗の中で必要に応じアドバイスもして欲しい、という旨が書かれていました。

正直戸惑いました。まったくピンと来なくて、広島は行ったことがなく土地勘はない。広島広域都市圏なんてスケールが大きい。HIROSHIMA GATE PARKという大きな公園を舞台に学生が取り組むなんて大丈夫なんだろうか…
あー、でもそうね、考え方捉え方次第では、このスモールスタートとしてテスト的にイベントを開催して、今後いかに継続的な活性化策にできるかを考えるという建て付けならあり得るのかな?など、ぐるぐるしていました。

テーマには戸惑う一方、このPBLという授業の趣旨には共感して大きく頷くところでした。次世代人材育成に何かしら関われる機会は貴重だという気持ちもありました。

安田公共PBLの特徴
(1) 問題解決のプロセスにおいて自己主導の学習態度や問題解決能力を育てることを目指す「プロセス重視型」ではなく、最終プロダクト (成果) を目指して問題解決を進める 「プロダクト重視型」である。
(2) 実社会で起こっている真正な問題解決に取り組むため、チュートリアル型の理想主義ではなく、現実世界で勝負できる「現実解」を提案する。
(3) 最終ゴールは「問題解決」ではなく「ビジョンの実現」である。プロジェクトを通して問題のない状態にするだけでなく、夢や希望のある未来の構築を目指す。

「まずはお話を」ということで、メールを頂いた翌週、オンラインで学科長の安東先生と一緒に担当される山田先生のお二人とお話ししました。不安も懸念もありながら、この日以降もメールでやり取りさせて頂き、結果このお話をお受けすることにしました。先生方二人を信じて関わってみよう、と。まるで漫才のような掛け合いも魅力的でしたし(そこじゃない笑)。

とはいえ講義でどんなお話をすればよいか、考えはまとまっていませんでした。

6月|弾丸視察に組み入れ現地で考える

僕には、年に最低一回、夏休みの宿題を片付けるような感覚で弾丸視察行程を組むという習性があります。この年は6月上旬、西日本方面の視察行程を考えていました。福山、姫路、和歌山、大東を半日単位で巡る弾丸行程でしたが、ひょっとして調整すれば広島にも立ち寄れるかもしれない。結果、東京→岡山(泊)→福山→広島(泊)→姫路→大東→大阪(泊)→和歌山→東京の3泊4日となりました。

初めての広島は、限られた時間の中、いわゆる「平和の軸線」を中心に歩きました。平和記念公園に資料館側から入り、慰霊碑や原爆ドームを抜け、公園の隣にあるおりづるタワーへ。屋上展望室からHIROSHIMA GATE PARKを眺めた後で、地上にも降りて今回の舞台を巡検。そのまま北へ抜けて建設中の新スタジアムを眺めつつ、広島市基町団地まで見て来ました(時間がないと言いながら『大高正人の仕事』巡礼としても、基町団地、行ってみたかったんです。多摩センター、みなとみらい21、全日本海員本部、坂出市人工土地に続き)。夜には、安東先生・山田先生に直接お会いすることもできました。

おりづるタワーの屋上展望室から眺めるHIROSHIMA GATE PARK

おりづるタワーの屋上展望室からゲートパークはよく見えました。展望室には海外からの旅行者も多く来ていましたが、パーク側を眺めているのは自分一人でした。パーク内はちょうどイベントの設営準備中で、プラザに人が入れない状態でした。スケートボード場でプレイしている数人が見えました。
地上に降りて横断歩道待ちの間は、パーク内を伺い知ることができませんでした。パーク中に向かっていくと、外で腰掛けて話している人たちや、テラス席でカフェっている人たちが目に入りました。女性同士か男女での2人組が多かった印象です。物販店舗の中にお客さんは0〜2人程度でした。大屋根ひろばでは『Pride展』が行われていて、2〜3人くらいずつコンスタントに人が来ていました。パークの北側へ抜けていく人はいませんでした。こどもひろばには家族連れが3組ほどいました。6月の平日15〜17時くらいの様子です。

