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プロダクトづくりに活きる4つの視点と行動法「解像度を上げる」

長らくサボっていた書評ブログを1年ぶりに再開することにしました。積読量もすごいことになっているので、徐々に読みたい本を消化しながら書いていこうと思います。続くように、なるべく軽く、ゆるく。

今回は、私がプロダクトマネージャーとして勤めている株式会社Shippioのプロダクト組織では必読書認定がされた「解像度を上げる」です。
名著でした。3年くらい前に読んどきゃよかった…

本を読む前からこちらのSpeakerDeckスライドは何度も見て参考にしていたのですが、より詳細な内容が記されるということで手に取ったところ、何度も読み直したくなる良書でした。
スタートアップむけの指南書ぽい体裁ですが、特にプロダクトづくりに携わる人間にはおすすめできる内容です。

ビジネスの現場では「ふわっとしてて前に進まない、次の判断ができない」みたいないわゆる”解像度が低い”と感じるシーンが多々ありますが、そういう曖昧な状況・思考をより明晰にし"解像度を上げる"方法を「深さ」「広さ」「構造」「時間」の4つの視点で解説しています。

なぜプロダクトづくりに携わる人間にとっておすすめかというと、プロダクトづくりは

  1. 課題の解像度を上げる活動

  2. 解決策の解像度を上げる活動

  3. 課題・解決策の仮説検証と学習を通して、顧客価値を生む活動

の繰り返しだからです。

本書では、上のうち1と2についてかなり細かく記載されているので「あれ、自分の今の解像度低くないか?」と感じたら立ち直れるような一冊になっています。

以下、本書から印象に残った点を抜粋・コメントしておきます。(順番めちゃくちゃなメモなので文脈がわかりづらいことはお許しください)

研究者が論文を書くときには、まず「分かっているところ」を調査で明確にすることで、「まだ分かっていないところ」を把握します。つまり、まずは「分からないこと」をはっきりと言える状態にするのです。そのうえで、複数ある「分からないこと」の中でも、相対的にとても重要な部分を特定し、解決策となりうる仮説を立てて検証することで、「まだ分かっていないところ」の謎を解き明かしていくというのが、研究者に求められる解像度の高さ

これはまさにプロダクトディスカバリーにおいても全く同じことが言える。

解像度が高いときには、 ユニークな洞察があります。その内容をはじめて聞いた人が、驚いてくれるでしょうか。驚かれないのであればまだ解像度は高くないかもしれません。人に話してみて、「で、何なの?」「それって何の価値があるの?」 という反応があったら、つまり 人からSo what?を問われた ときも、ユニークさがまだ足りない状況です。

「競合はいません」 というのも、調査不足で競合への認識が甘い可能性が高いです。もし本当にいないのであれば、そもそも顧客が解決したい課題がない、つまり市場がないということかもしれません。顧客に課題があるのであれば、競合製品がなかったとしても、顧客が課題解決に使っている代替品があるはずです。 代替品が何で、顧客は代替品のどの点に不満を抱えているのかを明確に言える のが、視野が十分に広く、さらに構造化と深さが十分にある状態

解像度が低いときの典型的な症状をもう一つ挙げるとすれば「既存のアプリが使いづらい」から「使いやすいアプリを作る」、「情報が足りていない」から「情報を提供する(メディアを作る)」、「採用ができない」から「人のマッチングをする」、「製品の認知度が低い」から「認知度を高める活動をする」など、 抽象的な課題に対して、その課題をひっくり返しただけのような安易な解決策を提案している ケースです。

筆者の経験則では、 7~ 10 ぐらいのレベルの深掘り ができていないと、重要な洞察を得られず、有効な解決策を導くこともできないようです。ただ、多くの人はレベル2~3の深掘りに留まり、すぐに解決策の検討に入ってしまいます。

