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エンジニア思考、アーティスト思考

元・任天堂の社長である岩田聡は、プログラマー出身の社長だった。

現役時代は、かなり凄腕だったのだという。プログラマー時代の岩田聡の伝説的なエピソードはいくつもあるので、ネットでググったらそれこそ山のように出てくる。だから、いったんその部分は脇においておく。
 
興味深かったのは、彼は社長になっても、「経営」をプログラマー的な思考でこなしていた、という点だ。

つまり、どんな問題が発生しても、それを「解決すべき問題」だと考える。問題の本質を理解して、状況を最適化するにはどうしたらいいかを考える、というのである。プログラマー的というよりは、広義のエンジニア的な思考とでも言い換えられるだろうか。
 
社長になったばかりの岩田聡がまず取り組んだのは、社員一人一人との面談だったのだという。もともと多忙な人だったので、どこからそんな時間を捻出したのかわからないほどだった、というのだけれど、社員一人一人に対してかなり熱心に面談して、ヒアリングを行っていたらしい。

これも、会社員というのは会社にとって重要な経営資源になるわけで、チームで問題に取り組むことになる以上、必須のプロセスだと考えたのだろう。一回やったところ、かなり手応えを感じたようで、その後も定期的に行われたそうだ。


 
こういう考え方は、僕も仕事をする上である種の「救い」になっていて、何か仕事で行き詰まりを感じると、そういうスイッチを入れたりする。

つまり、仕事をしていたら、日常的にトラブルとか、本質的な問題を抱えて前に進めなくなることがあるのだけれど、エンジニア的なアプローチを意識すると、本質的なことが考えられるようになるのだ。障害が発生したときに、その問題が「回避されればそれに越したことはないもの」として考えるのか、「解決することに本質的な価値があるもの」とみなすのかで、取り組み方も変わってくる。

岩田聡は、おそらく後者であったはずで、そうやって考えることによって、自分にとってはずいぶん救いになっているのである。
 
実際、事業を進めていくといろんなことにぶつかる。例えば、チャンスがあると考えて飛び込んだものの、すでに協力な競合が存在するとか、市場そのものが縮小しているとか、コストが高すぎて商売にならないとか。

「できない言い訳」をはじめるとそれこそ無数に「できてしまう」ので、「いかにその問題を解決するか?」という視点でものを考える必要がある。

そうやって真正面から問題に取り組まないと、ソリューションというのは出てこないのかな、と。


 
エンジニアというのはそういうものの考え方をする。一方で、アーティストというのは、解を持たない。

映画でも漫画でも音楽でも小説でもいいのだけれど、芸術作品をつくるアーティストは、ある意味自分自身が納得することのできるものをつくる、というフワッとしたところが最終目標であり、そこに至るまでに道のりは果てしない。

「エヴァンゲリオン」を作った庵野秀明のドキュメンタリーを以前見たのだけれど、映画の「完成」がわからない中で、作っては試しを繰り返している姿勢は、アーティストそのものだなと思った。

エンジニア的なアプローチだと、目的というか完成形がある程度存在するけれど、目的地の見えないところに到達するためには、アーティスト的なアプローチというか、マインドも必要なのかな、と。
 
何かをする上で、「できない理由」というのは死ぬほどたくさんある。だから、理由なんて考えずに、ただソリューションにフォーカスする、というほうが楽しくなることは確かだ。

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