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社会が感情的になる

某大手寿司チェーンで、客が備品や醤油などをペロペロしている動画が拡散された事件が話題になっている。NHKのニュースでも取り上げられていた。

いわゆる、SNSによる「テロ動画」の一種である。アルバイトの従業員がこうした行為におよぶ様子を撮影したものは「バイトテロ」などと呼ばれるが、これはバイトではなく客だから、バイトテロという区分にはならないようだ。企業からしたら、完全に「招かれざる客」である。

もっとも、こういった迷惑行為を動画にして炎上するというのは今にはじまったことではない。元祖(?)は、コンビニの冷蔵庫のケースに入ってしまった人だろうか。そういえば、おでんツンツン男というのもいた。

調べてみると、コンビニのアイスケース事件が2016年の6月で、おでんツンツン男は同年11月だった。なので、コンビニアイスケース事件のほうが若干古い、ということになるが、どちらも2016年に起きていることなので、この年あたりから本格的にこういったものが話題になりはじめたのだろう。

「TwitterなどのSNSの登場によって、承認欲求に駆られてこういう犯罪をする人が増えた」と言う人もいるが、実際のところは、これまでにも存在はしていたものの、インターネットが普及していなかった時代には見えなかっただけで、ネットの登場によって単に可視化されただけだ、という話もよく言われる。

ファミレスでバイトをすると、もうファミレスで飯が食えなくなる、というのもよく聞く。頭の悪い学生が働く厨房では、バイトが食べ物に対して何をしているかわからない、というのである。気に入らない客に対して、提供する食べ物に何かよからぬことをする可能性がある、と。

しかし、SNSがあるからやった、悪ふざけの場として捉えてしまった、という人も一定数いることは事実だろう。「劇場型犯罪」のように、報道・拡散されることを前提にした犯罪も存在するからだ。

今回話題になっているのは、これによって被害を受けた某寿司チェーンの株価が下落し、時価総額にして168億円も失われた、という事実である。ただの個人客が動画をアップしただけでこれだけのインパクトがあったため、話題になっている。

ただ、これだけのことで株価が爆下がりするなら、当然この現象を悪用する人もいることだろう。ライバル社を蹴落とす、というよりは、株価操作の一環として、である。

暴落前のタイミングで空売りを仕掛けたらさぞ儲かるだろう。特殊詐欺グループなどは、当然のように思いつくのではないだろうか。

こうした行為を「テロ」と表現することがあるが、構造としては本物のテロリストによく似ている。イスラム国も、戦闘員のリクルーティングとして、ヨーロッパの精神病院によく行っていたらしい。

精神的に弱り、判断力が低下している人を、「世の中を正しくするための聖戦の世界」に誘い込むのである。今回の事件のような「テロ動画」の場合、精神的に弱い人は必要ないが、例えば小金で「無敵の人」を雇うことは可能だろう。

いろんな情報が流布してしまうインターネット社会と、株式市場は、じつは相性が悪いのかもしれない。社会全体が「感情」を持ってしまったかのようである。

社会システムは古来は個人の感情とはあまり関係ないところで存在していたが、現代では個人の感情が社会に反映されやすい、と言えるかもしれない。

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