解像度の「深さ」が不足している時にでる言葉には一定のパターンがあるので、こういう言葉を聞いたら疑う、あるいは、7段階まで深ぼる。

高い解像度には、「情報」と「思考」と「行動」の組み合わせ で至ることができます。

情報と思考と行動のすべてのレベルが高いことが理想です。しかし、解像度を上げるうえではまず、 情報や思考がまだ粗い状態でも、行動量を増やす、つまり、とにかく最初に行動しはじめることをお勧めします。なぜなら、行動することで、 周囲や市場からのフィードバックという、本やインターネットではなかなか手に入らない情報 を得ることができるからです。

実際、優れた起業家の多くは、行動量と手数の多さが圧倒的なだけではなく、情報と思考と行動の反復スピードも優れています。「事業化するには、1週間で5件の新規顧客が必要ですね」とアドバイスされれば、その日のうちに飛び込み営業をするぐらい、情報と思考と行動の距離が近いのです。

ググればなんでもわかる時代だからこそ、ユニークな洞察・高い解像度を得るのに最も大事なのが「行動」。プロダクトづくりにおいても、(例えばvertical SaaSの世界では)業界知識をつけることも大事だけど、何よりもまずは足を動かして顧客と話して顧客と課題を理解することが第一。

ここまでは「解像度が高い」ことがすなわち良いことである、という前提でお話ししてきました。しかし解像度は高ければ高いほど良いというわけでもありません。どの程度の解像度が必要かは、 最終的にどのような問いに答えたいか、つまり目的によって異なります。 解像度を不必要に上げようとして、時間を使いすぎない ように気をつけましょう。

目的を達成するために必要な最小限の条件を満たすことを「サティスファイス」と呼ぶことがありますが、このサティスファイスを意識できないと、必要以上に情報を集めてしまったり、不要な労力をかけてしまうことになります。目的の達成のために必要な解像度はどれぐらいなのかを常に自問自答しながら、解像度を「十分に」上げていきましょう。

それな!超大事。難しいけど。目的と問いが上段にあって、その達成のために解像度を上げるのであって、「解像度を上げるために解像度を上げる」みたいな状況に陥るとダメ。時間は有限。

本書では以下の3点を満たす課題が、良い課題であると考えます。 ①大きな課題である ②合理的なコストで、現在解決しうる課題である ③実績をつくれる小さな課題に分けられる

名著「イシューからはじめよ」を思い出す。改めて大事。書籍内の記述はかなり詳細に分解して解説してくれているので、必読。

ビジネスであれ、研究であれ、勉強であれ、ほかの領域であれ、 解像度が低い原因は単に情報不足・情報整理不足 である場合が多いのです。これは当然のことではあるのですが、良質な情報の獲得を意識する人はそう多くないようです。

解像度の「深さ」を上げるための良質な情報収集・整理について、かなり詳細に記述があるので、ぜひ本書を読んでほしい。以下は抜粋。

もしインタビューで抽象的な答えが返ってきたら、具体的な答えを求めてみましょう。 数値で返してもらうようにするのも一案です。たとえば「その課題はまあまあ大変ですね」と言われたら、「0点から 10 点の数字で言えば、どれぐらいですか?」「他の課題と比べて、どれぐらい大変でしょうか?」と食い下がってみましょう。

インタビューでは「隙あらば深ぼる」「曖昧さを残さない」「課題を定量化・比較可能な状態にする」

企業向けサービスのインタビューは、 課題を持つ現場の人、決裁権のある管理職の人の両方 にしましょう。決裁権のある人にアクセスしなければ、購入の判断の軸が分かりません。一方で決裁権のある人が現場の課題をきちんと正確に把握できているとは限りません。時々あるのが、管理職や決裁権のある人の話をよく聞いたので、購入はしてもらえたものの、現場の課題やワークフローとは合わず、使われない製品を作ってしまうこと

わかる………. これは自分も失敗したことあるやつ。

さらに深めるのに使えるのが「Why so?(なぜそうなのか?)」 という問いです。Why so?と繰り返し自問自答することで、課題の真因を探っていくことができます。顧客にWhy so?と問うことで、答えが得られることもあるかもしれません。しかし、ある時点からは顧客自身では理由を答えられなくなってくることが多いため、自分たち自身でWhy so?の問いに答えていく必要があります。もし他の人が辿り着いていないWhy so?の答えが得られたら、それはあなただけの洞察になります。

