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「若いのにすごい」は、別に褒めているわけではない

気づけば今年で37歳になるなと思った。僕の誕生日は8月なので、まだ若干の猶予がある。

猶予があるという言い方もなんだかおかしいか。でもなんか気づけば結構歳をとってしまったなという感じで、あれ、と思う。30歳の時は別に何とも思わなかったはずなのに、なんか37歳って結構おっさんだなと思う。

どういう巡り合わせかはわからないのだけれど、20代前半にその時勤めていた会社の海外事業部に配属され、中国現地法人を立ち上げた。そのとき、その法人の社長になった。

社長といっても自分の他にスタッフが二人いるだけの駐在所みたいな感じだったのだが、それでも20代前半でそういうことを任せられるのが珍しかったので、当時は仕事で会う人に驚かれ、「若いのにすごいですね」みたいなことをよく言われた。

額面通りに受け取り、調子に乗るというほどではないけれど、多少良い気がしていたのは否定できない。「若いから」ということで、いろんな人に面倒をみてもらったことも多い。

しかし、別に何かを成し遂げたということもなく、単にそういうポジションが与えられた会社員というだけの話なので、何もすごいことはない。肩書きだけあっても、自分自身が何も変わっていないことは、自分が一番よく知っている。

その頃はビジネスの経験も本当に全くなかったので、今の自分から見ると何もできないただの若造にすぎない。なので、純粋に実力という点から言えば、当たり前だがいまのほうがはるかに能力がある、と思う。

若くして頭角を現した人は「若いのにすごいですね」と言われがちだ。自分もふとした時に思いがけず相手が若かったりすると驚き、言ってしまうことがある。言われたほうは、これをどう受け取るか。

実際のところ、言われてもそれほど悪い気はしないと思うのだけれど、あんまり深い意味はそこにはない。単なる社交辞令というか、「とりあえず」という感じで言っているに過ぎない。それこそ、発言から五秒ほどで忘れてしまうような発言である。

場合によっては、「(いまはまだまだだけど、その若さにしては)すごいね」と言っているにすぎないこともある。これは、ただ単に舐められているだけだ。

将棋界に藤井聡太竜王名人という人がいる。有名人なのでもちろん知っている人は多いだろう。

棋士デビューをして29連勝をしていた頃は「すごい新人が現れた」みたいな扱い方をされていたのだけれど、ものの数年でタイトルを取った。今ではすべてのタイトルを制覇してしまい、しかも全く失冠する様子を見せない。前代未聞の強さで大活躍している。

一方であまり言及されることはないのだが、彼はまだ21歳で、プロ棋士のなかでもかなり若い部類に入る。いまだに、彼よりも若い棋士は数えるほどしかいない。

なので本来であれば、まだ「若いのにすごい」のカテゴリーの中に入るはずなのだが、もはや誰もそんな事は言わない。もう将棋界では類を見ないほど強くなってしまったので、「若いのに」という頭文字は不要なのである。もはや純粋に強く、おまけに若い、そういう状態になっている。

今自分が働いている会社は新卒を採用しておらず、すべての人が中途入社で入ってくる。給与形態は他の人には見えないランクがあって、それによって決まっている。当然、新入社員で自分よりも年齢が上の人も結構入ってくる。逆に20代ぐらいで入社して自分より年下なのに自分より上のポジションについている人もいる。

社内でかなり偉い人が自分よりも年下だと知った時は結構驚いた。しかし、年齢は自分から言わない限りわからないので、そういうこともあるのだろう。

能力や肩書きは年齢には全然比例しない。年齢が若いがゆえに苦労することもたくさんある。というか、昔の僕は結構そうだった気がする。

管理職をやっていた頃もあるが、自分が管理する対象の人は、自分より年上の人がほとんどだった。年上の人に言うことを聞いてもらう苦労はものすごいものがある。しかもそういった人たちの方がキャリア自体が長いので、実務においても自分よりも知識がある場合が多い。なったらなったで、苦労するのが出世というものだ。

最近自分が思っているのは、むしろ「若い人ほど能力が高い」ということだ。スポーツの世界をみるとわかるが、10代後半や20代前半くらいが身体の能力的にはピークで、30代になったら引退しなければならない種目は多い。もちろん練習を重ねたり、経験を積み重ねたりすることは必要で、アドバンテージにはなるのだけれど、基礎的な能力は若い人のほうが高いのだ。

ビジネスの世界では年長者の方がすごいと思われがちだけれど、若い人は若い人で新鮮な感覚を持っているし、能力的に優れた人は多い。むしろ年齢が上がってくると、「いかにして若い人から学ぶか」というのがテーマになってくるような気がする。

経営者でも、本当にすごい経営者は若い人と接触し、若い人から学ぶ。年寄り同士で付き合ってばかりいる人はどうしても保守的になるし、いわゆる「老害」というものになってしまう。

これから37歳になるので、「若いのに」という頭文字をつけられる事は昔よりは減るだろう。というか、もうないかもしれない。でも、それは全然悲しいことではなく、もともと「舐められていた言葉」だったのだ、と思う。

人は等しく歳をとる。若かった人も、そのうち老人になる。何歳になっても、頑張っていきましょう。

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