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唯一無二のカリスマ……

数年前、イギリスの伝説的ロックバンドである「クイーン」を扱った映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見た。ロックバンド「クイーン」の誕生から、フロントマンであるフレディ・マーキュリーの死までを追った映画の出来も素晴らしく、やはりクイーンというのは偉大なロックバンドだなと思った。

そのとき、クイーンの偉大さについて語っている人を何人か見たのだけれど、そのうちのひとつの意見として、「普通、人気のあるアーティストは、それを模倣したアーティストが追随してくるものだけれど、クイーンに似たバンドはない、それは彼らが真のカリスマだからだ」というような説を唱えている人がいた。確かに、技術的には「キラークイーン」や「バイツァダスト」を作曲し、歌える人はいるかもしれないが、映画のタイトルにもなっていた「ボヘミアン・ラプソディ」の、ロックとオペラを融合させるという大胆な楽曲をあれほどかっこよく作れる人々はそうはいない。

その説がすごいというよりは、やはりクイーンというバンドが「唯一無二」であることを自覚させるコメントではあった。

そういう観点で考えると、僕は宇多田ヒカルという存在を連想する。宇多田ヒカルはもはや伝説的と言ってもいいぐらいの人気のアーティストだが、「宇多田ヒカルっぽいアーティスト」というのを僕は寡聞にして知らない。

もちろんどこかにはいるのかもしれないが、メジャーなところではいないだろう。あれほど人気なのに、似たような商売をしてやろう、と考える人はいないのだ。

先日、たまたまYouTubeの切り抜き動画で、「宇多田ヒカルのOne last Kissを歌っていると、なんか山賊の宴みたいになってしまうのですが、どうすればうまく歌えますか?」という面白い質問に対して宇多田ヒカルが答えているというものを見た。

元ネタがわかると、「山賊の宴」の様子が容易に想像できて、抱腹絶倒してしまった。

この曲の、1:01ぐらいから流れる場面である。

その質問に対し、「このOh,Oh,Oh...というのは実は短くビブラートをかけているので、そうやったらうまく歌える」みたいな技術的なアドバイスをしていて、さすがだと思った。

しかし、こんなアドバイスを受けて、本当にうまく歌える人が日本に何人いるだろうか。明らかに、これは宇多田ヒカルが歌わないとカッコよく聞こえないはずだ。

宇多田ヒカルの楽曲は「カッコよく歌いやすいもの」ではなく、「宇多田ヒカルが歌わないとカッコよくならない」ものなのである。この曲に限らず、宇多田ヒカルの曲はそんなもばかりである。

そういうものを生み出していくのが真のカリスマなのだろうか。なんというか、大谷翔平とか藤井聡太みたいな、「突然変異型の天才」のような気がするのである。


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