「ある時点で顧客が理由を答えられなくなる」というのは本当にその通り。いかにここを超えてもう2~3段階深掘りできるかが大事。

解像度を上げていくときには 一般的な言葉に気を付けましょう。 たとえば課題を「飲食店は書類処理の非効率に苦しんでいる」というとき、「苦しむ」という一般的な言葉には様々な苦しみが含まれます。

これは社内でも話題になった一説。例えば「書類管理が大変」というのは課題の解像度が低すぎる。"書類管理"と"大変"のそれぞれに対して、分解と深掘りが必要。

優れた起業家はこのようにマクロの市場の視座とミクロの課題の視座、ユーザーと競合の視座、未来と現在の視座、ビジネスと物理と社会のレンズなど、視座の切り替えを高速で行いながら、自分の仮説の正しさを検証し、もし正しくなさそうであれば別の仮説をつくりあげているのです。特にマクロとミクロを行き来できることは大切です。市場などのマクロの視座からの分析は上手にできるのに、泥臭く現場に足を運びミクロな視座に立った経験が少ないがために、顧客の具体的なニーズを掴めず、実際に売れる製品や事業を作れない、という人をしばしば見かけます。

現在ではなく、未来の視座から現在を見ることで、新たな視野や視点を得られることがあります。たとえば、 将来のあるべき姿を考えて、そこから逆算して現在やるべきことを考えるバックキャスティング という方法があります。   プレモーテム(事前検死、死亡前死因分析( 2)) と呼ばれる手法では、「半年後、このプロジェクトが大失敗に終わったとして、その原因は何か」を考えます。

解像度における「広さ」の話。起業家に限らず、ビジネス・開発・顧客の交差点に立つプロダクトマネージャーにも同じことが言える。

構造を見極めるには、まず 渾然一体となっているものを要素に 分け、それぞれの要素を 比べ、要素間を適切に 関係づけ ながら、重要でないものを 省く ことです。

絶対量や比率などの次に比べるのは重みです。ここでの「重み」とは全体への影響度 のことです。「結果の 80%は、 20%の原因から生み出されている」という有名な 80 対 20 の法則があるように、 取り組む価値のある重要な課題はたいてい 10 あるうちの2、3程度 です。
顧客が本当に困っている切迫感のある課題、つまり、前述したバーニングニーズは、顧客にとってかなり重みのある課題だと言ってよいでしょう。さらにスタートアップの場合は、「 そのバーニングニーズを解決すれば、その上部にある課題もどんどんと解決されていき、最終的に大きな課題を解決できるようになる」といった時間軸を考えたうえでの重要な課題、つまり、事業展開を見据えたうえでの重みも考える必要があります。

上記は解像度における「構造」の話。プロダクト戦略に直結する部分。

多くの人はこうした指数関数的な変化を認識しづらく、物事は直線的に変化すると捉えてしまいがちです。逆に 市場やユーザーの指数関数的な変化に初期に気づくことができれば、最終的に大きくなる市場にアプローチできます。こうした変化が起こるときには、あまりに長い単位での時間の変化を見ていると、足元で起こっている重要な変化を見逃してしまいます。ときにはミクロな足元でどういった急激な変化が起きているのかを見るのは、課題の解像度を上げる上で有効です。

解像度における「時間」の話。例えばコロナ禍でのサプライチェーン大混乱、直近のGenerative AIブームなど急激な変化があった時、長期の目線だけ持っていても色々と見誤る。

良い解決策の条件を3つ挙げるとすれば、以下のようになります。 ①課題を十分に解決できる ②合理的なコストで、現在実現しうる解決策である ③他の解決策に比べて優れている

ここでポイントになるのは、 十分に解決ができれば良い、ということです。近距離の移動をするためには、音速ジェット機を作る必要はなく、バスがあれば良いように、課題を十分に解決できさえすれば良いのです。課題では大きさが大事でしたが、解決策は課題に対してちょうど良い大きさを狙うほうが良い