ゲートパークの内側で何が行われているか外側から感じ取りにくいのが気になりました。ふらっと訪れるというより目的性が高いパークという印象を受けました。ゲートパークでのイベントをきっかけに、それ以降の日常的な動きに結びつけることを考えたり、ゲートパークで過ごすことができる新しい日常を少しずつ継続的に生み出すことを考えたり、大きなスケールと日常とをどう繋ぐかがポイントになると思いました。


7月|オンライン講義と妄想プラン

現地に行ってみた体感、今回のPBLの趣旨や先生方との会話などを踏まえながら、講義でお話しする内容は、おそらく『まちのありたいビジョン+ビジョンを日常的に体現する空間+良質なローカルコンテンツ』あたりを念頭におきつつ、事例紹介をするのがよいのではないかと考えました。

準備を進めていくうち、お前誰だよってなるから自己紹介もしないとね、東京・埼玉エリアの事例だからエリア感の補足もいるよね…と、想定していたより情報過多に。オンライン越しにインタラクティブなやり取りもできるといいな、なんて余裕は無くなってしまいました。いまスライドを見直したら、余分なスライドが沢山あって全然カットできそうです。ごめんねみなさん。

言葉の選び方ってむずかしいですね

いずれにしても「暮らしたい未来を妄想して、小さく始めてやり続けると、まちを変える政策になる」「楽しみながら続けよう!」そんなメッセージで特別講義を終え、後日、先生からメールを頂きました。添付されていたのは、学生たちがゲートパークを見学して気づいたことや妄想したことなどの妄想プランと、特別講義への感想や質問です。

妄想プラン。最初の妄想が無責任に一番楽しいですよね!
そこにはこれからの企画に向けたたくさんのヒントが詰まっていました。

・屋外であるという特徴を活かしたしかけ
・時間帯(日中・夜)により異なる特徴を意識したしかけ
・来場者に親子連れやペットが多いという特徴を捉えたしかけ
・「ずっと見ていられる」滞在型のしかけ
・広島広域都市圏のコンテンツ(生産品・スポーツ等)を活かしたしかけ
・開催日から生まれるストーリーに着目したしかけ

4つのチームのスライドからヒントとなる要素を拾ってみたメモ

そして妄想の次の面白さは、具体化していく面白さ。
最初の具体的なお客さん候補を見つけて対話したり、協力してくれるプレーヤーを見つけて対話したりすると、具体化する時の課題がはっきりしてきます。進めていくと最初の妄想のかけらも残らないこともありますが、でも本当に具体化するのだという手応えが面白さの源泉だと思っています。学生たちがそれを体験できるといいなと思いました。

質問もたくさん頂きました。いやそれ自分も知りたいです…と思うものもありつつ笑、真摯に受け止めお答えしたつもりです。

「現地を見てどうでしたか?」「多くの人に愛される空間にするには?」「どのように人を集めましたか?」「アイデアやビジョンを考えるコツは?」「広島県人の特性を活かしたヒントは?」「どのくらいまちに行きますか?」「人と関わるとき意識する点は?」「課題を克服するのに大事な点は?」「大学院で一番勉強になったことは?」「グループの意見対立における合意形成のポイントは?」

このやり取りの後、学生たちは夏休みに入りましたが、きっと企画の検討を進めていたのではないかと思います。

10月|学生たちのイベント企画提案

当初スケジュールでは、10月に学生たちによるイベント企画案プレゼンテーション回が予定されていました。学生の企画案についてアドバイザーからコメントし、ブラッシュアップしながら2月のイベント実施に向けて準備を進めていくというものです。

9月下旬、先生からプレゼン回に向けたメールが届きますが、メールには、学生の企画案はまだまとまっていないと書かれていました。学生たちは4つのチームに分かれてそれぞれで企画を考えたものの、これをどう絞ったり統合したりするか、その過程に苦慮しているということです。結果的に、プレゼン当日までの間にまとめることはできず、複数プランをそのまま提示してアドバイザーと意見交換することになりました。

