「以前／以後」で切り分ける

最近考えていることのメモです。

何か大きな出来事が起きたときに、それを起点に時代を「以前／以後」で切り分けて考える方法がある。震災以前と以後とか、戦前と戦後とか（＊１）。

震災前は物をため込んでいた人が、震災が起きて物をため込むことの虚しさというか、物は一瞬にしてなくなることに気づき、物をため込むのをやめる。いま大事にしているものだけを手元に残す方針に切り替えて、震災以後を生きていく。

戦前は軍部に平伏して、鬼畜米英を叫んでいた人が、戦争が終わると戦前をの軍部を全否定し、アメリカの文化や思想にどっぷりと浸かっていく。鬼畜米英と叫んでいたことはすっかり忘れる。

新型コロナウイルス（＊２）に関しても、以前と以後で分ける考えがすでに出てきている。特に言い始めるのは、ビジネス界隈の人だ。なぜ言い出すかといえば、おそらく、人の生活が変わるとそこにビジネスチャンスが生まれるからだろう。確かに変わるかもしれないが、「ポストなんとか」とまで言われてしまうと、ぼくはわりと冷めた気分になる。ハゲタカ感がすごいのである。ぼくは本物のハゲタカは好きだけど、人がハゲタカの真似をするとえげつない。（＊３）

以前と以後で時代を切り分けて、「以後の商機を探り、サバイバル戦略を練ること」よりも大事なことは、「以前」に大事にしていたものってなんだったっけ？？と思い返すことだと思う。

「以前」に大事にしていたものは、「以後」でも同じように大事なはずで、もし「以後」に大事じゃなくなるなら、元々価値がないものだ。
そして、「以後」に急に価値が上がってきたものは、また何か別の事件があったときには価値が下がっていく。相対的な価値しかない。ぼくは、そういう相対的な価値に踊らされたくない。ダンスを踊るときは、踊るぞと自覚して踊りたい。

たとえば、震災以後に「絆」が叫ばれはじめた。
コロナウイルスの影響でその「絆」も切り離されそうな気がするけど、もし「絆」がホントに大事なものなら、感染が拡大していても大事さに変わりはないはずだ。もし感染が拡大したときに、絆より我が身の安全が大事だと思うなら、自分の安全のほうが、元々絆より大切なものだったのだと思う。そしてぼくは「絆」には元々ほとんど価値はないと思っている。「絆を大事に」と高らかに叫んだ瞬間、もうそこに良い関係は生まれない（＊４）。

また、ミニマルな生活というのも、どこまで通用するか怪しいところである。ロックダウン下ではミニマルな生活は不可能だ。ミニマルな生活は、物流がグローバルに、かつ格安で行われていることを前提に成り立っていて、交通が遮断されたり、非正規労働者がストライキを起こしたりすると急にできなくなってしまう。

本当に大事なものは大きな出来事の「以前／以後」にかかわらずずっと大事で、それほど大事じゃないものは、時代によって上がり下がりする相対的なものだ。だから価値の上がり下がりに一喜一憂せず、大事なものだけを見定めていくことが、今後も平穏に生きる上で大事なことなのではないかと思う。

自由とか民主主義とか、多様性とか持続可能性とか、そうやって大事だと言われてきたものが、時代の転換期には「本当に価値があるか？」という試練を受ける。ぼくはいま挙げた4つのうち、自由、多様性、持続可能性は普遍的に大事だと思っているので、コロナウイルスに関しても、多様性とか持続可能性の観点から考えている。民主主義についてはまだよくわからないが、全体主義よりは自由を守ってくれる。

「大事」という言葉を使いすぎて読みにくい文章になっていると思うけど、特に書き直さずに終わる。

＜以下補足＞

（＊１）戦前・戦後とはいうけど、戦争開始前・開始後とは言わない。戦争は正式に始まる前からすでに戦争状態だから、起点が曖昧になり、切り分けることができないのかもしれない。

（＊２）新型コロナウイルスは正式には「SARSコロナウイルス2（つー）」と呼ぶらしい。SARSはシビア・アキュート・レスピレイトリー・シンドロームの略で、直訳すると重症・急性・呼吸器・症候群。呼吸器系に影響のあるウイルスらしい。本当は、略して「サーズ2」あたりで呼んだほうが良いと思うけど、コロナが呼びやすすぎてコロナと呼んでしまう。

（＊３）大きな出来事は、ゲームのルールが変わるタイミングではある。ビジネスという名のゲームのルールが変わるので、そのルールにいち早く適応したほうがサバイバルでき、かつ、儲けられるという算段である。個人的にあまり興味が湧かないところではある（当然お金は必要だけど）。

（＊４）「おいおい、友達だろ？」と言って近寄ってきて、ひとしきり話した後「今度の選挙はここに入れてくれない？」と言ってくるタイプの人がいる。偏見だけど、こういう人は「絆」という言葉を好むような気がする。絆そのものではなく、絆から生まれる別の「利益」を掴み取りたい気持ちが溢れ出ている。