研究開発や新製品の企画の現場では、「より高性能で、より安いものを開発する」ことを追求して、課題に対してオーバースペックな解決策を作ってしまうことがしばしばあります。こうなってしまう背景には、顧客の求める最低限のスペックを把握できていない、つまり 課題の解像度が低く、うまく課題を選定できていない、ということがあるように思います。

良い解決策の条件、改めて大事。課題に対して「ちょうど良い大きさ」の解決。そして時には「ジャストフィットしない」=「あえて全てを解決し切らずに余白を設ける」ことも大事だったりする。

「ハンマーしか持っていなければ、全てが釘に見える」ということわざがあります。ハンマーという一つの手段にこだわるあまり、そのハンマーをむやみやたらにすべての課題に適用しようとしてしまう傾向を指摘したものです。(中略)しかし逆に考えると、ハンマーに限らずたくさんの種類の道具を持っていれば、たくさんの「その道具で解決できるかもしれない課題」のパターンを見ることができるようになる、ということでもあります。

解決策を広く知らなければ、課題を解決できることに気づけない のです。

あらゆる解決策を知っていること、引き出しに持っていること、が解決できる課題の特定に活きる。

解決策の解像度が高いときは、たくさんのアイデアを考慮したうえで、その中の多くが捨てられているので、「やるべきことが十分に少ない」はず です。ただし、単にやっていることが少ないだけではなく、選んだ少数のやるべきことに強度高く取り組めているかどうかが重要です。

たとえば、ヘアカット専門店のQBハウスは洗髪をするというサービスを捨てることで、水回りの設備がいらなくなり、店舗開設時の工事費用を大幅に圧縮しました。さらに、水回りの設備がないことで、比較的狭い場所でも開店でき、駅前などにも出店できるようになりました。その結果、回転率が良くなり、低い単価でサービスを提供でき、その結果さらに人も集まる、という好循環を実現しました

何をして何をしないかという取捨選択、つまり トレードオフをあえて作ること がビジネスでは求められます。割り切った仕様にして価格を下げてシェアを取るという戦略も、捨てることです。品質や技術が市場から求められているものとは限りません。正しく市場の要求を分析して、その要求に見合う仕様を見つけ、それ以外をあえて捨てましょう。

あえてトレードオフを作る話、QBハウスの話は頷きが止まらなかった。高品質や多機能を顧客が求めているとは限らない。あらゆる選択肢を捨てた上で、解くべき課題にフォーカスを定めた解決策となっているか。

スタートアップの世界には「スケールしないことをしよう」という言葉があります( 3)。スタートアップは最終的にスケールして急拡大することが目的なのに、初期はスケールしないことをする、というのは少し不思議に聞こえますが、 スケールしないことをすることで、顧客と直接触れ合うことができ、顧客の解像度が上がる のです。

食事のデリバリーを行っているDoorDashという米国のサービスを見てみましょう。スケールする事業をするには、配達員向けのシステムを作ったり、配達員を雇ったりする必要があります。もしそれを最初から実現しようとすると、実際にサービスをローンチするまでに数か月以上の時間が必要だったかもしれません。しかしDoorDashの創業者たちは、初期は自分たちで配達をしました。そうすることで、アイデアを思いついてから数時間後にサービスを開始し、配達する中で顧客と直接対話して、どのようにサービスを改善すれば良いかを聞いて、改善のサイクルを回していったのです。

むしろ 初期の段階では、売上という成果よりも、学びを得ることが重要 なのだと認識しましょう。スケールしないことをして、解像度を着実に上げることが差別化の源泉となり

DoorDashの話、好きすぎる。「スケールしないことをしよう」については是非本書を読むか、著者作のこちらのSpeakerDeckスライドを参照ください。

とまあ、本当は無限に抜粋紹介したい箇所があるのですが、今回はここら辺で終わります。この本自体が「解像度を上げること」について解像度が超高い本になっているし、改めて大事だと認識させられることも多く、実践的な内容になっています。
自分の場合、過去1年は「深さ」に集中していたけど「視座/広さ」「構造」「時間」あたりは改善の余地大きいなーとか考えながら読み進めました。

改めて、おすすめの一冊です。


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