アドバイザーは、HIROSHIMA GATE PARKからNTT都市開発の桑原さん、パークオフィス責任者の上元さん、そして僕の三人。プレゼンを聞いた後、なぜその考えに至ったかの背景を聞いたり、どのあたりが既存イベントにない価値に繋がりそうか、もし実施する際に懸念される現実的な課題は何かなどをコメントしていきました。

実は、それぞれの素材が結びついてイメージがうっすら浮かび上がったように感じた瞬間もありました。しかしそれが学生たちがやりたいことと一致するかは別の話です。

・広島は夏に平和を祈る一大イベントがあるが、冬には何もない。
・今回のイベント開催は2月、つまりバレンタインの季節。
・バレンタインは大切な人に気持ちを伝える機会。
・GWのフラワーフェスティバルは花で世界平和を発信。
・夜の焚き火やキャンドルなど、光の温かみ。
・写真映えするおしゃれな空間は、自然にSNS発信される。
・音楽や食事で楽しい空間。

先生たちと学生たちは引き続き企画案の検討を進めていくということでこの日は終了しました。これ以降、しばらく音沙汰ないまま時間が過ぎていきます。
1月下旬にイベント開催のお知らせメールを受け取った時は、ほんとうによかったと安堵しつつ、実は慌てて交通や宿泊の手配をしたことを正直に告白しておきます。

2月|オソトバレンタインフェス2024

ひろしまゲートパーク初となる学生主催イベント「♯オソトバレンタインフェス2024」を開催します

広島県では人口減少・少子高齢化に伴い、若年層の転出超過が大きな課題となっています。進学や就職を機に広島を離れてしまう若者と同世代である学生たちが「これまでにない新しいカタチのバレンタインイベントを実施することで、まちを盛り上げよう!」という思いから本イベントを企画しました。広域都市圏の自治体にもご協力いたただき、県民主体によるにぎわいの創出、圏域全体の活性化を目指しています。

若者たちの力で、ひろしまをもっと元気に――。
花と音楽とキャンドル、そして言葉の力を借りて、これまでにない「オソトバレンタイン」を広島の地から学生たちが発信していきます。

https://www.yasuda-u.ac.jp/course/public/news/page/2024.html より

OSOTO VALENTINE FES 2024.2.10
「ありがとう」
普段は照れて言えないけれど
花に込めたら伝えられるかもしれない
想いを言葉に
そしてあなただけの花に想いをのせる
愛を伝え感謝で溢れる
そんな時間になりますように
新しいオソト文化をゲートパークから。

イベントパンフレット より

花と音楽とキャンドルで感謝を伝える

イベントエリアに足を踏み入れると、正面真ん中のフラワータワーと、そのタワーを囲んでハート型に配置されたキャンドルが目に入ります。エリアを囲むようにキッチンカーが出店し、会場の一角にはテントとステージが設置されていました。テントでは、大切な人に生花やメッセージを送ろうという企画が、ステージでは、シンガーソングライターを招いてコンサート・トークショーが行われます。


(写真提供:安田女子大学公共経営学科PBLチーム)

また会場の一角には、広島広域都市圏の自治体の協力を得て、複数自治体の花が展示されていました。東広島市、邑南町、岩国市、三原市、熊野町、安芸高田市、大崎上島町、呉市。立ち止まって眺めたり、ポスターを読んだりする方もたくさんいました。

(写真提供:安田女子大学公共経営学科PBLチーム)

その端に、マネキンにデニムパンツを履かせ、バラの花びらをベアトップ型にあしらったカッコいい展示が。これは福山市の展示で、しかも市の職員が張り付き案内している。福山市は2025年に第20回世界バラ会議の開催を控えていることもあり、こうした積極的な動きが印象的でした。

