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「日本は貧しい国になった」のだろうか?

よくネットで議論されるネタとして、「日本はこんなに貧しくなった」というものがある。ありとあらゆるバリエーションがあるのでここでは列挙しないが、とにかく日本が貧しくなったと言いたい人たちである。

僕はこの手の言説は、大抵は左翼的な人がメシの種のために発言しているだけのように見えているのだけれど、「豊かさ」について考えることは大事だと思うので、少しこれについて考えてみたい。

日本は貧しい国になったのだろうか。それとも、豊かなままなのだろうか(そもそも、豊かなときがあったのだろうか?)。ネットでは、よく「北欧のほうがもっと豊かに暮らしている、それらの国のやり方を見習え」という意見が見られる。それについても少し考えてみる。

豊かさの指標として、例えばGDPなどの数字があるけれど、当たり前だがGDPを単純に比較しただけでは豊かさは測れない。まず、そんな単一の指標では表現しきれないことに加え、人々は「お金を稼ぐため」に働いているわけではないからだ。

「モノを買うのにお金が必要」というだけであり、いくらお金があってもモノがなければ何も買うことができない。ハイパーインフレなどで貨幣の価値がゼロに近くなると、札束を積んでもやっとパンが買えるだけ、という状態になったりする。ソ連の末期などは、紙幣がほとんど意味をなさなくなり、みんなタバコやノート、ペンなどの日用品や文房具を買い漁ってストックしておいたらしい。

「モノ不足」になると、お金の重要性が相対的に下がるのだ。日本が単体でいくらお金を稼いだとしても、何かの事情で石油が輸入できなくなれば一発でアウトである。どれだけ日本円を持っていても、あまり意味がなくなってしまう。

いま、原油高であらゆる物価が上がっているが、「物価があがる」というのは、それだけ「たくさんの日本円を出さないとモノが買えない」ということだ。日本円の価値が相対的に下がった、ということである。日本経済は石油に左右されているともいえる(やや極端ではあるが)。

究極のところ、お金がなくても暮らしていけるのであれば、お金は必要ない。田舎暮らしで、野菜の物々交換などが頻繁に行われ、それである種の経済のようになっている社会もある。

モノの価値は地域によって変わるので、そういったものがうまく回っていれば、そもそもお金なんてさほど必要ない、ということもあるだろう。もちろんそういう社会がいいというわけではなく、お金だけでは測れない指標があるということだ。

先に比較した北欧諸国と日本の違いとして、北欧は北方油田というのがあり、実は産油国だ、というのも要素としてあるだろう。日本は全く石油が出ないので、その点では比較しようがない。

日本の場合は、トヨタ自動車などのメーカーが頑張って世界でクルマを売り、そのお金で石油を買っている、という側面もある。それらの日本メーカーが立ち行かなくなったとき、日本社会はダメージを受けるだろう。

日本の豊かさを考えるうえで、あまり言及はされないが実は重要なものだと考えられるものとして、「水」があるのではないか、と思っている。日本は綺麗な水が豊富にあり、地下水などにも依存していないため、これはかなり豊かなことだと思っている。

綺麗な水があるということは、綺麗な山林があるということだ。中東の国々は石油は出るかもしれないが、衛生写真で見てもほとんど荒野みたいなところに住んでいるため、水はあまりないだろう。アメリカも、国土の半分は荒野みたいなものであり、かなりの水を地下水に依存している。これは日本が誇る資源のひとつだと考えることができるだろう。

日本は国土のほぼ全域が緑で覆われている
インド〜エジプトあたりは全体的に荒野である
アメリカ合衆国も、国土の半分近くが荒野である

だが、石油みたいなわかりやすい資源がないので、結構みんな律儀に働く必要がある。メーカーの工場で働く作業員にとって、律儀で、几帳面で、すでにあるものから改善をしていく勤勉さ、団結力などはプラスに働くため、それらを兼ね備えている日本人の特性は高度経済成長期には向いていたのだろう。

何が豊かさなのか、という問いには答えがない。数字などの指標ではなく、定性的ではあるが、自分が「豊かだ」と感じることが「豊かさ」のすべてだろう。

僕は、俗っぽい考え方ではあるが、近所のコンビニの品揃えがよく、常に新製品が供給されるのは豊かだな、と思う。たとえば缶コーヒーを飲もうと思っても、お店に行けばいくつも種類があり、安価にいろんなものを飲むことができる。

「発展めざましい」東南アジアの国にいっても、まだまだこういうレベルではない。身近すぎる例ではあるが、そういうところに豊かさを感じるのだ。

だから、水道水が飲めなくなったり、コンビニやスーパーの品揃えが悪くなったり、電車が時間どおりに来なくなったり、治安が悪くなったりすると、「貧しくなった」と実感するのだろう。現在のところは豊かだと感じるものの、今後どうなるかは全然わからない。それほど見通しは明るくないというのは、認めざるをえないところだ。

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