見出し画像

うつ病は「脳の病気」である

プロ将棋棋士である先崎学九段が書いた、「うつ病九段」という本を再読した。

コロナ副反応中に、何もする気力が湧かなかったので、過去に読んだ本を再読しよう、と思い立って手に取った。先崎九段は、羽生善治と同い年のいわゆる「羽生世代」の一角であり、漫画「三月のライオン」で監修も務めているベテラン棋士である。

うつ病というのは決して珍しい病気ではないが、「将棋のプロ棋士」というごくごく限られた職業の人がなるのは珍しいということで話題になり、ドラマ化もされた作品である。

いま、将棋を本格的に勉強しており、YouTubeでも将棋チャンネルなどを展開している中村太地七段などの知っている名前が出てくるので、かなり面白く読めた(初読のときは知らなかったので、特に記憶に残っていなかった)。

また、コロナワクチン副反応中というのは病気ではないものの、健康という状態に程遠い「エセ病人」の真っ只中だったので、「病気」という題材がかなりスッと入ってきて、その点でも深く本書に入り込めた。

しかしそれ以上に、「うつ病」というものについてあらためて考えるいいきっかけになった。


 
うつ病というのは心の病気だと思われているが、じつは「脳の病気」である、というところが印象的だった。

その詳細については本書では語られないものの、自分なりに解釈してみると、「心=精神」の問題というよりは、「脳=計算をするための器官=計算機」の障害、ということなのかな、と思った。もちろん、心と脳は完全に違うものではなく、脳の一部が「心の機能」も司っているものだとは思うが、たとえば精神的にショックなことがあったとか、そういうことだけで発症するのではない、ということだ。
 
うつ病の発症のメカニズムはまだ詳細には解明されていないが、慢性的なストレスが原因だと言われる。うつ病を発症した先崎九段も、発症当時は棋士としてのみならず将棋連盟の理事として多忙にしており、また、将棋連盟そのものが「将棋ソフト不正使用疑惑騒動」で荒れていた時期だった、というのもあるらしい。

ここからは僕の想像になるのだが、「うつ病」というのも、いわゆる脳の機能のひとつであり、慢性的なストレスから身を守る防衛本能のようなものではないか、と思った。いわば、コンピュータのセーフモードのようなもので、機能=知能を大幅に低下させることで、ストレスから身を守るのだ。
 
一般の人は、知能が多少下がったとしても、それを日常的に実感することは少ないが、先崎九段は将棋の棋士なので、「棋力」というわかりやすいバロメータがあり、それによって症状の進行や回復度合いが測れるのが興味深かった。

通常であれば1秒もかからないアマチュア向けの「7手詰め」の詰将棋が解けなかったり、平手で指したら1万回指しても負けないアマ初段との対局に苦戦したりする。本当にひどい状態だと、将棋どころか、新聞の見出しを読んでも意味が入ってこないのだという。

それが回復してくると、だんだんプロ棋士の対局が見れるようになり、対局もまともにできるようになっていく。脳=計算機としての障害、といっても、もちろん乱暴ではあるが、あり得る話だと思った。


 
自分も、実は一年半ぐらい前(転職する前)は、仕事のストレスが非常に大きく、いま思えばごく軽度のうつ状態だったかもしれないな、と思う。当時は、思考能力が通常の状態と比較すると落ちていて、些細なミスを繰り返したりしていた。仕事をやめると決めてからはすっかりストレスもなくなって、またパフォーマンスは戻ってきたのだが。
 
「自分はならない」と思うのは無根拠な話で、「誰にでも起こりうる」、つまり「脳=計算機の障害」なのだということを自覚することが必要かな、と思う。現代では珍しくない病気だというのは、それだけストレスフルな社会なのだろう。

病気になって体調を崩すと、持ち直すのに時間やお金がかかるのはもちろん、周囲に多大なる迷惑をかけるので、決して無理はしてはいけない、とあらためて思ったのである。

サポート費用は、小説 エッセイの資料代に充てます。