10月プレゼン以降に何があったか

イベント中、学生たちや先生たちに今日までの話を聞くことができました。

膨らませた妄想から具体案に削っていくとき、学生たちは意見集約にだいぶ時間がかかったようです。学生たちは一人ひとりが納得でき自分ごととして関わることができるよう、あくまでも話し合いで決めていくことにこだわったと聞きました。話し合って話し合って、これは自分たちが決めたことだと思えれば、実施に向けた役割分担をしても他人事にならずに動ける。

また、これを見守る先生たちもなかなかタフだったようです。学生が先生へ個別の相談や愚痴や泣き言を言いに来ることも色々あったようですが、話を受け止めつつ客観視できるよう言葉を返したり、学生たち自身で決めていけるよう対応したと言います。誘導してしまえば早いところをグッと堪えつつ(議論を促進するための意見は投げ込むことはあったようですが)、さすがに途中でスケジュールアウトを覚悟することもあったそうです。

他にも、キッチンカー選定の経緯、開催時間決定の経緯、イベント協力者への連絡の経緯などなど、色々お聞きできました。イベント中に時間を割いて頂きありがとうございました。

イベントコンセプトや内容を伝えるパンフレット

実は新スタジアムこけら落としの日

実はこの日、たまたま新スタジアム「エディオンピースウィング広島」のオープニングイベントとして、サンフレッチェ広島vsガンバ大阪のプレシーズンマッチが開催されていました。イベント会場まで、応援のチャントが聞こえてきます。

左奥の白い建物が新スタジアム、中央は総合体育館

試合終了後、ゲートパーク内を通って帰る人も多く、しばらく人流が続いていました。

キャンドルナイトで静かな時間

夕方ちょうど風が強くなり、キャンドルに火を点けてもすぐ消えてしまうアクシデントに、キャンドル担当の広島大学ボランティアチームはLEDキャンドルを配置して対応。暗くなるにつれ、イベントエリア内に静かな時間が流れるようになります。

主催した学生たちもフラワータワーの前でハート型のキャンドルに囲まれながら記念撮影。うるさいことを言えば、イベントはあくまで一過性のもので、大切なのはそれをいかに今後の日常に結びつけるか。これからが本番だよというところなのですが、とはいえこの笑顔を見ていると「開催できてよかったね!」と労いたい気持ちでいっぱいでした。

(写真提供:安田女子大学公共経営学科PBLチーム)

帰り際、安藤先生と山田先生とそれぞれ話をしました。山田先生がこれまでの学生たちに寄り添って一緒に走ってきた日々を振り返りながら話をしているうち、目にうっすら涙が浮かんでいたりして、うっかりもらい泣きしそうになりました。いや、こうして書いていても目がぼやけてきます。
みなさん、本当にお疲れさまでした。

メディアの反応

メディアで取り上げられている様子を見ると、いろんな切り口があったのですね。フラワーバレンタイン普及の切り口、若者の県外流出からの切り口…なるほど。

楽しみながら続けよう!

今回、僕の関わりはわずかなものでしたが、先生たちからお声がけを頂き得た貴重な機会。この日に至るまで、見聞きした範囲のことを忘れないようにまとめました。読みやすさは二の次、伝えるというより、自分用の備忘録という意味合いが強い記事になります。

フラワーバレンタインというカルチャーを冬の広島から発信しようという挑戦的なこのイベントは、ひょっとするとピースフルな風物詩が広島に生まれる最初の日だったのかもしれません。はじめは小さな取り組みであっても、いずれ大きなムーブメントにまで結びつく。そんな射程距離を持った第一歩だったのかもしれません。

そんなイベントを当日、現地で体感することができて光栄でした。7月の自分のレクチャーがこの日のためにどれだけ資するものになったのか、正直大変不安に感じていました。でもそんなことは小さな話だなと考え直しました。10月以降の先生方の対応、学生たち自らの話し合いの様子などを聞いて、あらためてPBL(Project-Based-Learning)というのはすごい教育プログラムだなと感じました。

もちろん単なる打上花火で終わってはいけないところまでがワンセットですが、まずはここまで大変お疲れ様でした。そして、貴重な機会を頂きありがとうございました。引き続き頑張ってくださいね。

楽しみながら続けよう!

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