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おにくちゃんbot

東京都 Dさんから聞いた話。

Dさんは20代の女子大生で、この話は彼女が高校生の時に体験した話だ。

ある日の放課後、Dさんと友人は、帰宅途中に某ハンバーガーチェーン店に寄った。放課後にどこかに寄って、最近あったことや将来のことなど、たわいもない会話をすることが、彼女らの楽しみだった。話している最中、友人がふとしたすきに、テーブルに置いてあったスマートフォンを床に落としてしまった。友人は慌ててテーブルの下に潜って、スマートフォンを拾い上げようとした。

「あれ?何これ?」

そう言いながら、友人は体を起こした。手にはスマートフォンの他に、3〜4センチ四方の紙を持っており、その紙をテーブルの上に乗せた。紙には、スマートフォンのカメラで読み込む「QRコード」が白黒で印刷しており、それ以外は何も書かれていなかった。

「ねえ、これ読み込んでみようよ。」

Dさんは好奇心から、スマートフォンを取り出して、その紙に印刷されてあったQRコードをカメラでスキャンし始めた。友人は「何があるかわからないから」と止めていたのだが、当時は気に留めていなかったという。

QRコードを読み込むと、URLが表示された。どうやら、Dさんが利用していた某コミュニケーションアプリのアカウントのようだった。URLを開いてみると、「おにくちゃんbot」という名前と、かわいいキャラクターのアイコンが表示された。botとは、プログラミングを用いて作られた自動発言するシステムであり、人が操作しないでも会話ができるアカウントのことだ。アプリ上でそのbotを自分の「友達」として追加できるようだったので、Dさんは面白半分で追加ボタンをポチりと押してしまった。

「やめたほうがいいって。」
「大丈夫だって。なにかあったらブロックすればいいし。」

Dさんが友人の制止を振り切って追加すると、すぐに「おにくちゃんbot」からメッセージが届いたので、友人と一緒にそのbotと会話をしてみることにした。

「こんにちは、おにくちゃんbotです!質問に答えてくれれば、あなたにオススメのお肉料理を提案します。」

すぐにひとつめの質問が届いた。

「はじめに、今あなたがいる場所を教えてね!近くのお店を探すよ!」

Dさんは自宅から遠く離れたハンバーガーチェーン店にいたので、深く考えず、自分のGPS情報を送信した。

「〜〜にいるんだね。第2問!どんな種類のお肉が好き?牛肉?豚肉?鶏肉?」

これにもDさんは何の気なしに「豚肉」と答えた。

「豚肉だね。第3問!これはなんでしょう!」

ピコン、という音とともに、画像が送られてきた。写真のようだったが、ほとんど真っ暗で何が写っているかわからなかった。Dさんは「わからない」と答えた。

「第4問 じゃあ、これはなんでしょう」

またピコン、という音ともに画像が送られてきた。先ほどと同じような写真だったが、今度は少し明るく、おそらく男性だろうか、人の形をしたものがぼんやり写っていた。少し気味が悪かったが、とりあえず「わからない」と答えた。しばらくすると返事がきた。

「5もんめ この肉がどうなってもいい?」

Dさんはゾッとした。質問の意味がわからないし、文体もさっきまでとは異なる。質問には、「はい」と「いいえ」の選択肢があった。一緒に見ていた友人は、泣きそうになりながら、もうやめようと言っていた。しかし、このまま放置するのも気持ちが悪かったので、「いいえ」を押して、友達設定を解除しようとした。そのときだった。ピコンと音が鳴り、通知には「音声ファイルが送信されました」と書かれていた。質問ではなく、音声が送られてきたので、気になってメッセージを開いてしまったDさん。プレイヤーが立ち上がり、音声が再生され始めた。

「ヒッ やめてくれ」
<ゴトッ ボコッ>
「アァァァァァァァァァ助けてェェ」
<バキッ>
「ヤダアァァァ」

男性の悲鳴と、何か硬いものを叩いたり折ったりするような音が、スピーカーから聞こえた。恐怖のあまり、Dさんも友人も動けなかった。そのあとに<ドンッ>と何か硬いものが落ちる音がしてから、悲鳴は聞こえなくなった。そこで音声がぷつっと途切れていた。

何が起きているのかを想像するのは難しくなかった。Dさんたちは、さっきまで音声が流れていたスマートフォンから、しばらく目を離せなかった。そして、最後のメッセージが届いた。

「おい肉、今から行くからな」

二人は顔を見合わせた。これは、おそらくbotのふりをした人間だ。そして、この音声を録った人物が、この場に来るのだ。そう思った。最初に居場所を教えてしまったし、Dさん自身のアカウントには自分の顔も載せていたので、相手に自分たちのことも居場所も知られてしまっている。Dさんたちは、すぐにそのアカウントをブロックし、急いで店から出て、帰宅した。帰宅してから家族に話したのだが、会話の記録もすべて見られなくなってしまったこともあり、真面目に取り合ってくれなかったそうだ。

もしDさんが家で「おにくちゃんbot」を使っていたら、もしはやく逃げていなかったら、彼女達も同じような仕打ちを受けていたかもしれない。いまでも思い出すと、不安で眠れなくなってしまうそうだ。やつが現れるんじゃないかと。

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